18話「ラスボスだったけど、爆発します」
アークたちを追いかけ、たどり着いたのは武具屋だった。
店内には鉄と油の匂いが立ち込めている。
「うわぁ、これすげぇ切れ味! 見てみろよミーナ!」
「うん、すごいね。でも危ないからお店の中で振り回さないでね」
「わかってるって。いつかこんな剣でドラゴンとか倒してみたいよな」
アークとミーナはショーケースの剣を見ながら、楽しげに未来の冒険について語り合っている。
剣一本でここまで盛り上がれる、その純粋さが眩しい。
「……はぁ」
隣で透明なエミルが深いため息をついた。
「デートに武具屋なんて……アークのやつ、本当にわかってないわね」
「待って頂きたいエミルさん」
俺は二人の横顔を指差す。
「アークはそもそもデートだと思ってないですからね。それに、見てくださいあの二人の顔を。
ミーナは剣には興味ないかもしれないけど、『アークが楽しそうにしている姿』を見るのが楽しいんです。
アークも無意識に、自分の好きなものを一番大事な人に共有したいと思っている。
場所なんて関係ないんです。お互いが好き合っていれば、古びた武具屋だって舞踏会場に変わる……
そこに『尊味』が生まれるっ」
「……あなたのその熱量はどこから来るのよ。まぁ、言われてみればミーナも楽しそうだけど」
エミルは渋い顔をしつつも、弟たちの仲睦まじい姿は、姉にとっても栄養源なのだろう。口元が少し緩んでいるのがわかる。
二人が店を出ようとした、その時だった。
俺の視界の端に、棚の隅で埃を被っている一本の槍が飛び込んできた。
穂先が奇妙にねじれ、柄には不気味なサイコロの意匠が施されている。
「あれは!? 『ランダムスピア』か!?」
棚の隅で埃を被っている、奇妙なねじれ方をした槍。
攻撃時に【幸運】ステータスを参照し、ダメージが極小~極大までランダムに変動するギャンブル武器だ。
「あれ買おう!」
「はぁ?! ちょっと待ちなさいよ!」
俺が財布を取り出すと、エミルが慌てて俺の腕を掴んだ。
「あんなのガラクタよ!使い勝手も悪いに決まってる! それにあの値段見てみなさいよ、ボッタクリもいいとこよ!」
「それは違う! あの武器は幸運ビルドなら凶悪な武器なんです!
三回に一回はクリティカルが出せる計算で、期待値換算すればミスリル槍をも凌駕するDPSを叩き出すんです!」
「で、でぃーぴーえす? 何言ってるかわからないけど!命を預ける武器に『運任せ』なんてありえないでしょ!?」
「金ならある!タウロスの未会計分を考えれば十分な資金が!」
「買って誰が使うのよ! あ、ほら! アークたちもう行っちゃうわよ!?」
「はやく買えってことですね!わかります!おっちゃん!これください!」
「なんでそう変な方向にばかり思い切りがいいのよ!!」
店主の「え、買うの? 正気?」という顔を尻目に、俺は槍を収納魔法に放り込み、店を飛び出した。
◆
次に二人が入ったのは、大通りに面した少し小奇麗な服屋だった。
色とりどりの生地が並び、女性客で賑わっている。
「アーク、これとこれ、どっちがいいと思う?」
ミーナが二着のワンピースを身体に当てて見せる。
一つは清楚な青いワンピース、もう一つはフリルのついた可愛らしいピンクのワンピースだ。
アークは腕を組み、眉間にシワを寄せて数秒間凝視し、唸るように言った。
「んー……どっちでもいいんじゃね?」
「もー! アークったら! ちゃんと見てよ!」
アークの返答にミーナが頬を膨らませて怒る。
それを物陰(というか店内の中央堂々と)から見ていた俺たちは、同時に深く頷いた。
「いいですかエミルさん。今のアークの『どっちでもいい』は『興味がない』ではありません。
あまりにも真剣に悩みすぎた結果、『どっちもお前に似合うから俺には選べない』という思考のショート、および照れ隠しを含んだバグった発言です」
