22話「ラスボスだったけど、おごります」
「うおっ!? レベルが一気に上がってる!?」
「私も……! こんなに上がるなんて!」
戦闘終了後、俺たちはその場で一息つきながら、ステータスを確認した。
格上のハイ・ゴブリン(Lv35)を5体も倒したのだ。経験値の入りが尋常ではない。
確認してみると、数値は劇的に変化していた。
アーク・ブレイズ:Lv7 → Lv15
ミーナ・ナジミ:Lv6 → Lv14
エミル・シーダ:Lv24 → Lv26
パーティを組んで魔物を倒した場合、経験値は貢献度によって分配されるようだ。
ゲームでは当たり前の、経験値によってレベルが上がり、それが可視化される現象はかなり違和感があるが
これがこの世界の常識のようなので、さっさとこの世界に適応していかないといけない
レベルアップに伴い、新たなスキルや魔法を覚え、はしゃぐ二人。
俺はその様子を微笑ましく見守った。
「油断は禁物よ ……奥から、今までとは違う異質な気配がするわ」
俺は洞窟の暗がりを見据える。
肌を刺すような、重く湿ったプレッシャー。
何か得体の知れないナニカが潜んでいる気配だ。
「エミルさん、警戒をお願いします」
「ええ、任せて」
俺たちは装備を整え、ステータスを共有し直し、洞窟の最奥へと足を進めた。
◆
奥へ進むにつれて湿度はさらに高まり、地面がぬかるんでくる。
洞窟の突き当たり、地下水脈が流れる広大なドーム状の空間に出た。
その中央にある中洲のような場所に、淡く光る青い草花が群生している。
「あった! バルチ草だ!」
アークが声を上げる。 だが、そう簡単に採取させてくれるほど甘くない。
俺たちが近づこうとした瞬間、ズズズズ……と地響きが鳴り響き、地面が大きく隆起した。
土砂を巻き上げ、バルチ草の周囲を守るように現れたのは、悪夢のような巨大植物だった。
(《鑑定》) 【マッド・ラフレシア:Lv45】
見上げるような巨躯。毒々しい赤紫色の花弁の中央には、捕食用の鋭い牙が並ぶ口があり、
その周囲から無数の蔦が触手のようにうごめいている。
「大きい……!」
「あまり美味そうではないな」
「来るわよ!皆構えて!」
エミルの警告と同時に、太い蔦が鞭のように空気を切り裂いて迫る。
「《プロテクション》!」
ミーナの詠唱と共に、防御力が底上げされたのを確認し、
俺は即座に前に出た。まずは俺が盤面を作る
「闇魔法《(ウィーク・エネミー)》!」
漆黒の霧がマッド・ラフレシアを包み込んだ。
ゴブリンの時はこれで萎縮してひ弱な姿になった。だが――
霧が晴れても、マッド・ラフレシアの巨体は変わらずそこにあった。
一瞬、俺自身も冷やりとしたものを感じる。
(いや、ステータスは確実に低下しているはずだ……! 見た目に惑わされるな!)
事実、鑑定でステータスを確認するとLvは15下がり、各パラメーターはそれに伴い低下していた
「デバフ入った! 攻撃を!」
「了解!」
アークが果敢に飛び込む。剣が蔦を斬り裂くが、相手の質量が多すぎる。
切っても切っても、奥から次々と新しい蔦が襲いかかってくる。
「うおっ!?」
アークの死角から極太の蔦が鎌首をもたげ、強烈な一撃を見舞おうとする。
アークの体勢は崩れており、回避も防御も間に合わない。
「――《ダーク・シールド》!」
ガキンッ!!
俺が展開した闇の盾が、アークを叩き潰そうとした蔦を寸前で弾き返した。
「助かったアスノ!」
「背中は任せろ!進め!」
俺の言葉にアークがニッと笑い、再び剣を振るう。
だが、敵は本体を守るように無数の蔦を壁のように展開し始めた。このままでは近づけない。
俺はもう一手打つ。
「敵の動きを止める! その隙に本体を!」
俺は地面に手を叩きつける。
「闇魔法!」
俺の影が鋭い杭のように伸び、マッド・ラフレシアの根元に突き刺さる。
ズズンッ! と巨体が重力に引かれたように沈み込み、暴れまわっていた蔦の動きがピタリと止まった。
「今だッ!!」
好機と見たアークが前へ出る。 だが、魔物も死に物狂いだ。
アークが踏み込んだ瞬間、瓦礫の陰から隠されていた細い蔦が飛び出し、無防備な背中へと迫る――!
「アーク、後ろッ!!」
エミルが叫ぶが間に合わない。俺の影魔法も手一杯だ。 その絶体絶命の瞬間――
「――アークに触るなァァッ!!」
ドシュッ!!!!
少女の裂帛の気合いと共に、極太の魔力弾が一直線に発射された。
ミーナだ。チャクラアームから放たれた光弾は、アークを串刺しにしようとしていた蔦を根元から消し飛ばし、
その衝撃で魔物の巨体を大きくのけぞらせた。
「今だよアーク! やっちゃって!」
最高のタイミングだ。 魔物が体勢を崩し、中央核が無防備に晒される。
「《螺旋矢》!」
エミルの放った矢が、核を守ろうとした花弁を強引に抉じ開ける。
こじ開けられた道。そこへ、紅蓮の炎を限界まで纏ったアークの剣が振り下ろされる。
「紅蓮剣!!」
ズドォォォンッ!!
