貴族に愛は贅沢品だから
六歳、お母様が何度も私に話してくれた、両親が行った世紀の結婚式に強く憧れた。
八歳、自分の立場、身分を理解し始めた。
侯爵家の一人息子のお父様は婚約者が居たにもかかわらず、男爵家の令嬢のお母様と惹かれ合い恋に落ちた。貴族には珍しい恋愛結婚。私は、仲睦まじい両親が大好きだった。
十歳、父が不倫した。
そして今、十七歳の誕生日を迎えたばかりの私は、すべてに諦めがついていた。貴族にとって、愛は贅沢品なのだと。
「やあ、ルディア。侯爵様はどちらに?」
「エティエン。お父様なら、ガーネット夫人の元よ」
「ハハッ、侯爵様は相変わらずだなあ」
何が面白くて笑っているのだろう。
私の婚約者、エティエン・アドラー子爵。お父様の大のお気に入りで、私との婚約を、私に黙って約束してきたのがほんの昨日のことのよう。
「踊りましょう、ルディア」
「はい、エティエン」
差し出されたエティエンの手を、私は取った。
お父様は今頃、あの女と一緒なのかしら。お母様はちゃんとお食事を取っているかしら……。
そんなことを考えながら、私は習ったとおりに身体を動かした。
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ダンスを踊った後、友人たちの元へ行ったエティエンと別れた私は一人で王国の中庭へとやって来た。
夜にも関わらず、白夜によって照らされた芸術的な彫刻たちと手入れされた池が見える。
どこか騒がしい胸を落ち着けるためにゆっくりと足を進めた時のこと。
夜の闇に隠れていたはずのその黒髪が、月光を受けて煌めいたのだった。
驚きのあまり叫びそうになったのをグッと堪えて、私はその輝かしい黒髪の持ち主に声をかける。
「オルレアン王国の光にご挨拶申し上げます、エヴァレット王子殿下」
「……誰だ」
なんだか、とっても機嫌が悪そうだけど……。どうしちゃったのかしら。
エヴァレット・フォン・レーデン・オルレアン王子。
この国たった一人の王子であり、王国一の花婿。
通称のとおり、令嬢たちの憧れの的で、生まれながらにしてすべてを手にした王子様。
優しくて紳士だって噂だけど、目の前の王子様はどうも機嫌が悪そうだった。
「ローレンス侯爵家の娘、ルディア・ローレンスでございます。エヴァレット王子」
「ローレンス……? ああ、ルディア・ローレンスか。父上から聞いているよ」
「国王陛下が? 本当ですか?」
「ああ、本当さ。ルディア・ローレンス……何とも、父親にそっくりな娘だとか」
その瞬間、エヴァレット王子の青い瞳がギラリと光った。
「……私と父がですか?」
「ああ。ったく、頭が痛くて仕方ないな。まったく、父上も本当に面倒なことをする。婚約なんて面倒なだけだっていうのに……」
エヴァレット王子、私は貴方にそんなひどいことを言われる義理はないと思うけど。いくらなんでも、父と……あの男と私が似ているなんて、あんまりじゃない?
「侯爵からどういわれてここに来たのかは知らないが、僕は一人になりたいんだ。分かったら、さっさとどこかへ――……令嬢?」
余裕気だったエヴァレット王子の顔が、一瞬にして焦りへと変わる。
「人をストーカー呼ばわりしてるけど、私だって貴方みたいに腹立たしい奴とは会いたくありません。人の家の事情も知らないくせに……勝手なことを言わないで!」
彼の目に映し出された私は、情けなくも自分の感情をコントロールできず、溢れんばかりの涙を頬に伝わせていた。
普段なら、笑ってごまかせていたはずなのに。
今朝、父の不倫が発覚してから精神を病み、遠くの領地で療養している母の肖像画が届いたばかりだった私にとって、憎き父と似ているという言葉は何よりも腹立たしいものだった。
私の大好きなお母様、あんなにも美しい人だったのに。
『お願いです、お父様! お母様に会いに行かせてください! お父様だって肖像画をご覧になりましたでしょう? お母様ったら、あんなに疲弊されて……』
