始まりに向かって
何かが壊れていく音を聞いた気がした。
もう元には戻れないほどに粉々に砕けてしまった音を。
ローゼディスク公家の王都にある邸宅の一室に主の娘レイシアはいた。
「姫様、グローリア公が今、旦那さまとお話をなさっているそうですよ。」
本を閉じ、紅茶を運んできた亡くなった姉の乳姉妹ラーナを振り返る。
「フレック兄様が?」
「ええ。旦那様と難しいお話をされているそうですわ。しばらくしたら姫様をお呼びになるそうです。」
「私を?お父様とのお話なら国に関わることでしょう。」
ラーナは何やら考えて、思い出したように手をたたいた。
「恐らく、陛下と寵姫のことではないかと…。城では今、陛下のご結婚に対する噂で持ち切りだそうですよ。」
レイシアも陛下と寵姫の噂は耳に入っていた。
あの女嫌いの陛下が唯一目に留めた女性。
でも、フレック兄様は寵姫を気に入らず陛下と対立しているとの噂もつい先日に耳に入ってきた。
ローゼディスク公家に回る情報は早い。ローゼディスク公家の秘密の一つのお陰だ。
今は家を留守にしている兄ジェラルドは外交官として他国に名が広まるほどの腕前で他の国を牽制している。故に皇族であろうとローゼディスク公家に敵対する者はいなかった。
レイシアは今の皇家の状態をお父様が静観している訳がないと考えた。
お父様は皇家に対し口を出すことは殆どない。しかし国に関わるとなれば陛下を敵に回してでも行動に移す。普段は物静かで温厚だが、内に牙を隠し持っている。それがローゼディスク公家の当主の姿だ。
何かしらの策をフレック兄様と講じているんだわ。
でも、呼び出すということは私にも関わりがあると取って良いのかしら。
何か良くないことが起きている。
国にとってか。
家にとってか。
私にとってか。
急に襲う寒気に震えながら、呼ばれる時を待った。
また少し付け加えるかもしれませんが、よろしくお願いします。