「えぇ、よくわかるわ。そしてミーナも本気で怒っているわけじゃない。
内心ではアークが真剣に見てくれたことを理解しているから、嬉しくて顔がニヤけそうになるのを必死に『怒り』という感情で蓋をしているのよ。
見て、あの可愛すぎる乙女の顔を」
俺達は早口でオタク特有の高度な解析を終え、尊さを噛み締めた。
ミーナの試着が終わり、彼女が満足そうに青いワンピースを購入すると
今度はアークの服選びが始まった。
「私も服選ぼうかなぁ~」
エミルが陳列棚の服を見ながら呟く。
「俺はアークを着せ替えるミーナの表情を頭のフロッピーディスクに記憶する作業を続けます」
「せっかくだからアスノ君の服も選んであげようか?」
お、俺の話聞いてましたかエミルさん
「いやいや、俺なんて着れればなんでもいいんで。顔と体型が悪けりゃ何着たって似合いませんし」
「急にカミソリ投げつけるのやめてね」
エミルはジト目で俺を見ると、ハンガーにかかった白いシャツを一枚手に取り、強引に俺の胸元に当てた。
「透明化きってよ、見えないじゃない」
「えぇ……」
触れそうなほど近くにエミルの顔がある。
彼女は真剣な眼差しで、俺とシャツを交互に見比べる。
大丈夫か?アーク達に気づかれ…あっ 試着室入って死角に…
「アスノ君、背はあるんだし、姿勢も悪くないんだから。こういうの着ればシュッとして見えるわよ」
シャツの襟を整えるふりをして、彼女の指先が俺の首筋をかすめる。
「……そう、ですか?」
「そうよ。……うん、やっぱり似合う。これにしなさい」
エミルが満足げに微笑む。まるで姉が弟にするような、あるいは恋人が選ぶような、自然な距離感。
俺は心臓が少し跳ねるのを感じながら、誤魔化すように視線を逸らした。
「じゃ、じゃあこれ買います。……選んでくれて、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。あ、お金は自分で払ってね?」
「そこは奢ってくれないんですね」
◆
服屋を出た後、アークたちは昼食をとるために店に入った。 香ばしい煙と、肉の焼ける音が通りまで溢れ出ている大衆焼肉屋だ。
昼間からジョッキを傾ける冒険者たちで賑わっている。
「ほう焼肉ですか…デートと思っていないとは言え、デートで焼肉ってどうなんですか?」
「まぁ、アークらしいじゃない。あの子にお洒落なカフェランチは似合わないし、ミーナもそういうの気取らない子だから」
「確かに。まぁここで『予約していたアーク・ブレイズです』とか言ってフレンチに案内されたら、『誰だお前は』ってなりますね」
「私は熱があるのかと思って医者を呼ぶわ」
俺達は二人から離れた席に陣取り、二人の会話に耳を澄ませた。
「うめぇ! けど……」
「うん。昨日のバーベキューの方が美味しかったね」
「だよな! やっぱエミ姉の味付けと、あの肉の鮮度が別格だったんだな」
アークが肉を頬張りながら唸る。
「聞いた? アスノ君。私への賛辞よ」
「えぇ、俺の肉への賛辞でもありますね。」
「二人してお店のお肉に勝っちゃったわね」
俺達はビールをすすりながらこっそり笑いあった
「アスノさんが獲ってきたお肉、タウロスだったもんね」
「ああ。あいつ、謎が多いけど……すげぇよな」
「そこぬけに気前の良いヤツだとは思ってたよ、やたら俺たちに親切だし。けどいきなりタウロス大量に出すのはビビった」
「うん。私は最初、ちょっと怪しいと思ってたけど…」
ミーナが箸を置いて、優しく微笑む。
「悪い人では絶対ないと思う。なんていうか、私たちを見る目がすごく優しいの。まるで、ずっと前から私たちのことを知ってるみたいに」
「わかる。それに、エミルも心を許してるっぽいしな」
「うんうん!エミ姉が認めたなら、絶対大丈夫だよ!』
「…………」
一人の人間として、仲間として認められている。
画面の向こうの存在だった彼らが、俺を受け入れてくれている。