爆炎が洞窟内を駆け巡る。マッド・ラフレシアの巨体が内側から焼かれ、断末魔の叫びと共に地に伏した。
勝った、誰もがそう思った直後だ。
ゴゴゴゴ……! 異様な地鳴りと共に、倒れたはずの魔物から赤黒い瘴気が噴き出した。
焼かれた端から異常な速度で再生し、花弁が悍ましく蠢き始める。
「なっ、まだ動くのかよ!?」
アークが剣を構えるが、疲労の色は隠せない。
そこへ、一陣の風が駆ける。
「チッ、矢も残り少ない……直接叩くしかないわね!」
彼女は弓を背負い、両手の双短剣を逆手に構えて疾走する。
暴れ狂う蔦の隙間を軽業師のようにすり抜け、垂直に近い壁を蹴って跳躍した。
「そこッ!」
空中で回転しながら、再生途中の核へ向けて斬撃を繰り出す。
キンッ! 硬い音と共に短剣が弾かれた。再生した花弁が鋼鉄のように硬化している。
「嘘でしょ!? これじゃ刃が通らない!」
驚愕するエミルに、無数の蔦が槍となって殺到する。
彼女は空中で身をよじって回避するが、数が多すぎる。
「エミ姉!!」
ミーナが障壁を展開しようとするが、魔力枯渇による目眩で膝をつく。
万事休す。 ――これ以上は、今の彼らには荷が重すぎるな。
俺は静かに前に出た。
「後は俺が始末する」
◆
アスノが足を踏み鳴らすと同時、漆黒の魔力奔流が渦を巻いた。
「闇魔法》」
ドォォォン!! 空間そのものが悲鳴を上げ、
エミルを襲おうとしていた数百の蔦が一瞬で地面に縫い付けられ、
自重でひしゃげて動かなくなる。
「え……?」
着地したエミルが目を丸くして固まる。
さらに、アスノは虚空に指を這わせ、無数の闇の槍を生成する。
「闇魔法」
アスノの指揮に合わせて、黒槍の雨が魔物を襲う。硬化した花弁ごと細胞を抉り取り、
再生する端から存在そのものを削り取っていく
「すごい…」
ミーナが震える声で呟く。
魔法の構築速度、そして込められた魔力の密度が、常識の範疇を遥かに超えている
「本当にアイツ一人でなんとかなっちまうんだな」
俺はただ呆然とつぶやいた
自分たちが死力を尽くして倒した相手を、アイツは蹂躙している。
(これが、アスノの実力……。アイツが恐れるものなんてこの世に存在しないだろう)
憧れと畏怖を感じながら、最後の一撃を放つアスノを見ていた
「闇魔法」
巨大な闇の球体が魔物を呑み込み、音もなく圧縮して消滅させた。後には塵一つ残らなかった。
アスノは振り返り、いつもの笑顔で言った。
「終わったよ、バルチ草を採取して帰ろう」
◆
魔物の消滅跡からドロップアイテムを回収し、目的の「バルチ草」を採取する。
強敵との戦闘を経て、彼らの顔つきがまた一つ精悍になった気がする。
アーク:Lv15 → Lv20 ミーナ:Lv14 → Lv18 エミル:Lv26 → Lv27
最後の経験値も入ったことで、さらにレベルが上がったようだ。
だが、今は喜ぶよりも先にやることがある。
「急ごう。待っている人がいる」
「ああ! アスノ、帰りはどうする?」
「《転移魔法》」
俺は全員に触れ、魔法を発動する。 景色がブレ、次の瞬間にはチホートの裏路地に立っていた。
◆
マルナの家。 特効薬の素材となるバルチ草を受け取ったマルナは、涙を流しながら何度も何度も頭を下げた。
薬師に薬草を渡し、母親の容態が安定したとの報告を受けると、彼女はようやく安堵の表情を見せた。
マルナはボロボロの服のポケットから、大切に握りしめていた物を差し出した。
小さな手のひらの上で、三枚の銅貨が震えている。
銅貨三枚。 冒険者の命の値段としては安すぎる。だが、その重みを知らない俺たちじゃない。
アークは膝をつき、その銅貨を両手でしっかりと受け取った。
「ありがとう、マルナ。これを受け取ったからには、この依頼は完了だ」
「うん……っ、うんっ!」
マルナの笑顔を見届け、俺たちは家を後にした。
夕日が街をオレンジ色に染めている。
大仕事を終えた心地よい疲労感の中、俺たちは並んで歩いた。
「さて、と」
アークが手のひらの上の銅貨をチャリンと鳴らす。
「俺は5段アイス食うつもりなんだが、お前はアスノ?」
「バニラとチョコの2段かな」
「アーク、5段はお腹壊すから2段までにしなさい」
「ねぇ、その前に銅貨3枚じゃ全員分足りないよぉ?」
結局、俺とアークが6段アイスを買って予算オーバーしたので
全額俺が払ってアイスを食べながら今日一番の笑顔で皆で笑い合った。
金にはならない。命の危険もあった。
けれど、この甘くて冷たいアイスの味は、どんな高額報酬よりも価値がある気がした。
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