”究極にして至高のアイドル”
掌編・『究極にして理想、至高のアイドル』
睡眠統合マシーン・「夢美」の大成功に気をよくした、おなじみ”現代のエジソン”、世界一の大富豪のイプシロン・アスク氏は、”二匹目のどじょう”を狙っていた。
(ちなみに、これは英語だと、try to catch lightning in a bottle twice というそうです。 )
自分の枕もとの宝石のようにキラキラホログラフィックな夢幻的な輝きを放っているユメミに、「オレの潜在意識の中に潜んでいる観念の中で一番金になりそうなアイデアの具体的な夢を見させてくれ」と、頼んだ。
…アスク氏は、髪の長い、絶世の美少女が七色のスポットライトを浴びつつ、黄金のマイクを持って、大観衆の歓呼に向かって手を振っている光景を見ていた。
どうやらコンサート会場で、ワンマンショーをしている、この美少女は、日本の有名な”アイドル”というものらしかった。
ステージ衣装や容姿、歌声、曲、振り付け、すべてが完全に今風にドンピシャにアップデイトされていて、あまりにも卓越したそういうプロデューサーのコンセプト力?そういうものが、アイドル鑑識眼に長けた観客の嗜好をドンピシャに鷲摑みしているという、それが伝わってくる光景だった…
「ハッ!」
<続く>「…ユメミがでたらめな夢を見させるとは考えにくい。 さっきの夢には明瞭に”寓意”があるはず…そうだなあ?」
目醒めて、カモミールティーを啜りつつ、アスク氏は、その「$箱のアイデア」が秘匿されているらしい夢の意味について思い巡らせていた。
「あれはつまり”アイドル”。 韓国や日本で特に流行している若年層をターゲットにした音楽ビジネスの”現場”の状況だ。 マイケルジャクソンのリ・インカーネーション? アメリカではテイラースイフトもカリスマだが、日本はメッセージや曲の音楽性やパーソナリティーより、”カワイイ””ダンスがうまい”、AIが創造する理想的な女の子の具現化みたいな”アイドル”でないと人気が出ないんだ…イメージは知っている。
で、あの夢はつまり、そういうビジネスへの参入ということをオレに示唆しているわけか? そこにビッグな、宝の山が眠っているというわけか?」
「アメリカにもマドンナというシンガーが人気を博したことはあるが…あれはデビューした時に既に年増な感じだった。 アメリカには”カワイイ”だけでカリスマになれるような音楽文化はまあない。 が、日本や韓国では大流行りだ。
KPOPのBTSは、それが世界的になった最近の端的な例。
”ロリータ”はロシアの作家の作品だし、コマネチという体操選手は世界的なアイドルになった。 若いアスリートが愛らしさで超絶な人気者になるのはよくある現象だ。」
アスク氏は、いつものように、自分の脳内だけで、光速の速さでめまぐるしい「ブレーンストーミング」を即席で繰り広げていた…
<つづく>
5話 小一時間、アスク氏は、ネットで”アイドル”というものについて情報を収集して俄勉強し、いっぱしの”アイドルおたく”になった。
日本にはハルモトという「仕掛け人」がいて、アイドル業界の総合プロデューサー、総元締めのような役割を請け負っているらしかった。
韓国にも似た立場の実力者がいるらしい。
彼らの方法論についても調べられるだけ調べ…
要するに「可愛くて」、「歌」「ダンス」が堪能。 ここまでは必須の基本で、あとは運次第。 あとは優秀なスタッフやコンセプトを試行錯誤して集結させて…流行というトレンドに乗せ上げる…そのノウハウも経験的に積み上げられてきて、ビッグビジネスになってきたとか? まあそういう道筋らしい。
日本の場合は最近はアイドル志望のきれいな女の子が多くて、底辺が広いので、大人数のグループという形態のアイドル集団がトレンディ。
韓国はダンスユニットで、キレキレの、と表現される超絶的な技巧のダンスの迫力で勝負するグループが売れ筋。
「つまり…」と、アスク氏はこういう市場に新規参入するためのマーケティング戦略について思い巡らし始めた。
<つづく>
6話3週間後に、「AIドル第一号試作機」・通称”愛奴”が、極秘裏に、とあるラボラトリーに「完成披露お披露目」をするはこびとなった。
イプシロンマスク氏の肝いりで、科学技術の粋を集めて、「もっとも世の中のマジョリティーの嗜好に合う少女アイドルのアンドロイド」というコンセプトで、備わった人工知能の情報収集能力で、最適な回答を探索して”自由に形態を最適化し、自在に変容し続ける”…そういうきわめて現代的で、尚且つ永久に無限に進化しつづける…そういうとてつもないバケモノのような”神の造化”が、完成したのだ!
