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ブレイカーズ ─大好きなゲームのラスボスに転生したので破滅を回避しつつ続編を生み出します  作者: 七宮ペポポ


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1/10

第1話「ラスボスだけど家出します」

挿絵(By みてみん)


プロローグ


 エンドロールが流れている。


 ぼんやりとした光が部屋に反射して、暗いモニターの前に座る俺

――**明日野力アスノ チカラの顔を照らしていた。


「……終わった。終わってしまった……」


 気力をすべて吸い取られたみたいに、俺はソファにもたれ込む。


 『マジカルブレイブズ』。

 発売は西暦2X25年。いわゆる学園恋愛ファンタジーRPGの金字塔である。

 プレイヤーは学院に通いながら学生生活を送り、剣と魔法の研鑽と、

 好みのヒロインとの甘酸っぱい恋愛を味わえる。

 そしてその完成度が、とんでもなかった。


「キャラが良かったな…ほんと」


 主人公のアーク、幼馴染のミーナ… 他にも魅力たっぷりのキャラクター達…


 とくに気に入っていたのが、ハーレムルートのラスト

 ラスボスを自身の命をかけて封印した後の救出シーンは

 王道だけど目頭が熱くなった


「はぁ……全ルート制覇しちゃった。もうマジブレの世界に浸れないのか…」

明日から何を糧に生きていけば良いだろう

あぁ… 続編の発表とかないのか?


俺はソファの横においたスマホを取ろうと立ち上がった、その瞬間。


「……っ、ぐ……!」


 脳の奥で何かが弾けたような鋭い痛みが走った。

 視界が一瞬で黒く反転する。


 まずい……これは……。


 ブラック企業に勤務し精神を病んで眠れなくなった体

 常に気だるく無気力の中、マジブレのお陰で久方ぶりに感情が動いた

 面白くて先を知りたくてプレイし続けた。

 眠れなくなったけどゲームをずっとプレイできるのは唯一のメリットか

 なんて少し思ったが、無茶を重ねて、へし折れた。


 頭の中で、細い何かがぶちっと切れる音がした気がした。


「……っ……!」


 崩れ落ちた視界の先にマジブレのパッケージが目についた

 これが俺の最後…  こんな終わり方…


 マジブレの続き…出るならやりたかった…


 そして意識は暗闇へと沈んだ。




◆ ◆ ◆




 瞼を開けると、見知らぬ天井があった。

 白い漆喰の天井。

 装飾のついた木枠。

 高価そうなレースの天蓋。


「……どこだ、ここ」


 ゆっくりと体を起こす。


 部屋は広く、壁には古風なタペストリー。

 窓は大きく、外は青々とした澄んだ空が広がる。

 重厚な木製調度品、見事な彫刻が施されたベッド。


 中世…にしては衛生が良すぎるファンタジーな

 貴族の一室がそこにあった。


 俺は外を見ようとベッドから立ち上がり窓に近づく

 そして俺は窓ガラスに写った自分の姿に驚愕した



「……デ、デニス!?……デニス・ガーランド!!?」



急いで部屋に備え付けられた鏡の前に移動して

自分の顔をよく見てみる


 鏡に映るのは――黒髪に、赤い瞳の青年。

 その冷たいほど整った顔立ちは、眉をハの字に曲げ

 目を丸くし、冷や汗を流すというゲームでは

 見ることがないコミカルな顔をしていた


 デニス・ガーランド

 『マジカルブレイブズ』のラスボス。

 どのルートでも、最後に立ちはだかる敵役だ

 圧倒的な魔力を持つ、闇属性の天才貴族。

 金髪翠眼の主人公とは真逆の、黒髪赤眼の悪役。


 その姿が、そこにあった。


「俺……まさか転生した……のか?」


 本気で震えた。


 なぜなら――。


 デニス・ガーランドは、殺される。


 最後はマジブレ主人公であるアークとその仲間達により破滅する運命にある


「……いや、待てよ?」


 震えはすぐ別の感情に変わった。


 ゲームと違って、俺が“悪いこと”をしなければ主人公達に殺されることはない。

 むしろ俺が余計なことをしなければ、彼らは学園生活を楽しみ、

 平和な世界が続く─


 そして何より……


(俺、マジブレのキャラ本人達と会えるのか!?

 上手くやればクリア後の姿も見られるんじゃあ)


 胸がドクドクと高鳴る。


 俺が破滅フラグを折ってさえいれば、俺が死ぬこともない。

 平和な世界の“続き”を、愛したキャラと一緒に作れる。


「……ヨシッ!!」


 俺は勢いよく立ち上がった。


「やってやる!

