第10話「ラスボスだったけど崖、崩します」
チホートから離れ、俺は空を飛んでバーチの喉笛へと向かっていた。
"バーチの喉笛"は、ゲーム中盤で訪れる山岳地帯。魔物の強さもそこそこあり、
今の俺の戦闘力がどれほどなのか測るには丁度いい。
本当はガーランド領にある“死の山”へ向かいたかった。
だが、何かあってガーランド家の人間に見つかったりすると面倒だ
まぁ死の山は名前通り、魔物の強さはラストダンジョンと同等か
それ以上の場所なので、そんなとこにガーランドの人間が
来るとは思えないが念には念を入れる
(というわけで、まずは中盤フィールドで肩慣らしだ)
俺は岩肌の斜面に着地し、軽いストレッチをしてから歩き出した。
すると、目の端で岩陰が動いた。
鑑定。
──Lv40 タウロス。
牛と馬を混ぜて、さらに人型に寄せたような筋肉モリモリ魔物。
こちらに気づいた瞬間、ドスドスと突進してきた。
「まずは素手だ」
俺は身体強化魔法を纏い、拳を突き出した。
ドゴッ!
タウロスの上半身に大穴が空き、そのまま崩れ落ちた。
(素手でこの威力…ラスボスの肉体が優秀すぎるな)
絶命したタウロスを収納魔法へ放り込む。
(確かタウロスは食べると力のパラメーターが上がるんだよな。
アークに土産で持って帰ろう)
そう思って回収していると、別のタウロスに思いきり見られた。
そして──。
「グオォォオオォォ!」
雄叫びが山に響く。
その声に呼ばれるように、岩場からどんどんタウロスが集まってくる。
ざっと見て20……いや30体くらいか
(丁度良い…)
俺は軽く肩を回して、拳を握りしめた。
「まだまだ試したいことが山程あってな!」
そのまま、タウロスの群れへ突っ込む。
タウロスの群れが地響きとともにこちらへ迫ってくる。
俺は息を整え、一歩前へ踏み出した。
「炎魔法――《メガ・ファイアー》!」
掌から溢れた炎が渦となり、前方へ爆ぜる。
轟音とともに、4、5体のタウロスが瞬時に火柱に飲まれた。
燃え上がる仲間を見たタウロスたちが吠え、隊列を組み始める。
三体一組――スリーマンセルの陣形が2つ。
まっすぐ俺に突っ込んでくる。
「風魔法――《ウィンド・カッター》!」
指すと同時に、鋭い風刃が地を裂く勢いで駆け抜けた。
先頭の一組がまるで紙細工のように胴体ごと両断され、断末魔すらあげられない。
残りの一組が、俺の真正面――あと4歩。
その巨体が影となって覆いかぶさる。
「氷魔法――《アイス・バイド》!」
地面から一気に霜柱が噴き上がり、前衛の二体を瞬時に氷の彫像へ変える。
残った一体は恐怖に目を見開き、慌てて後退りし、背を向けて逃げようとした。
逃がすつもりは毛頭ない。
「闇魔法――《ダーク・ボム》!」
黒い魔力の塊を後ろに飛び去りながら放つ。
それは氷漬けのタウロスへ着弾し、凝固した肉体を中心に黒煙を巻き上げて爆ぜた。
逃げようとしていた一体も巻き添えで木端微塵だ。
(闇魔法だけ威力が一段上だ、適正がSなだけあるということか)
残ったタウロスたちは、恐怖に駆られたように散り散りに逃げ出し始める。
「逃がさない!」
「闇魔法――《ダーク・ウェブ》」
俺を中心に、上空から黒光のヴェールが降りた。
半径五十メートルが、分厚い闇の膜で覆われる。
逃走を試みていたタウロスが結界へ勢いよく激突し、弾かれて転倒する。
中には結界を拳で叩いて破ろうとする者もいるが
このレベルの結界を、そこらの雑魚が壊せるはずがない。
俺は収納魔法へ手を伸ばし、一本の剣を取り出した。
「どの武器が俺に合うのか、試させてくれよ」
タウロスたちが覚悟を決めたように咆哮し、一斉にこちらへ殺到する。
「悪いな、俺の礎になってくれ」
◆
タウロスの群れを片付けて、ひとつ確信した。
元々ターン制だったマジブレの戦闘処理は──
ソウルライクアクションスタイルへ最適化されている。
スキルや魔法は、頭の中で“使う”とイメージするだけで、
身体が最適な動きを選択して発動する。
まぁここに来る前から魔法を何回か唱えていたので大方予想通りではあったが…
(武器は片手剣が一番使いやすかったな)
全武器の適性は相変わらず高い。けれど、その中でも
剣だけは妙に“馴染む”感じがあった。
握りの角度も、踏み込みの感覚も――まるで昔から訓練してきたみたいに自然だ。
(デニス……お前、誰かに剣を習っていたのか?)
目を閉じて記憶を探ってみるが、ハッキリしたものは浮かんでこない
一瞬、誰かに稽古をつけてもらっている絵が流れるが
その人物の輪郭は黒い靄に覆われていて、何も掴めない。
(…デニスの記憶が徐々に消えていっている?)
試しにデニスの両親のことを思い浮かべて見たが
蔑んだ口元が見えるだけで他は霧の中へ沈んだままだ
(俺がこの肉体に馴染んでいく副作用ってとこか?)