<つづく>
7話極秘裏に、アラスカの、ロッキー山脈の山中に造営された「プロジェクト愛奴ラボ」という研究所の、だから通称は「PAL」なのだが、その大会議室の中央に、くだんの”愛奴”試作品第一号が、鎮座ましましていた。
超ハイテクの集合体…ひたすらに消費大衆の人気をつかむことだけに汲々としている、上っ面なファッションのみに消費されていく商業アイドル像の諷刺的な批評のような? 浮き草稼業のアイドルビジネスの脱構築のような? その”愛奴”とやらの実体はどういうものか? あらゆる方面から好奇の眼が集まっていたのだ…わずかにでも、そのトップシークレット扱いの情報を得ていたのは、しかしごく少数の関係者だけだったが。
<つづく>
8話さっと、銀色のベールが取り払われ、…電子音楽ぽいファンファーレ、メロディが流れ始めて、摩訶不思議なムードがたちこめ始めた。
中央には「愛奴」第一号…通称”AIDOL”が…すらっとした9頭身を披露していた…ほとんど「女神の降臨」、その言葉の”受肉”だった。
全身から漂うニュアンスはキラキラと神々しい、女性性の極致。 手足は伸びやかで、理想的に均整が取れていた…そうして勿論、アイドルらしく、若々しさではちきれんばかりの肢体…、その上に小さく整った彫りの深い細面が載っている。 ”超美少女”は謎めいた微笑を浮かべていて、表情は匂いやかで理知的だった。
纏っているコスチュームは、ホログラフィックな宇宙服ぽい素材とデザインで、ビキニなのでセクシーでモダンな印象だった。
「初めまして。 AIDOLと申します」
一揖しながら発した声も、耳に快く、風情も愛らしく、一目でどういうオトコも虜にせずにおかない…そういう魅惑的なオーラの塊だった。
まったく衝撃的な光景…"アイドル”概念の最終革命❓ そう言いたくなるあるエポックメイキングな瞬間だった。
<つづく>
https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/822139845758505036
9話
プレゼンは、イプシロン・アスク氏が担当したが、本人もVRで”登壇”した。
「プレスの皆さん、ようこそ。この、「愛奴」は、地球上でたぶん空前絶後となる、文字通りの”ヴァーチャルAIアイドルアンドロイド”なのです。 未来科学の粋を結集して開発された、エスラ社発の珠玉の電脳天使…驚くべき数多のイノヴェーションの精華、その究極の結晶です!」
アスク氏はにやりと自信ありげに微笑んだ。
「具体的な説明に移ります。 「愛奴」は、完ぺきに実在の人間に見えますが、一見だけで、実体はありません。 先進的な3D技術で、プロジェクションされているだけのファントムです。 そうして、外見も、声も、パーソナリティーも、刻々にあらゆる外界の情報を取り入れて、絶え間なくメタモルフォーゼするのです! 情報ソースは全世界のネットワーク。 それらをすべて網羅総合して、「今、現在」に最もポピュラーなアイドル像というものの、理想形をAIが割り出すのです! それを実体化しているのがつまり、ここにいるこのカワイイべっぴんさん…」
紹介されて、”「愛奴」ちゃん”は、にっこりと魅惑的に微笑んだ。
「ヴァーチャルアイドルだから、彼女は、可変系で、無限大の可塑性の持ち主。 自由自在に姿やいろいろな要素属性が自動的に変貌していくという、いわばアメーバ。だから今現在に最も大衆から求められている理想のアイドルの、AIが割り出したベストアンサーの実体化された姿…それが究極の大衆の”メイド”の、「愛奴」なのです!」
<続く>
10話
「…”AIDOL”の「愛奴」を構成しているシステムは、既成の”アイドルプロデュースビジネス”そのものの、多くの実在のプロデューサーの方法論、ノウハウも細かく分析してシミュレーションし、それらを応用しています。
そうして、ポピュラリティーや女性としての魅力、視聴者の五感に訴えかける、存在としての快感度の絶対値、だからダンスの巧さや表情の愛らしさ等々、”女性アイドル”を構成する多くのパラメターを総合した一般的な数値的モデルを構築して、加えて”現在において一般大衆の支持を得ている要素”によるバイアスを加味し、リアルタイムに微調整していき、…結果として”現時点において最も理想的に「大衆という王様の寵愛を受けるであろう最高の美姫」の似姿を魔法のごとくに現出させるのです!」