『侯爵家の息女でもあろうお前がそんなに騒ぐな、みっともない! 画家が大袈裟に描いただけに違いない。あいつは、昔から人の気をひくためなら手段は選ばない女なのだ!』
『そんなはずないではありませんか! 私が無理やり送り付けた肖像画なのですよ?! あんまりです、お父様! 大体、お母様がああなってしまわれたのは、お父様があの女と不倫を……キャッ!』
『いい加減にしないか、ルディア。本来ならばお前の頬を叩いてやるところだが、明日は王宮のパーティーに行く。それ以上くだらないことを言うなら、喉を潰してしまおう。女はただ、口を閉ざして笑っていればいいだけなのだからな』
私の、お母様譲りのピンク色の髪を掴み上げたお父様は、何とも穏やかな笑みを浮かべながらそう言い放った。
私とお父様が似ている……? まあ、そうかもしれないわね。
あの悪魔のような男と似ていると言われて怒りに理性を失った。それこそが、私と父が血の繋がった親子であることの証ではないか。
分かってる。全部、分かっているの。
だからこそ、こうしてバカみたいに泣いているんじゃない。
「令嬢……」
「グスッ、ごめんなさい、王子」
そう言い残すと私は、スカートをたくし上げて足早にその場を去った。
すべてから逃げ出してしまいたかった。走って、走り続けて、大好きなお母様の元まで。
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数日後。
我が侯爵家までやって来たエティエンは、私に軽く挨拶だけすると、父と部屋に籠っていった。時々、メイドがお酒を持って部屋に入っていくのが見えた。
私は扉の前で耳を澄ました。
「ご安心ください、侯爵様。ご息女のことは大切にしますよ」
「構わんよ、子爵。表向きさえ良くやってくれていればいい。あの子は母親に似て真面目過ぎるのだ。結婚した後はローレンスの物では無くなるからな、君の好きにすればいい。娘が生まれた時は心底ガッカリさせられたが、君みたいな義理息子ができるのだから、あの子も役に立ってくれたというわけだ」
「ハハッ! それはこちらのセリフです、侯爵様。侯爵様のような御父上をお持ちのルディアが心底羨ましい」
私は部屋の扉にもたれかかり、ゆっくりと息を吐き出した。
胸の奥が締め付けられるように苦しくなり、上手く息ができない。
急いでその場から去り、私はお気に入りの場所へと向かった。
ドクン、ドクン、ドクン。
胸の音がうるさくってたまらない。
お母様、何故あんなお父様を好きになったの?
どうして恋に落ちたりしたの。
私は愛に溺れることはない。両親のようにはならない。そう決めて、婚約者であるエティエンと結婚するつもりだったけど……どうやら、私の幸せは最初からどこにも用意されていなかったようです。
私は、あとどれくらい耐えればいいのでしょうか? お母様……。
「きゃあっ!」
その時、私の愚かな問いかけに応えるかのように、目の前に眩い光が現れた。
「ルディア・ローレンス」
「……エヴァレット王子殿下?」
白く瞬く光の中から姿を現したのは、あの美しい黒髪の王子様だった。
沈んだ気持ちの時に必ず足を運ぶ、私専用の書庫。
その場に現れたエヴァレット王子は、青い瞳で私を静かに見つめると、ゆっくりと歩み寄ってきた。
そして、私の目の前で足を止めると瞼を閉じ、信じられない言葉を口にした。
「すみませんでした」
「……え?」
「先日の件、僕の言葉が、そこまで君を傷つけるようなものだとは思いませんでした。いくら酒に酔っていたからといって、許されることではありません」
「…………」
「ああ、それと。実は、転移魔法を使って誰にも言わずここへ来たので、今日僕がここに来たことは黙っていてくれると助かります」
今、目の前に映っているエヴァレット王子は、先日の夜にパーティーで会った冷たい王子様とはまるで別人のようだった。
私に謝りに、遥々我が家までやって来た。本当に……?