 この世界を…存分に楽しみ尽くしてやろうじゃないか!」


 鏡の前で、デニスの悪役らしい赤い瞳がキラキラしている。


 デニス・ガーランド改め、明日野力の“第二の人生”が、ここに始まった。







第一話「ラスボスだけど家出します」





鏡の中で黒髪赤眼の悪役顔がニヤついている。

 ……あ、俺の顔か。慣れん。


 さて。デニス・ガーランドに転生した俺――アスノチカラ。

 破滅フラグ回避のためにも、まずは“現状把握”が必要だ。


まずは俺のステータス確認か

ゲームだとメニュー画面からキャラステータスを見れたが…


目を閉じてマジブレのゲーム画面を思い浮かべてみる─

すると頭の中にゲームと同様のステータス画面が表示された


レベル64 ってこれゲーム終盤のLvじゃないか

闇魔法の適正がS 他の属性もB以上ある 流石に光はEランクか

スキルは鑑定、発明、隠密、話術─

何でもできるな…流石ラスボス

まぁそうじゃないと各ルートで障害として立ちはだかれないか


デニスはゲーム本編では開始時から悪名高い貴族として登場する

犯罪まがいのことをやって事件を握りつぶさせたりと、悪い噂は絶えなかった


(すでに各種能力が高いのは、悪事で得た経験値があるから?)


ふと廊下から人の気配を感じ目をあける

遠慮がちに扉が数回叩かれた


「で、デニス様……お、お着替えをご用意いたしました

 ……よろしいでしょうか……?」


 声が震えすぎて聞こえにくい。

 入ってきたのは二週間前にデニス専属となったメイドの姿が

 名前は…わからない デニスは使用人の名前など覚えるヤツじゃないので

 解釈一致ではあるが… 人としてどうなんだと思う


 彼女は俺の顔を見るなり、ぴしっと背筋を伸ばし、

 皿でも割った子供みたいな表情で固まった。


「……あ、あの……昨晩の件で、私、何か……?」


「え?何もしてないよ」


「…………えっ?」


 メイドさんの目が「本気ですか?」と言わんばかりに丸くなる。


 …うん、ここまで怯えるのはデニスが普段どれだけ横暴だったかという証拠だ。

 ゲームでもデニスは使用人を家畜扱いしていたし、悪評も多かった。


 つまり今、俺がちょっと普通に接するだけで――


(めっちゃ警戒されてる……)


 メイドさんは恐怖よりも「困惑」が勝ち始めたのか、

 俺の表情を数秒おきに確認しては、微妙に首をかしげていた。


「で、デニス様……本当に……怒っておられない……んですか?」


「ああ。むしろ……いつも悪かったね」


「………………えっ???」


 メイドさんは本気で固まる。

 完全に“理解が追いついてない”って顔だ。


(うん、まあこれくらいの反応だよな……デニスだし)


 その後も俺が普通に会話するたび、

 メイドさんの“恐怖 → 困惑”のゲージが上がっていくのが分かる。

 だが、それはそれで悪くない変化だろう。怯え続けられるよりは



「あの… 少し聞きたいことがあるんだけど」


「っ……! は、はい……なんなりと……!」


 怯えと困惑の入り混じったまま、メイドさんは返事をする。


「今日の日付は?」


「え、えっと……新暦1829年、10月10日でございます!」


 10月。また一つ心臓が跳ねた。


(ゲーム開始は翌年4月……つまり半年ほど前か)


マジブレ本来の主人公であるアークとゲーム開始前に

合流するには十分な時間がある


「今日の予定は?」


 俺の質問に、メイドさんは一瞬びくっとした。


「は、はい…っ。 昼にヘベル家との会食、

夜に『当主継承の晩餐会』が…」


当主継承というワードを聞いて思い出した


 ゲーム内で一行で流された“毒殺事件”。

 本来のデニスが家族に毒を盛り、家督を奪う――悪行イベント。


 この日を境に、デニスは更に暗い道へと足を進めることになる

 

(……今日なのか)


「……わかった。下がっていい」


「は、はいっ……失礼いたします……!」


 メイドさんは逃げるように部屋から去った。




 メイドさんが部屋を出て静寂が戻ると、俺は深く息を吸った。

 この身体――デニスの肉体に流れる魔力が、胸の奥に重い影を落としている。


(ガーランド家の……“後継”か)


 この家に生まれた者は、生涯を家のために捧げる。

 領地、政治、婚姻、派閥、継承争い――

 ひとつでも誤れば一族の血統そのものが揺らぐ。


 この家に生きるとは、“自由を持たぬ者”として生きることと同義だ。


 だが、本来のデニスはその鎖を喜んで纏った。

 当主の座を得るためなら手段を選ばず、

 家の名誉のためなら、いや─ 自分の理のためなら

 誰を切り捨てることも厭わない。


(けど、俺は……違う)


 俺の中身は明日野力アスノチカラだ。

 家のために生まれたわけじゃない。

 血統だの名誉だのよりも、“物語”を追いかけてきた人間だ。


 それに――


(このままここにいれば、いずれ俺は“デニス”に戻ってしまう気がする)


 この家の空気は重い。

 支配する者とされる者が明確に区別され、

 力ある者は力なき者を踏みしだくのが当然とされる。


 本来のデニスが辿った道筋も、

 この家で育ったからこその必然だったのかもしれない


(ここに留まれば……俺も、いずれ同じになる)


 それは嫌だった。

 せっかくこの世界に転生したのに、前世で嫌というほど味わった

 “誰かのルールの中に閉じ込められる人生”に戻る気なんてない。


 そして、もうひとつ。


(アーク達に会いたい)


