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コミュニケーションという名の探り合い  作者: 志に異議アリ


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2/7

川島 梓


川島梓は、人に頼られることが多い。

それはたぶん、断らなさそうな顔をしているからだ。


朝、席に着くとすぐに声がかかる。

「梓ちゃん、おはよー。昨日の資料さ、ちょっと見てもらっていい?」

振り向く前からわかる。

榊原先輩だ。


距離が近い。

声も、視線も、タイミングも。

「いいですよ」

言ってしまってから、

自分のスケジュールを思い出す。

(今日、詰まってたんだっけ)

榊原先輩は悪い人じゃない。

むしろ、親切だ。

椅子を引き寄せて、画面を覗き込んでくる。

「ここさ、前も似たのやったよね。

 ほら、この言い回しの方がさ——」

梓は頷きながら、メモを取る。

(教えてくれてる。

でも、今じゃなくてもよかった)


その「今じゃない」が、

毎回うまく言えない。


昼前、今度は中西先輩からチャットが来た。

《この件、任せるね》

それだけ。

資料も説明もない。

質問を投げると、しばらく既読がつかない。

(放置されるのと、踏み込まれるの。

どっちが楽なんだろう)

梓は結局、自分で調べて進めた。


午後、廊下で三浦透とすれ違う。

軽く会釈。

彼はいつも静かで、必要以上に近づいてこない。

(あの距離感、ちょっと羨ましい)

でも同時に思う。

(冷たいって、思われないのかな)

夕方、榊原先輩がまた来た。

「ねえ、さっきのさ。

 ちょっと言い過ぎたかな?」

梓は一瞬、言葉に詰まる。

本当は、

言い過ぎたわけじゃない。

近すぎただけだ。


「大丈夫です」

そう答えたあと、少しだけ付け足す。

「次から、先に声かけてもらえると助かります」

榊原先輩は目を丸くして、それから笑った。

「そっか。ごめんごめん」

その笑顔に、罪悪感が胸をかすめる。

(線を引くって、

 誰かを傷つけることだと思ってた)


帰り支度をしながら、梓は思う。

世話を焼く人も、

放っておく人も、

どちらも自分なりにやっているだけだ。


自分ができるのは、

全部を受け取ることじゃなくて、

受け取れる範囲を伝えること。

近づかないことは、

冷たさじゃない。

自分が壊れない距離を、

ちゃんと選ぶことだ。

梓はバッグを肩にかけ、

静かになったフロアを後にした。



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