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ブレイカーズ ─大好きなゲームのラスボスに転生したので破滅を回避しつつ続編を生み出します  作者: 七宮ペポポ


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第2話「ラスボスだったけど、ビビります」

挿絵(By みてみん)









平原を抜け、街道をしばらく歩くと──

 灰色の石壁が夜の蒼に浮かび上がるようにそびえていた。


 《チホート》 

 旅人と冒険者の往来が多い、小さいがそこそこ栄えた拠点都市だ。


 高い壁に覆われた街の正門には二人の門番。

 その前で旅人らしき男が、険しい顔で詰問されている。


「身分証を出せ。提示できない場合、夜間入城はできん」


「いや、だから失くしちまって……明日ギルドで再発行しようと──」


「規則だ。帰りな」


 追い返される旅人。

 門番たちは無愛想というより、“仕事として徹底している”という感じだ。


(正面から行ったら駄目だな)


 身分証を持っていない俺が行けば、先の旅人と同様追い返されそうだ

 ならば…。


(飛び越えるか)


 夜風に紛れ、城壁の影へと歩を移す。

 人気のない一角に足を置いた瞬間──

 足元から体の中心へ静かに魔力を流した。


身体強化エンハンス

隠密ヴェール


 筋肉がわずかに軋み、気配が薄くなる。

 月の光を頼りに助走し、一気に跳躍する。


 視界がぐんと開け、石壁の上が近づいてくる。

 手をかけ、音を立てずに乗り越えると、向こう側は暗い裏通りだった。


(……よし、誰にも見られてないな)


 影から影へ、足音なく着地する。


 (マナバスでスローラへ向かうつもりだったが… 

  今後のためにも身分証は必要だな)


 無事、チホートへの潜入した俺は街の冒険者ギルドへ足を向けた



「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」


 ギルドの扉を押し開けると、受付嬢が柔らかい笑みを向けてくる。

 内部は暖炉の火で明るく、外の冷たさが嘘のようだ。


「冒険者登録をお願いします」


「では、まずはこちらの水晶に手を。当ギルドのランクを測定いたします」


(目立つと面倒だ…スローラに着く前に何かあったら困るし…)


 水晶に手を置くと、水晶が青く輝き、内部に金色の線が一瞬走るが

 すぐに緑色の線に変色する


「フムフム 魔力量は平均よりやや高いですね。

 身体能力の値も、戦士系の初級者としては悪くありません。

 総合判定──Cランク相当です」


よし。

“それなりに強い一般冒険者”として最も怪しまれないライン。

うまく抑えられたみたいだ



 受付嬢はテキパキと書類を整え──

 ふと首を傾げた。


「ところで……お名前は?」


 あ。

 どうしよ。


 名前なんて適当に浮かぶだろうと思っていたが、

 いざ“初めて名乗る”となると喉が詰まる。


(アワワなまえなまえねーむしめいめいしょううう ぜんぜんでてこないっ!!……)



「あ、ア……アスノ・ぱウわぁッーで!」



 舌が思いっきりもつれた。

 受付嬢が一瞬瞬きをしてから、仕事の顔に戻る。


「アスノ・パウワー様ですね。登録いたします!」


「あっ、ちょっ…パウワーじゃなくてパワ──」


 言い終わる前に、カンッ! とカードに刻印が押された。


「お待たせしました! アスノ・パウワー様のギルドカードです!」


 机の上に、逃れようのない現実が置かれた。


「……ありがとうございます(終わった……)」


 こうして──

 世にも奇妙で珍妙なラスボスが誕生した


 これが俺の新しい人生の名前となった。


(……まぁ、いっか。慣れればたぶんカッコよく聞こえるだろ……たぶん)



 そう自分に言い聞かせながら

 ギルド内で購入したエール(初めて飲んだ)を啜っていると


「いたたた、薬草摘みは腰にくるなぁー」

「食べても美味くないしな、次はもっと美味い草の仕事を受けるぞ」

「美味い草って何よ… アークはさぁ…食べることしか考えてないの?」





ドクン





 軽やかな口論。だが、そこに混じる名を聞いた瞬間、胸の奥がひとつ脈を打つ。


(この声……)


 女の声 ―耳に残っている。モニター越しの記憶が、

 身体のどこかで鋭く振動する。


 振り向くという動作の前に、時間が一瞬だけゆっくりと回る感覚があった。

 そこにいたのはゲームで何百回も見た二人の姿だった





 

挿絵(By みてみん)






 青い髪が長く太い三つ編みのツインテールに結われ、

 にこやかに口角を上げて笑う少女。ミーナ


 その隣には金髪翠眼の青年。-アーク 腰に手を当てた立ち姿、

 何気ない仕草でさえ眩しく見える。

 画面越しに何度も見て、何度も“背中を追った”主人公。


 画面では何度も見慣れたはずなのに、実物はやはり違う。


 見慣れたアクション、聞き慣れた調子、そして画面にはなかった“温度”

 ──それらが同じ空間にあることの不可思議さ。

 

 想像していた輪郭よりも鮮やかで、匂い立つように“生”をまとっていた。

 

 息をするたびに、そこにいるという確信が胸を打つ。



(……なんで……ここに……)



 理解よりも先に、呆然とした感情だけが身体の中で膨らんでいく。

 

 視界がほんのわずか揺れた。

 

 手に持っていたエールのジョッキが、かすかに滑る。



「あ──」



 バシャッ!!



 重い水音が、ギルドの空気を裂いた。

 木の床に散ったエールが光を反射し、波紋のように広がっていく。


 その音に反応して、アークがこちらを見た。


 金色の前髪の隙間からのぞく翠瞳が、真っ直ぐこちらを見据える。


 その瞬間、時間が止まる。


 アスノの胸に浮いた驚愕も、息を呑んだまま固まった表情も、

 エールの滴る音さえも──

 世界が音ごと凍りついたかのようだった。


 (………ッ…)

 生唾を飲み込む音が頭に響く


 この日、主人公とラスボスの視線が初めて交差した


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