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あなたに愛されなくても【エブリスタ累計30万PV】  作者: 三愛 紫月


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7/7

side 空 ②

「いらっしゃいませ。あれ、何か空《あお》良いことあった?」

「わかる?」

「わかる。この一年の空は、ずっと辛そうだったから……。仕事、辞めるのかと思ってた。はい、ビール」

「ありがとう。辞めないよ。ルピナスみたいな大手に働ける事なんてこの先、絶対ないし……。収入だって、やっぱり違うからね」

「まあ、それはそうだよね。で、何かあったの?」

「実は、ようやくマネージャーやれる事になったんだよ」

「ええ!すごいじゃん。じゃあ、今日は私の奢り」

「いいの?陽菜」

「いいよ、いいよ。いっぱい食べな」

「ありがとう」


 陽菜の料理をたらふく食べて、飲んで、俺は帰宅した。

 明日から始まる新しい日々。

 本当は、今日。

 ルピナスに、来月いっぱいで辞めると伝えるつもりだった。

 あれからずっと、先輩達を見る度に「顔だけ」って言葉がちらついて離れなかったから。

 でも、それも今日で終わりだ。

 俺は、明日から雑用係を卒業する。



・

・

・


 ピピピピ……。


 いつもの朝のはずなのに、今日は何だか全てが輝いて見える。

 俺は、新しいカッターシャツに袖を通し、スーツを綺麗に着た。



「おはようございます」

「おはよう」



 午前中は、変わらず雑用だけど。

 今日は、いつもよりも心が軽い。


 お昼休憩が終わると部長に声をかけられて、俺は山野りな子さんの家に出かけた。



「山野さんは、郊外に住んでいるからね。早めに出ないと約束の時間には間に合わないから」

「はい」

「深森君にとっても、山野さんの家に通う事は気分転換になるよ。郊外と言っても、山野さんのお宅は駅から遠くて少し田舎だからね。のどかで素敵な場所だ」

「でも、駅につけば、市街地まですぐなんですよね」

「ああ。ただ、駅に来るまでが大変なんだよ。バスの本数は少ないからね。車の方がいいかも知れないな。深森君は、免許あるよね?」

「はい。持ってます」

「それなら、なるべく車がいいかも知れないな。社用車を手配出来るか聞いてみよう」

「ありがとうございます」



 山野さんの家は、郊外でありながら駅からは遠く。

 どちらかといえば田舎なのがわかる。

 電車を降りて、部長とバスを待つ。

 確かに、部長が言っていたように山野さんの家に向かうバスは30分に一本のようだ。



「あれだな。ようやく来た」

「そうですね」


バス停からも、山野さんの家は歩いて15分かかった。



「ここだな」


ついたのは、ギリギリ5分前だ。


ピンポーン、ピンポーン


「はーーい」

「ルピナスの……」

「部長さんですね。今、開けます」



 カメラ付きインターホンで、俺達が見えているようで、部長が言い終わる前に山野さんはわかってくれた。



「わざわざ遠くまですみません。どうぞ」

「お邪魔します」



 山野さんの家は、レンガ調で緑色の屋根が特徴的なお家だ。

 玄関は、ベッドを置いて眠れそうな程の広さがある。

 そんな玄関は、和風仕様に作られていた。

 山野さんに出されたスリッパを履いて、家の中に上がる。

 リビングは、白を貴重にしていて広々としていた。



「コーヒー淹れますね」

「お気遣いなさらないでください」


 部長の言葉に山野さんは、ニッコリとお辞儀をしてキッチンに行く。

 カウンターキッチンになっているから、キッチンに行った山野さんの様子がよく見える。



「そちらに座っててください」

「すみません。では、失礼します」



 俺と部長は、ダイニングの椅子を引いて腰かける。

 山野さんは、ふくよかではあるけれど目鼻立ちが整った綺麗な顔をしている人だ。


 そういえば、山野さんのデザイン画を確認したけれど、愛が溢れている作品だと思った。

 きっと、この家がそうだからなのがわかる。


「お待たせしました」

「すみませんね。お気遣いさせてしまって」

「いえいえ、大丈夫です。それで、お話って?」

「本日から、山野さんの担当マネージャーになります深森君です」

「初めまして、深森空です」

「マネージャーさんが本当につくんですね。でも、私何もしてませんよ」

「山野さんは、これから【ヴィラ】から商品が発売されたら忙しくなると思います。なので、これからは深森君に仕事の調節や納品などのやりとり、お家の雑用なんかを言いつけていただいて……」

「そんな雑用なんて、申し訳ないです」

「大丈夫ですよ。俺は、山野さんの為に頑張りますので」



 山野さんは、申し訳なさそうな顔をしながら「よろしくお願いします」と言ってくれた。

 それから、部長は週にどれくらい俺が来たらいいかとか、連絡先を交換したりして、山野さんの家を出たのは16時を過ぎた頃だった。


「それじゃあ、深森君。明日からマネージャー頑張ってくれ」

「はい。頑張ります」


 俺は、この日山野さんのマネージャーになったのだ。


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