第19話「ラスボスだったけど、下見します。」
アークたちの尊いデートイベントを見守った翌日。
俺は日の出と共に起きて、準備運動代わりに睡眠最高ダンスを踊る
今日はジュエル系大量が大量湧きするダンジョンの下見に行く
「さて、行きますか」
俺は体に魔力を循環させる。
《身体強化》 《浮遊魔法》
地面を蹴ると同時に、俺の身体は弾丸のように空へと射出された。
目指すはチホートから東南東へ数キロ離れた場所にあるダンジョン、「インザーの洞窟」だ。
風切り音が耳をつんざく。
眼下の景色が高速で後方へと流れていく
この速度なら、到着までそう時間はかからないはずだ。
◆
インザーの洞窟に到着した。
ここはゲーム序盤から中盤にかけて訪れることになるダンジョンで、全五層から成る。
入り口から漂う湿った空気と、微かな魔物の気配。出現するのはレベル20程度の魔物たちだ。
「いくつか呪文を試しておくか」
洞窟に足を踏み入れた俺に襲いかかってくる大コウモリの群れ
「《深淵の衣》」
瞬時に、俺の周囲を漆黒のオーラが薄く覆った。
大コウモリの体当たりや超音波がオーラに触れた瞬間、霧散するように威力を失う。
全属性のダメージを半減させるという、ラスボス専用の防御魔法。
ゲーム時代、プレイヤーたちを絶望の淵に叩き落としたこの鉄壁も、味方になればこれほど頼もしいものはない。
「……流石、強力なだけあって魔力消費が激しいな」
展開しているだけでゴリゴリとMPが削れていく感覚がある。
俺一人ならそれなりに保つが、将来的にアークたち三人を同時に守るとなると、数分も持たないかもしれない。
ここぞという時の切り札として温存すべきか。
(ま、実際試さないとわからないことに時間を割いてもしょうがない。今はとにかく目的地に行くのが先だ)
俺は魔法を解き、身体強化と《加速》で一気に階層を駆け下りる。
数分後、第三層に到達した。
俺はゲームの記憶にあるマップと、目の前の風景を照らし合わせる。
湿った岩肌、不自然に曲がった通路、そして行き止まり。
「ここか?」
俺は行き止まりの壁をコンコンと叩いてみる。……音が軽い
俺は拳に魔力を込め、壁面を全力で殴りつけた。
ドゴォォォォンッ!!
岩壁が粉砕され、隠されていた空洞が口を開ける。
本来ならラストダンジョン出現時の地殻変動で開通する場所なのだが、物理で突破させてもらう
ここは、いわゆるラスダン前の救済措置的なレベル上げポイントなのだ
隠し通路を奥へと進むと、空気が変わった。
壁一面が七色に輝く魔鉱石に覆われ、その光に誘われるようにして、ゼリー状の魔物が多数浮遊している。
身体の中に宝石の核を持つスライム、「ジュエルスライム」だ。
「いたな。ゲーム通りで安心したよ」
俺は収納魔法から愛剣『グラウ・ゾラ』を取り出し、手近にいた一匹に斬りかかる。
キィンッ!
