第11話「ラスボスだったけど、交渉します」
女がわずかに膝を沈め、いつでも踏み込める体勢に入った瞬間─
俺は右腕を突き出した。
「待った!!!!!!!!!!!」
空気が震えるほどの大声だった。
女の体が止まる。だが、刃先に宿る殺気は消えていない。
「俺は貴方と戦う理由がない!」
「問答無用」
短い返答とともに、女は再び居合の構えを取る。
その静謐な動きが却って怖い。なんだこの武士キャラは。話し合う気ゼロなのか?!
武士道精神はどうした!?。いや、武士道精神……?
俺は手にした斧をその場に放り捨て、両腕を真っ直ぐ上げた。
「戦う気はない! 貴方は丸腰の相手を斬り伏せるのか!?」
言った瞬間、女はピタリと停止した。
口元がわずかに歪み、ムムムと唸る声が聞こえる。
いけるか……?
「名も名乗らずに無抵抗の人間を襲うのか! 誇りはないのか誇りは?」
「……えぇいッ、わかった!」
女はついに居合の構えを解き、深いため息をついた。
(ひとまず話が通じる相手でよかったけど……まだ警戒は解けないな)
それにしても、こんな武士キャラゲームにいたか?
武士キャラは存在したが、見た目が全然違う。
ならば会話で情報を引き出すしかない。
「俺の名前はアスノ・パウワーです。貴方は?」
女の顔は仮面めいた装飾で目元が完全に覆われ、見えるのは口元だけだ。
だが、そこから溢れる“いけすかない雰囲気”は隠しようがなかった。
「誇りがどうだと言った口で嘘を吐くか。──デニス・ガーランド」
鼓動が一気に跳ね上がった。
理解するのに一瞬かかった。いや、理解したくなかっただけだ。
(まさか……“デニス”と面識が?)
だがすぐ否定する。見た目は魔術で変えている…
いや、この程度の変化で誤魔化しきれなかったというのか?
違う─
(……鑑定か。俺がさっき彼女にやったのと同じだ)
様子見している間に鑑定持ちなら当然使う。
デニスの高いスキル耐性に甘えすぎていた。
さっきの全力魔力での一撃の余韻で注意が散っていたこともある。
クソ。認識阻害装備を早急に用意しておけば……
「目つきが変わったな。やる気になったのか?」
挑発気味の声。
俺は落ち着くため、大きく息を吸い込み、ゆっくり吐き出す。
熱が引いていく。
確かに正体を見破られたのは驚いた。だが─
(俺がデニスだとバレたからって何だ?)
ガーランド家から宝を持って逃げた“次男坊”がバーチの喉笛にいたと叫んだところでどうなる?
そもそも昨日の今日で情報が出回っているはずがない。
ガーランド家は俺が出ていったこと自体、外部に漏らしたくないだろうし…
(今確認すべきは……彼女と俺の関係性だ)
俺はゆっくりと女を見据えた。
「嘘吐き? 変な仮面つけた怪しい奴に本名なんか名乗れるか」
「こ、コレは先生が肌身離さず身に着けろと無理やり!」
「先生? 名前は?」
女は胸を張り、誇らしげに口元を釣り上げた。
「聞いて驚け! 私の先生は――あびびびびびっび?」
名を告げようとした瞬間、仮面から青白い電流が弾け飛んだ。
まるで西遊記の緊箍児だ。情報漏洩防止用の仕掛けか?
女は電撃に肩を震わせながら、忌々しげに仮面を掴んだ。
「こんな物ッ……!」
勢いよく引き剥がそうとしたその瞬間、またも電流が走り─
「あびびびびびびっ?」
……この人もしかして、かなりのポンコツなんじゃあないか?
