宰相フレデリック
宰相となって4年。
忙しく殺伐とした日々ではあるが、充実した毎日を送っていたのではないかと今なら思える。
フレデリック・イム・グローリア
グローリア公家の当主であり、宰相でもある彼の名を知らぬものはジュラール帝国内には一人もいないだろう。
グローリア公家は5公の一つである為、由緒正しい家柄である。
帝国内での権力は皇帝、ローゼディスク公家の次に力を持っている。
フレデリックの母エレオナは前皇帝コルトパルディアの同母姉であり、とても仲の良い姉弟であったことから王家と深い繋がりを持つ。とはいえ姉弟仲が良かったが為に皇后との関係は良くなかったと聞いている。皇后がグローリア家を煙たがったこともあり、その当時皇太子であったラウディアには10歳でお側に上がるまで会うことは殆どなかった。
フレデリックがグローリア公家の当主となったのが八歳の時である。
両親が領内の視察中に馬車による事故のため亡くなり、跡を継ぐこととなった。一夜にして天涯孤独の身の上になったフレデリックを支えたのは、グローリア公家と親交のあったローゼディスク公家の当主ロベルトである。成人を迎える18まで後見人として色々と力を貸してくれたからこそ今の自分がある。フレデリックにとってロベルトは最も尊敬し、自分の目指すべき目標でもあった。宰相となっても自分はまだまだロベルト様には敵わないと日々精進しているが、彼は今皇帝が持ち帰った種によって悩まされる毎日を送っている。
皇帝が種を王宮に持ち帰って、もうすぐ一年が経とうとしている。
初めのうちは大臣や貴族達が驚きはしたものの皇帝が女性に興味を持ち始めたのは良い傾向として静観する姿勢を取っていた。ところが半年がたった頃になっても傍に置き続けているため多くの者が焦りと不満を持ち始めるようになった。初めのうちはフレデリックも皇帝の肩を持って貴族達を諌めてはいたがマリエッタに会ったことで考えを改めた。マリエッタに会わせてもらえたのが、連れ帰って半年が経った時であった。おそらく貴族の不満が出始めると予測してのことだろうが、フレデリックはマリエッタに対し好感が持てなかった。
何か違和感がある。
宰相としての勘か分からないが胸にしこりがあって、すっきりしないまま会談を終えた。
会談中に垣間見たラウディアの表情が和らいでいることからマリエッタに対し心を許していることが分かる。
女性不信であるラウディアにとって良い傾向だと思うし、長年ラウディアを見守ってきた自分としては出来ることなら祝福してあげたい。マリエッタは平民出身ではあるが身分はどうとでもなる。だが、何かが危険だと訴えかける。おそらくラウディアはマリエッタを皇后にと考えている可能性が高い。自分を後見人に選ぼうとするだろう。公家の一つであり、当主である自分が適任者であるとラウディアは踏んでいるだろう。
私はそれに従えない。初めて主君の意に反することをする。
自然と拳に汗が滲む。
ラウディアは裏切られたと思うだろうか。
それでも一つだけはっきりとしていることがある。
不思議と確証はないのに確信している。
ラウディアはマリエッタと一緒になっても幸せは一瞬であると…。
幼い頃、父に言われた言葉を思い出す。
『直感を信じなさい。グローリア家の強みの一つだ。』
何としてでも阻止をしよう。
自分の直感がそう告げるから。
これがラウディアの為だと信じて前に進もう。
こうしてフレデリックの闘いの日々が幕を開けた。