 それは子供じみた願望かもしれない。

 だが、俺は最後の数カ月、マジカルブレイブズの物語に心を預けていた。

 死ぬ間際もマジブレで生きる彼らの“その後”が見たくて仕方なかった。


 貴族社会の泥沼に沈むより、

 彼らと歩む未来のほうが、よほど俺には価値がある。


(家督を継がず、家を出る……

 それが最も“破滅フラグ”を避ける道でもあるだろう)


 デニスという存在が強大なのは、ガーランド家の財と権力を握るからだ。

 ならば、その根幹に触れる前に離れてしまえばいい。


 ゆっくりと立ち上がり、外套を羽織る。

 宝物庫へ向かう足取りに迷いはなかった。


(これは逃避じゃない。選択だ)


 この世界で、俺自身として生きるための――。




◆ ◆ ◆




 俺は人目を避け、ガーランド家の宝物庫へ向かった。


 貴族の屋敷といえば、だいたいこういうのがある。

 そしてデニス・ガーランドの家なら、当然のように金銀財宝が眠っている。


 真っ昼間から宝物庫に訪れた俺に対し、困惑3恐怖7の顔で

 相対した番人に一瞥すると

 キビキビした動きで姿勢を正して敬礼をする

 

(どれだけ怖がられてたんだデニスよ…)


 宝物庫を開き、長い廊下を進む。

 その先に金貨の山、宝石箱、レア魔導具の山があった


 それらを見て思った。


(……一生遊んで暮らせるな)


 いや、実際そうだ。ラスボスの家だぞ。貯蔵量が桁違いだ。


「…必要な分だけ……頂いていく!」


 中が異空間になっており物の時間も止まるという

 収納魔法に金貨や宝石と魔導具もぶち込む。


 あっ ミスリルインゴット 魔力伝達が良いから

 ゲーム後半の装備は大体コレで作るんだよなぁ

 エリクシルもある。何でも治すらしいがゲームプレイ時は

 ラスボス戦以外はもったいない精神で使わずダダあまりさせたっけ

 

 なんて色々吟味しながら宝物庫を荒らし回った後

 金輪際ガーランド家とは関わらないから最後にいくらか金品を貰っていくと

 手紙を残して宝物庫を後にする

 


 宝物庫の扉が背後で静かに閉まる。

 昼下がりの陽光が差し込む渡り廊下を抜け、隠し通路へと足を進めた。

 石壁の冷たさも、今の俺には妙に心地よい。


 通路の終端にある小さな鉄扉を押し開けると――


 眩い夕日が世界を染めていた。


 茜色に燃える空。

 広大なガーランド領の平原が、金砂を撒いたように輝いている。

 さっきまで屋敷の空気にまとわりついていた重さが、

 風に攫われていくようだった。

 

(…なんで泣いてんだよ俺)


 胸の奥で、長く息を潜めていた“俺自身”が、静かに目を覚ますのが分かった。

 仕事で病んだ精神が、感情が戻っていくのを感じた

 この景色を俺は生涯忘れることはないだろう。新たな人生の始まりとして


 ここから先、デニス・ガーランドとして歩く必要はない。

 歩いてはいけない。


「まず、捨てるか。名前も、姿も」


 俺は外套の裾を握り、深く息を吸い込んだ。

 デニスの身体に満ちる魔力を指先に集中させる。


変質ミューテイト》――闇魔法の応用。

 本来は姿を歪める忌避系の魔術だが、

 “ラスボス”の魔力量なら微細な調整など造作もない。


 黒髪を撫でた風が、一度だけ渦を巻く。

 その瞬間、色がほどけるように散り、灰銀の髪へと変わった。


 続いて瞳。

 宝物庫から拝借した手鏡に映った自分へ、そっと指先を添える。


 瞳の赤い光が淡く揺らぎ――

 深い青へと静かに染まっていく。


最後に

肌にも魔力を浸透させると、白い色味がゆるやかに沈み

浅黒い影が滲むように広がっていく。



「……よし。これで“デニス”は終わりだ」


 夕日が新しい髪色を照らし、青い瞳の奥へ黄金のラインが差し込む。

 まるで、“これから先の道はお前の意志次第だ”と告げられているようだった。


(破滅フラグも、宿命も、全部置いていく。 俺は、俺として生きるんだ)


 前世で叶わなかった自由。


 マジブレのキャラたちと肩を並べて歩く未来。

 

 そして――この世界で迎える新しい人生。


 その全部に、手を伸ばせる所に今いるのだ


 胸の奥に熱く、高揚する魂を感じた


 「こんな気持になるのは、何年ぶりだろうな」


 振り返らない。

 ガーランド家の巨大な屋敷は、もう遠い背景の一部だ。


 俺は夕陽に向かって歩き出す。

 目指すはスローラ――主人公アークの故郷。

 物語の始まりの地。


「新しい名前… どうしようかな」


 灰銀の髪が風に揺れた。

 新しい人生へ歩む者のように、軽やかに。



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