俺は胸の奥が熱くなる。視界が滲んだのは焼肉の煙のせいにした。
「……買いかぶりすぎよね、あの子たち」
隣でエミルが、照れ隠しのように呟いた。 でも、その声はとても柔らかかった。
「エミルさんが居てくれたおかげですよ。 ……ありがとうございます」
俺が小声で伝えると、エミルは少し沈黙して、それからボソッと言った。
「私の方こそ。あなたがいてくれて、なんか……安心してるのよ。アーク達のこと、一緒に見守れる人ができて」
「エミルさん……」
「あーもう! しんみりしない! ほら、アークたちが肉焦がしそうよ!」
エミルが慌てて話題を変える。 俺は苦笑しながら、目頭をこっそりと拭った。
◆
焼肉屋を出た後、二人は腹ごなしに市場の裏路地にある雑貨屋へ立ち寄った。
そこは煌びやかな宝石店ではなく、冒険者が使うような実用的な魔道具や、手作りの装飾品を扱う露店だった。
『見てアーク、このペンダント』
ミーナが手に取ったのは、小さな翠色の魔石がついたシンプルなペンダントだ。
派手さはないが、作りの丁寧な一品。
『食いではなさそうだな』
『宝石をピーナッツかなにかと思ってる?』
『冗談だよ』
無料DLC内容を知ってる身からすると、冗談に聞こえなくて判断に困るところだ。
『それよりもこっちの青い方が綺麗じゃないか?』
アークは隣のトレイに並ぶ別のペンダントを指差す。
深い青色の魔石が、主張するように光を返していた。
『この色がいい』
『…そうか、まぁどっちでもお前に似合うと思うぜ。……店員さん、これください』
『えっ!? 良いのアーク?結構高いよ?』
『……いつも貰ってばかりだからな、着けてみろよ』
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、頬が赤い。
『……アークが掛けて』
そう言ってミーナは髪を持ち上げて
白いうなじを露わにする。。
「ヒューッ! 見た!? アスノ君!ひゃあ~~!」
「うぅぅぅううぅ あの値段ならアークの小遣いでも無理なく買える……等身大のプレゼント……! ズバラジイ」
「なんで泣いてるの!?」
『アークにプレゼントしてもらったのこれが2回目だね』
『…ちょっと待ってくれ、もうちょっとあるだろ 肉分けたりとか』
ミーナはくすりと笑い、ペンダントを指でなぞる。
「どうしてあの子は何事も食基準なのかしら…どうしてああ育ってしまったのぉ」
「エミルさんの料理が美味すぎたせいとか? ちょっと基準が変だけど真っ直ぐな好青年だと思いますよ彼は」
『なぁミーナ、俺が最初にあげたプレゼントってなんだ?』
アークは眉をひそめ、真剣な顔で考え込む。
『覚えてないの?』
『…ヒントくれよ、何年前だ? あっ!去年の村祭りの屋台景品だろ!』
『んもー まぁアークは覚えてなくても不思議じゃないか』
『違うのか? なぁ最初のプレゼントってなんだよ』
ミーナは一拍置いて、いたずらっぽく微笑んだ。
『教えてあげなーい』
そう言って、胸元のペンダントを両手で包み込むように抱きしめる。
まるで誰にも触れさせない宝物のように。
ドクンッ
「ウッ クルシジイ!トウトミ ノ カジョウセッシュ デ シンゾウガ」
「泣いたり苦しみだしたりで忙しいわねアスノ君」
◆
雑貨屋を出た後、二人のデートはさながら『善行RTA』の様相を呈し始めた。
俺達はその様子を、透明化して見守っていた
広場の噴水前で、ビービーと泣きじゃくる男の子を発見
アークがヒョイッと子供を高い高いし、ミーナがハンカチで涙を拭う。
アークの腕の中でキャッキャと笑い始めた子供を、血相を変えて走ってきた親の元へ無事送り届けた
「素晴らしい保育ムーヴ、俺がやったら事案ですね」
「アスノ君は普段からもうちょっとニコニコしといた方がいいわね」
「こうですか?(ニチャァ」
「その顔、子供の前では絶対やっちゃダメよ」
(えっ どうして・・・?)