デニスとしての記憶が抜け落ちていくことに、不思議と焦りはなかった。
もう“デニス・ガーランド”として生きるつもりはないし
逆に好都合かも? デニスを知る人物に出くわしても他人として振る舞えるし
そう考えると――消えていく記憶に、寂しさすら覚えなかった。
タウロスの死体を回収しながら、俺は次のテストを考える。
(武器の耐久とか攻撃力の基準が知りたいな)
まずは収納魔法から安物のナイフを取り出した。
そのとき、すぐ近くの茂みが揺れた。
鑑定。
──Lv42 アルミラビット。
額にでっかい角がついたウサギ。味は美味いらしい
俺は敵視スキルでヘイトを取る。
アルミラビットがピョンッと跳ね、一直線にこちらへ飛びかかってきた。
俺は迎え撃つようにナイフを突き出す。
バキッ──!
ナイフはアルミラビットの硬い毛皮に触れた瞬間、刃が見事に折れたが
勢いは止まらず、そのまま折れた刃でアルミラビットを貫く。
ドシュッ!
刃の残骸が肉を割き、タウロス同様、風穴を開けてアルミラビットは絶命した。
(半端な武器じゃすぐに壊れるな…)
耐久値の減り方とか、攻撃力の基準値とか、細かい仕様は
今日一日じゃ把握しきれなさそうだ。
「最低ラインは測れたし……じゃあ今度は“上限”だな」
そう言って、収納魔法から一本の剣を取り出す。
──魔剣グラウ・ゾラ。
ゲームで上から三番目に強い剣。
全長90cm、黒い刀身に紫色の光が揺らめく
ちなみに、他の武器──弓、斧、槍、等も上から三番目に
強いやつを宝物庫から拝借している。
俺はグラウ・ゾラを軽く振って感触を確かめ、それから周囲を見回した。
すぐ近くに、さっきのアルミラビットと同じレベル帯の個体が跳ねている。
(丁度いいな)
アルミラビットがこちらに気づいた瞬間、一直線に飛びかかってくる。
俺は踏み込み、横薙ぎにグラウ・ゾラを振るった。
スッ──
手応えは--ほとんど無い。
熱したナイフでバターを切ったような感覚
アルミラビットは、自分の身体が真っ二つにされたことに気づかないまま、
半歩進んでから崩れ落ちた。
(切れ味が段違いだな……さすが第三位の剣ってとこか)
俺は目の前の大岩に目を向ける。
(これ、岩くらいならいけるんじゃ……?)
大岩の前に立ち、勢いよく振り下ろした。
キィンッ。
岩は斬れはした。だが、魔物を斬ったときのような滑らかさはない。
刃が引っかかるような抵抗があった。
(俺の剣技が未熟なのか? ……いや、そもそも岩を斬るのが
間違ってる気もするけど)
そこで、ゲームの仕様を思い出した。
(魔力補正値……剣に魔力を通してみるか)
呼吸を整え、魔力を刃へ流し込む。
黒い魔力光がグラウ・ゾラを包み、刀身が脈動する。
そのまま、大岩へ斬りつけた。
ズパァァァンッ!
岩どころか、後ろの地面まで深々と切り裂かれていた。
(なんて斬れ味だっ)
ミスリル鉱石は魔力伝導率が高いとは
ゲームのフレーバーテキストで知っていたけど
こんなに威力が上がるのか
試しに鉄製や鋼の武器にも魔力を込めてみたが、
大半は“その場で”ヒビが入り、まともに強化できなかった。
「良くて一撃。だいたい魔力込めるとその場で壊れるな」
しかも全力ではない。
MPの5%程度でこの壊れ方だ。
(ミスリル鉱石すごいな…)
俺は黒い刀身を撫でるようにさする
(全力の魔力を注ぎ込んだらどうなるんだ?)
そう思ったが、グラウ・ゾラを壊すのは流石にまずいので
俺は宝物庫から拝借しておいた“別のミスリル製武器”を取り出した。
戦斧オルドガイン
斧を両手で持ち 意識を集中させる
全魔力--全開放。
魔力を入れた瞬間、空気が変わる。
岩肌に反射する光がゆがみ、足元の砂利が浮き、周囲の岩石が震える。
景色そのものが俺の魔力圧に押され、ほんの僅かに“沈んだ”ように見えた。
(……いくぞッ!!)
俺は反り立った崖の岩壁に向かって斧を振りかぶり、そのまま叩きつけた。
ドゴォォォォンッ!!
耳が割れるような爆音。
衝撃で風が逆巻き、周囲の岩が吹き飛び、崖そのものが形を失った。
(こいつは…強力すぎるッ)
自分が行った破壊の惨状に怯えつつも高揚感を覚える
肝心の斧の方はというと… わずかにヒビが入っていた。
(ミスリルでも耐えきれないか。全力は控えたほうがいいな……)
腰を下ろして一息つこうとした瞬間、気配を感じた。
(魔物じゃない……人の気配だ)
俺は立ち上がり、声を向ける。
「誰かは知りませんが、覗きなんて趣味が悪いんじゃないですか?」
岩陰から、音もなく一人の女性が現れた。
白い肌、腰まで伸びた緑の髪。
左腰には一本の刀。そして──顔の上半分を覆う、仮面めいた装飾。
「失礼。崖が吹き飛んだので見に来たら、人がいたものでね。様子を伺っていた」
(誰だ……?ゲームにこんなキャラいたか?)
反射的に鑑定を使う。
だが--
表示されたウィンドウは、文字化けしたように何も読み取れなかった。
(認識阻害…… あの仮面のせいか?)
女性は静かに歩み寄り、鞘に手を添えた。
「東に吉報あり、とはこのことだったか」
そのまま、流れるように居合の構えを取る。
「一手、御教授願おうか」
ブックマーク、☆など頂けると今後の活動の励みになります。
よろしくお願い致します!