俺の剣が届く直前、ジュエルスライムは硬質な音を残して高速移動し、そのまま通路の奥へと逃げ去ってしまった。
「想像以上に速いな……」
逃げ足の速さと回避率の高さ、そして魔法完全無効という厄介な性質。
だが、その分経験値は破格だ。ゲームでは遭遇しても逃げられるストレスと戦いながら狩っていたものだが――。
「今は逃げ道を断つことができる」
「《ダーク・ウェブ》」
闇の結界が、周囲に展開する。
スライムは弾丸のように逃げ出そうとしたが、見えない壁に「ベチッ」と激突して跳ね返った。
「ラスボス(元)からは逃げられない」
逃げ場を失い、右往左往する魔物。
俺はゆっくりと近づき、その核を一刀両断にした。
パリンッ、という小気味よい音と共に魔物が霧散する。
「おぉ、素晴らしい。一体でタウロスの五倍以上の経験値が入ってくる」
やはりここは最高の狩り場だ。 ただ、問題はアークたちにどうやって狩らせるかだ。
俺が倒してパーティ全員に経験値が入るなら良いが
そうでなかった場合、アークたちに倒させないと意味がない。
「ジュエル系はデバフ魔法も効かないしなぁ……」
俺は数体狩りながら検証を行う。 結果、一番安定するのは「物理的に逃げ場をなくす」ことだった。
まず《ダーク・ウェブ》等の結界魔法でエリアを限定し、さらに氷魔法や土魔法で壁を作って物理的な『キルゾーン』を作成する。
あとは、袋の鼠になったジュエルスライムをアークたちがタコ殴りにすればいい。
「よし、アークたちのレベリング計画はこれでいこう」
検証を終えた俺は、ついでに自分のスキル検証も行うことにした。
相手はHPこそ低いが、防御力が極端に高い。通常攻撃だとダメージが「1」か「2」しか通らないのだ。
これを効率よく倒すには、「メタル系」の魔物を倒す定石、手数が必要になる。
「《乱斬り》」
俺は手頃なジュエルスライムに向かってスキルを放つ。
シュシュシュシュッ!
四連撃。
キン、キン、キン、キンと硬質な音が響く。
だが、倒しきれない。まだHPが残っている。
「4回以上出せないかな……」
通常の《乱斬り》は四連撃でワンセットだ。五発目を撃とうとすると1テンポ遅れる。
4発目の振り切った体勢から戻るための「間」だ。 だが、この世界はゲームであって現実だ。
3発目の斬撃の勢いを殺さず、そのまま1発目の初動に繋げることができれば、この硬直をキャンセルできるんじゃないか?
俺は頭の中でモーションを組み立てる。 1、2、3……ここで手首の返しを利用して、再び一撃目の軌道へ乗せる。
流れるように、 終わりのモーションを、始まりのモーションに重ねるイメージで――。
「……3発目までを、可能な限りループできれば……!」
脳内シミュレーションが完了した瞬間、身体が勝手に動いた。
「シッ!!」
銀色の軌跡が空間を切り裂く。目にも止まらぬ速さで 3連、6連、9連、刃は止まらない。
最後の一撃が叩き込まれた時、ジュエルスライムは16個に分割されて消滅した
めいせんさつ
『スキル【冥線刹】を習得しました』
無機質なウィンドウが視界の端にポップアップする。
「はぁ~……なるほど」
俺は自分の手を見つめた。スキルって、こうやって「開発」できるのか。
モーションを精密に脳内でイメージし、肉体で再現できれば、システムがそれを「スキル」として認定する。
これは俺のプレイヤースキルと、ラスボスとしての観察眼の高さによるものでもありそうだ。
「16なのは、今の俺のステータス上でやれる最大数ってところか。……これ、他流試合とかで相手の動き覚えれば、色々ラーニングできるんじゃないか?」
だとしたら夢が広がる話だけど、そう簡単にはいかないよなぁ
そう考えながら、さらに奥へと進んだ。
隠しエリアの突き当たりは、大きな崖になっていた。
崖下は暗く、底が見えない。落ちたら即死判定だろう。
(この方角……位置的に、タリタ方面に続いてるのか?)
タリタ山。ゲーム序盤、学院の野外演習で訪れる場所だ。
ゲームじゃ全然行かなかったけど、今の時期なら紅葉が綺麗で、
魔物も弱い雑魚ばかりなので、物見遊山には良さそうだ
(ここが最奥か。これ以上進む道はないし、今日の下見はここまでだな)
俺は踵を返し、転移魔法の準備を始めた。
今回の収穫は大きい。 資金は潤沢、レベリング場所も確保、攻略法も確立、新スキルも入手
「ヨシッ!。高度な柔軟性を持ちつつ、臨機応変に対応していけば、アークたちの育成計画は盤石だ!」
俺は高らかに宣言する。
自分の心を納得させるために
「……命削れば守れるはずだ」
決意を胸に、俺は宿へと転移した。
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