「歌っている曲の旋律やリリックス、振り付けも、そういう既成のデータの積み重ねで、「これが最も大衆に媚びられる、人気を博せる」というベストアンサーをシミュレーションしていて…つまりすべては一種の幻想、仮想現実なのですが…」
少し間があり、「愛奴」の外形が、心なしかかすかに変化して、より清楚可憐な印象が増した…
「皆さん、私はその「幻想性」こそがアイドルというものの本質を穿っていると思うのですよ」
アスク氏はそうプレゼンを結び、白い歯を見せてウィンクし、そのVRの姿は消えた…
<続く>11話
…照明が変わり、小気味のいい前奏とともに、軽快なメロディとアレンジの、”イマドキ風”を絵に描いたような曲が流れ始めた。
ステージは、急に、夢幻的で、聴衆を蠱惑するようなホログラフィックな異空間という雰囲気になった。
「愛奴」は、サッと体勢を変え、アクロバティックな振り付けの、すこぶるセクシーで扇情的にも見える、ポップで不可思議な印象のダンスを演じ始めた。
…「♪すべてはどうせ うたかたな、甘い夢 とろけそうな ショートケーキ 」
愛度のデヴュー曲「ひとつ」のボーカルが始まった。
若干にボーカロイドっぽい音色の、聴く者のココロの琴線を震わせ、興味を鷲摑みするような、深くてよく響く、溌溂とした歌声が響きだす。
「♪ 木っ端みじんに砕け散った原子のような ダイヤモンドのきらめき アタシの瞳のなかのミクロコスモス 」 愛奴は、伸びやかな四肢を躍動させて、KPOPアイドル風の、じんじんと脳髄に響くようなダンスパフォーマンスを繰り広げる…
「♪アタシは美と愛の女神 その忠実な下僕 幸福と夢を紡ぎだす無限システム~ひれふせ! この億兆の星屑のきらめきのかなたを幻視するマイクロチップとニューロンの塊の造形物に~」
計算しつくされた、「大衆の奴隷」たる最高のパフォーマンスが、寸分たがわぬ完ぺきな進行で、どんどんと視聴者を魅了していく…そういう明らかなサクセスフルなシーケンス、展開の最中にも「愛奴」は観客の意向を忠実に読み取って、より魅力的な形態へと千変万化にメタモルフォーゼし続けているのだった!
「♪究極の、愛と快楽の刹那、 その魔法のような永遠」
サビのクライマックスでは、一瞬、若々しいフルヌードがパッと浮かび上がったりした。 まさに変幻自在の亜空間のようなステージだった。
「♪私はひとりしかいない。なんて孤独な太陽だけの運命~」
フィナーレ。 「愛奴」は、マイクを叩き割って、足を開き、両手をさし上げて「人」を象ったポーズをとった。 ”「偶像」の最終形態”はエクスタシーのような表情で瞑目していた…
4分弱の「完全無欠、正確無比」なパフォーマンスは、凄絶なまでの感動的な印象を残しつつ、終わった…
20人ほどの「聴衆」は、それでもかなりに熱のこもった、「万雷の拍手」でこの”究極のアイドル”の、完璧かつきわめてインプレッシヴな「お披露目」を称えるのだった…
<続く>
https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/2912051596459537949
12話
VRアイドルのAIDOL、 ステージネーム・「愛奴」のデビュー曲「ひとつ」は、まもなく全世界同時配信され、MVも公開され、噂にたがわぬクオリティの高さが評価されて、すさまじい人気を博すことになった。
リリックスもミュージックコンポーズも、アレンジ、MV編集もAIがやってのけた。
プロデュースのコンセプト、振り付け、イメージ設定もすべて人工知能の賜物で、人間の仕事は”雑用”におみという徹底ぶりだった。
そうして、愛奴の奴隷となった熱狂的ファンたちは、揶揄を込めて、「アイドルマスター」と呼ばれた。
その実、主人というより「マスターベーションしているだけ」の情けない奴ら、という陰口もあったが、仕掛け人のアスク氏の懐に天文学的な儲けが転がり込んだのは言うまでもなく…アスク氏は「アイドル」の生みの親の国、JAPANの新しい盟主になることを計画中なのだった…そののろし、”ジャンヌダルク”の役割を、愛奴が果たすのでは?というもっぱらの噂であった。
<了>