重そうな荷物を背負い、道に迷っているお婆さんに遭遇。
アークが「貸しな」と全ての荷物を軽々と肩に担ぎ、ミーナがお婆さんの手を引いて
お孫さんの家までエスコート。 別れ際、お婆さんから大量の飴ちゃんをもらって苦笑いする二人。
「いい笑顔だなアーク、だがその貰った大量の飴は一口で全部食べるものじゃあない」
「あの子は味わって食べることを覚える必要があるわよねぇ」
路地でケンカをしていた酔っ払いと遭遇
仲裁に入るアーク、怪我した野郎に回復魔法をかけるミーナ
ミーナに気安く触れようとした男に睨みをきかすアーク
「ねぇ今ミーナの胸触ろうとしてなかった?処す?ねぇ処すべきよね?」
「おぉお、アークのくっそ冷たい瞳に免じて火達磨にするのは止めてやろう」
「どうして? GO!アスノ君GO!」
「エミルさんストップ! 火矢はマズいっ 家屋が燃える!」
◆
日は傾き、空が茜色に染まる頃。アークたちはチホートの街を一望できる丘の上にいた。
夕日が二人の影を長く伸ばし、オレンジ色の光が世界をロマンチックに包み込む。
「今日は楽しかったね、アーク」
「……まぁな。悪くなかった」
アークが照れくさそうに鼻をこする。顔には「超楽しかった」と書いてある。
「こんな日が、ずっと続けばいいのにな」
ミーナが夕日を見つめながら呟く。
風が彼女の髪を揺らす
完全にヒロインスチルだ。スクショ撮りたい
「続くだろ」
アークが即答した。迷いのない、強い声だった。
「お前が望めば、いつだって」
「……ずっと、そばに居てくれる?」
ミーナがアークを見上げる。
潤んだ瞳。期待と不安が入り混じった表情。
さぁ来いアーク! ここだ! ここしかない!
((抱けッ!! 抱けーッ!! 肩を抱けぇぇぇーーッ!!!))
俺とエミルの叫びがシンクロする。
いけ! その腕でミーナを包み込め!
男を見せろアーク・ブレイズ!
『当然だろ。お前は――』
アークが言葉を詰まらせる。
くるか!? 愛の告白くるか!?
『お前は――家族なんだからな』
「「日和るなアーク!!逃げるなぁぁぁあああ!!!」」
あまりの衝撃に透明化が解けそうになった。
ここで行かなかったらいつ行くんだ!今でしょお!!
「……そっか。家族……かぁ」
ミーナが一瞬、寂しそうな顔をする。 ああ、その顔を見て少し胸が痛む。アークェ…
だが、ミーナはすぐにふわりと微笑んだ。
それは諦めではなく、許容の笑みだった。
『うん、わかった。今はそれでいいよ』
彼女はアークに手を差し出した。
「帰ろ! あんまり遅くなるとエミ姉が心配しちゃう」
「……あぁ」
アークがその手を握り返す。強く、温かい握手。
ミーナは嬉しそうにアークの手を引き、元気に走り出した。
◆
「「…………」」
二人の姿が丘の下に見えなくなるまで、俺たちは無言で立ち尽くしていた。
やがて、エミルがぽつりと呟く。
「ま、アークにしては頑張ったんじゃない? 最後のアレは減点対象だけど」
「うぅ……うぐぅ……ッ」
「えっ、ちょ、なんでまた泣いてるのよ!?」
「だっでぇ……尊いじゃないですかぁ……! あの不器用な距離感! 『家族』という言葉に逃げつつも、
手を繋いで帰るあの信頼関係! 俺が……俺が前世で送れなかった青春を、あいつらが全力でやってくれてるんですよぉ!!」
「……あ、そう」
エミルは若干引き気味に頷いた。
「まぁ、いいもん見れたのは確かね。あの子たちの成長も見れたし……。帰ったら、ミーナの好物でも作ってあげようかしら」
「グズ…キャロット、ケーキですか?」
「な、なんでミーナの好物がそれだって知ってるのよ? あの子、人前じゃ子供っぽいって言ってあんまり言わないのに」
しまった。これはゲーム内の好感度MAXイベントで判明する情報だった。
「え、えーっと……前に冒険者ギルドでケーキをアークとエミルさんが取り合ってたじゃないですか
あの時キャロットケーキを美味しそうに食べてたのでそうかなーって!」
「……ふーん?」
嘘である。キャロットケーキはあの場に存在しなかった
エミルは怪訝そうに俺を見たが、それ以上追求はしなかった。
「まぁいいわ。 さて、ケーキの材料足りないから買い出し行かないと」
「了解です! 市場ですよね? 俺の転送魔法なら一瞬ですよ!」
俺は話題を変えるために、パチンと指を鳴らした。
「さぁ、行きましょう!」
「もう……調子いいんだから」
エミルは苦笑しながら、俺の腕に触れた。
今度は、少しだけ強く握られた気がした。
俺とエミルは、夕暮れの丘から一瞬にして姿を消し、夜の市場へと飛んだ。
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