さっきまで殺気全開だったのに……
クールな武人キャラにはもう戻れないぞ
遠回しな探りは時間の無駄だ。直接訊いた方が早い。
「すみません、俺と貴方はどこかで会ったことありますか?」
「ふざけているのか? 私が強者の顔を忘れるわけがないだろう!」
「……えーっと、どこで会いました?」
「今ここで会っただろうが!」
なんだその胸張って言うことじゃない事実確認は。
……初対面ってことで確定でいいな。
「じゃあなんで俺がガーランド家の人間だってわかったんですか?」
「それはこの仮面の力で……んぅ? やはりおかしいな。貴様のデータが名前以外読み込めん」
可怪しいのはその仮面の能力だと思うけどな
俺のステータスを読むには、鑑定スキルが高ければできるかもしれない。
だが、俺のスキル抵抗値を抜ける存在なんてそう多くない。
それなのに、こいつの仮面は表層データではなく
読まれたくない深層の方を読みに行っている。
(なんなんだその仮面……誰が作ったんだよ)
仮面の製作者はわからないが、女から得るべき情報はひとまず得られた。
一番手っ取り早いのは《精神操作》で記憶を弄って
会った事を忘れてもらうのが手っ取り早い。
だが、精神操作》を他人に使うのは気が引ける
どんな悪影響があるかわからないからし、倫理的にも、ね
そもそも、ここでの遭遇を言いふらされたところで
そこまで困ることもないだろうし、ダメ元で頼んでみるくらいはいいだろう。
「貴方が何者であるかは問いません。ただ一つお願いがあります。
ここで俺と会った事は誰にも言わないでもらえませんか?」
俺がそう言うと、女は顎に手を添えるように少し考え──そして口元をにやりと歪めた。
「お前の頼みを私が聞く道理はないな」
まぁ、そうだよな。完全に俺の都合だし。
と思った矢先、女は鞘から刀を抜き、その切っ先を俺へ向けて宣言した。
「だが、私に勝てたならその願い、聞いてやろう」
なるほど、そう来るか。
(対人戦か…)
魔物との戦闘はこれからいくらでもできるが
対人となると少し難しいだろう
良い機会だ、一度経験しておこう
俺は居住まいを正し、相手に正対した
「では、俺が勝ったら口外無用。約束してくださいね」
「この刀に誓おう」
「よし、じゃあ──」
俺は魔力を練り、指先で空をなぞる。
《土魔法》
荒れた岩肌に光が落ち、瞬く間に芽が伸び、幹が膨らみ、枝が張り──一本の大樹が姿を成した。
《風魔法 ウィンド・カッター》
風刃が枝を切り落とし、その木材を俺の魔力で加工し、片手剣と、鞘付きの木刀を形成する。
「ルールは、『まいった』と言うか、武器を喪失したら負け。で良いですか?」
俺は木刀を女へ放った。
女は反射的にそれを受け取り、すぐには構えなかった。
視線を落とし、丸めた刃の部分を指でなぞる。角度を変え、軽く振り、重心と手応えを確かめるような仕草。
やがて、ふっと鼻を鳴らした。
「良いだろう。これなら殺すことはなさそうだ」
「いや、貴方さっき初手で真剣抜いて斬りかかろうとしてましたよね?」
思わず即ツッコミが出た。
「俺が止めなかったらどうするつもりだったんですか?」
「…………」
一瞬の沈黙。
女は視線を逸らし、少し間を置いてからぼそりと言った。
「……考えてなかった」
こ、この女ァ……! お灸をすえてやらにゃなあ!
俺は今度は自分の木剣を差し出す。
「じゃあ、俺の木剣もしっかり確認してくださいねぇー」
わざとらしく、嫌味をたっぷり込めて言う。
「武器に不正があったから負けた、なんて言われると困るんでぇ」
──ビキッ。
空気が軋む音がした気がした。
女は無言のまま木剣を受け取り、同じように刃と柄を確認する。
数秒後、何の前触れもなく、それを俺へ投げ返してきた。
「問題ない」
そして、低く言い放つ。
「負けた時の言い訳は……貴様が考えておけ」
女は再び、静かに居合の構えへと入った。
俺は魔力で生み出された大樹の影の中に立ち、
右手に木剣を握り、左腕を前へ突き出す。
静寂─ 大樹の葉が風で揺れる音だけが響く
大樹の枝先から、ぽとりと木の実が落ちる
それが、戦いの合図だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
フォロー、レビューなどいただけるとモチベーションが上がります
よろしく願いします
ブックマーク、☆など頂けると今後の活動の励みになります。
よろしくお願い致します




