16話「ラスボスだったけど、ついていく、ついていく」
翌朝。 小鳥のさえずりと共に目を覚ました俺は、身体の軽さに再度驚愕した。
(これが……この清々しい目覚め! 健康的な睡眠……ッ!)
俺はベッドの上で(前回床でやったら怒られたので)睡眠最高ダンスを踊った
睡眠、サイコー! スイミン! サイコー!!
ひとしきり踊った後、満足した俺は着替えて一階の食堂へと降りた。
「あ、アスノ君おはよー」 「おはようございます!」 「うぃー」
食堂では、すでに三人がテーブルを囲んでいた。
ちょうど食事が運ばれてきたタイミングのようだ。俺も空いている席に滑り込む。
「ふたりとも、調子良さそうだね」
パンをかじりながら尋ねると、アークが親指を立てた。
「あれだけウマイ肉食って寝れば当然よぅ!」
「昨日のお肉本当に美味しかったです~」
ミーナも血色が良さそうだ。エミルもニコニコとコーヒーを飲んでいる。
平和だ。まさに冒険の幕間の安息日といったところか。
「そういえば、今日は皆さんどうするんです?」
俺が何気なく今日の予定を聞くと、アークが口をもぐもぐさせながら答えた。
「俺とミーナは、ちょっと買い出しに行ってくる。
装備のメンテ道具とか足りなくてさ」
「うん。あと、私の服も少し見たいから……」
なるほど。アークとミーナ、二人きりで買い物。
(ほう……それはつまり)
「なんだ、デ――」
――ガシッ。
俺が『デートですね』と言い切るコンマ一秒前。
横から伸びてきた手が、俺の口を物理的に塞いだ。
「ングッ?!」
「オホホホホ! アスノ君ったら、ちょっと私に話があるのよねぇ~!?」
エミルだ。 目が笑っていない。 彼女は俺の口をガッチリとホールドしたまま、凄まじい力で席から引き剥がしにかかった。
「ごめんね二人とも! ちょっとアスノ君借りるわね! さぁ行きましょアスノ君!」
俺は抵抗する間もなく、ズルズルと別室に引きずり込まれた。
◆
「……ふぅ」
ようやく解放された俺は、酸欠になりかけた肺に空気を送り込む。
「いきなり何するんですか」
「あんたが余計なこと言うからでしょうが!」
エミルがバシッとテーブルを叩く。
「いい? ミーナは意識してると思うけど、アークはあくまで『買い出し』だと思ってるの!
『デート』なんて言葉を出して変に意識させたら、あの子の天然な反応が見れなくなるじゃない!」
「はぁ……なるほど」
昨日の邪悪な笑みの理由はこれか
アークとミーナの恋愛事情をウォチるつもりだったのね
エミルの主張はこうだ。 アークの「無自覚ゆえの距離感の近さ」に尊みが存在し、
そこに「デート」という定義を持ち込むと、その純粋な反応が損なわれると。
まぁ言いたいことは理解できる。だが、俺は反論する。
「あのアークが、『デート』だと意識してギクシャクし始める……その『初々しさ』からしか得られない栄養素も存在しませんか?」
「ッ……!?」
俺は畳み掛ける。
「いつも通りに振る舞おうとするけど、ふとした瞬間に手が触れて赤面する。妹のような幼馴染との関係に戸惑い、異性として意識し始めるアーク……
見たくないです?俺は見たい」
というのもゲームでのミーナルートでそういうイベントが用意されていたのだが
俺は一挙手一投足見逃さずにデートイベントを見たい
エミルは顔を手で覆い、天を仰いだ。
「わかる……理解できるわ……その『もどかしさ』こそが青春の醍醐味……」
「でしょう?」
「だが今日じゃないッ!!」
エミルがカッと目を見開いて断言した。
「今日はまだ早いの! まずは無自覚イチャイチャを堪能してから、段階を踏んで意識させるべきなのよ!」
「順序を重んじる、んぅ~素晴らしいぃ考えですねぇ?」
俺たちがそんな高度な(?)議論を交わしていると、
「じゃあ行ってくるなー」というアークの声が聞こえた。
どうやら二人は出発したらしい。
「あ、行っちゃった」
「……コホン。じゃあ、用事も済んだし、私はこれで」
エミルが何食わぬ顔で立ち上がり、出口へと向かおうとする。
その足取りは、明らかに二人の後を追う速度だ。
「尾行する気ですか?」
「ギクッ」
エミルが変な効果音を出して止まった。
「な、ななな何のことかしら~? 私はちょっとライフワークに……ぴゅ~ぴゅ~♪」
下手くそすぎるだろ口笛。
「やはりデバガメか……すぐ出発しましょう、俺も同行します」
「アスノ君!?」
エミルが驚愕の表情で振り返る。
「だ、ダメよ! こんな悪趣味なことにアスノ君を巻き込むわけには……」
「俺は、アークたちの『物語』をこの目で見届けたいんです」
俺は真剣な眼差しで訴える。
前世で画面越しに見ていたイベントシーン。それを生で見られるチャンスを逃す手はない。
「それに、俺を連れて行くメリットは大きいですよ」
「メリット?」
「俺は闇魔法の応用で、気配を消す隠密魔法が使えます。これで姿を見られる心配はありません」
「えっ、すご」
「さらに、身体強化魔法で聴覚を強化すれば、遠く離れた場所の会話もバッチリ拾えます。どんな甘い囁きも聞き逃すことがなくなります」
「……ッ!!」
エミルの目の色が変った。 彼女にとって、遠距離からの盗聴は喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。
「楽しむためにはうってつけの人材でしょう?」
俺がニヤリと笑うと、エミルは少しだけためらった後、バツが悪そうに視線を泳がせた。
「……ねぇ、こんなことしてる私に引かないの?」
姉として、保護者として、弟のデートを尾行する。 客観的に見れば褒められた行為ではないと自覚しているのだろう。
「まぁ、本当は良くないとは思いますけど」
俺は肩をすくめる。
「人間誰しも、一つや二つ悪いことしてるもんでしょう。こんなの可愛いものです」
「それに、普段から二人のお世話をしてるんです。これくらいのリターン、役得があっても罰は当たらないのでは?」
俺の言葉に、エミルの表情が少し和らぐ。
彼女の献身は本物だ。たまの息抜きくらい、神様だって許してくれるハズ
「俺はそれにタダ乗りさせてもらう立場です。もしバレたら――」
俺は胸に親指を指し
「『全て俺が主導した』と言えばいい。俺が無理やりエミルさんを連れ回したことにしましょう」
エミルはきょとんとして、それから「……そう」と短く呟いた。
「じゃあ、全てアスノ君が主犯ね。私は何も知らず、こんなことしたくなかったのに~! って被害者のふりするからね!」
エミルがニカっと歯を出して笑う
「その切り替えの早さ、YESだね!」
おちゃらけた態度で責任を全回避するムーブ。 そう、それでヨシッ!
「よし、じゃあ行きましょうか。『ライフワーク』に!」
「えぇ!」
俺たちは共犯者の笑みを浮かべ、宿を後にした。
ブックマーク、☆など頂けると今後の活動の励みになります。
よろしくお願い致します!