「私に謝るためだけに、わざわざ侯爵邸まで来られたのですか?」
「あんなふうに泣かれてしまっては、仕方ないでしょう。本来ならもっと早く来るべきだったのですが、どうしもて一人の時間が取れなくて」
王国の王子、侯爵家の一人娘。お互いに高貴な人間の子として生まれた私たちは、社交界で幾度も顔を会わせたことがあったが、ここまで言葉を交わしたのは珍しいことだった。
それも、父から命じられずに王子と話す機会なんて初めてのことだろう。
「ところで、ここはどこですか? 侯爵邸の一室にしては狭いような……」
「アハハ、不法侵入者のくせにずいぶん失礼なことを言うのですね。ここがどこかも分からず飛んでこられたのですか?」
「君が居る場所を設定しただけですから」
そういうものなのだろうか。私は転移魔法のような高価なものを使ったことがないから、分からないけど。
「ここは私専用の書庫です。といっても本当に小さなものですから、私以外の立ち入りを一切禁じているので誰もこれません。ご安心ください」
「へえ、令嬢専用の書庫ですか……うん? これは、セルバテスの本ですか?」
「セルバテスをご存じなのですか?」
「当然です! これも、このシリーズも……どうやって手に入れたのですか? セルバテスは他国の小説家で、王子の僕でも手に入らなかったのに」
「これは元々、私の母が持っていたものなんです」
「確か、ローレンス侯爵夫人は確か商人の娘でしたね。どうりでこんなに揃っているわけだ」
まるで少年のように目を輝かせて本を見つめるエヴァレット王子。
「良ければお貸しいたします」
「本当ですか?! ……いや、今日はこんなことをしに来たわけではありません」
「構いませんよ、私はもう何十回も読み返しましたから」
「ですが……」
「どんな過ちよりも、赦そうとする意思の方が人を賢くする。……セルバテスの小説で、私が最も好きなフレーズです。王子のお優しいお心には感謝いたしますが、本当に気にしないでください。私はもう気にしていません」
「気にしていないにしては、どこか複雑そうな顔をしているように見えるが」
「それは……」
王子の言うとおりだ。
私の心はまだ、深く沈んでしまっている。冷たく、暗く。
私は、いつまで縛られているのだろう。大好きなお母様のために私ができることは……。
『お前は口を閉ざして、ただ笑みを浮かべていればいいんだ。私の、ローレンス家の人形として生きろ』
『大丈夫だよ、ルディア。全部、僕に任せて生きていればいい』
……もう、彼らに従うだけの人生は嫌。
決意を固めよう。恐れず、立ち向かうのよ。ルディア。
「王子は今日、私に謝るためにここまで来てくださったのですよね?」
「? ああ」
「でしたら、私の願いをひとつ叶えていただけますか?」
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いつもより高いヒールの靴音が、王宮の廊下に澄んで響く。
お母様が大切にしていたサファイアの靴は、いつの間にか私の足にぴたりと馴染んでいた。
「我儘を聞いてくださってありがとうございます、王子」
「それは構わないが……本当にいいんだな?」
「はい。もう、覚悟は決めましたから」
応接間の前に立って、私は深く深呼吸をした。
父の言うとおり、自分の意思を持たずに生きる人形としての人生はもう終わり。
私は、私の選んだ選択の元生きていくのだから。
「国王陛下にお目にかかります。ローレンス侯爵家の娘、ルディア・ローレンスです」
玉座に腰をかけ、私を見下ろすエヴァレット王子と揃いの青い目が冷たい。
恐怖心を押し殺して、私は真っ直ぐにその青い瞳を見つめた。
「この度は、私の父、ローレンス侯爵。そして、婚約者のエティエン子爵について告発に参りました、陛下」
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それから、数週間の月日が経った。
屋敷に飾られていた父の肖像画はすべて外され、父が好んで使っていた調度品や衣服も、私の指示ですべて処分された。
私は、エヴァレット王子の協力を得て、内密に国王陛下のもとへ赴き、告発を行った。
父ローレンス侯爵、そしてその補佐役として実務を取り仕切っていたエティエン・アドラー子爵。
公金横領、救援物資の横流など。二人が長きにわたり行ってきた悪事を一つ残らず国王陛下に告発した。
『何を……どこぞの誰かは知りませんが、すべてデタラメに決まっています! 私を信じてください、陛下!』
『侯爵、父親が娘の言うことを信じてやらなくてどうする』
『はい? 陛下、何を言っているのか私にはまったく……』
『なんだ、まだ知らぬのか? 告発したのは其方の息女ルディア嬢だということを。まったく、其方にちっとも似ていない利口な娘だな』
裏帳簿、署名入りの命令書、記録。私が国王陛下に提出したものは、いずれも言い逃れのできない明確な証拠だった。
笑顔の仮面を被り続けて、どれほど苦しくとも父の思い通りに生きてきたおかげで手に入ったもの。それがようやく役に立った。
王国裁判への出席に強制はされなかったため行くことはなかった。国王に跪く父の姿を見るのは、さすがに気が引けたから。
人伝に聞いたことだが、裁定は驚くほど迅速に下されたという。
爵位剥奪、社交界からの永久追放。血の繋がった父親には変わりないが、私と父が顔を合わすことは私が望まない限り不可能。つまり、もう永遠に父と会うことはないということ。
エヴァレット王子のおかげで、国王陛下に内密に告発する機会ができた。
追放された父の血縁者である私と、遠くで暮らす母の保証など、積極的に手伝ってくれたエヴァレット王子には、本当に感謝している。
だから、私がすべきことは……こっち。
「説明しろ、ルティア。なぜ……どうしてこんなことをしたんだ!」
エティエン、やっぱり来たわね。アドラー子爵家を追い出されて、行く先がないからわざわざ来たってところかしら?
「気でも触れたのか?! 俺だけでなく、父親であるローレンス侯爵のことも売ったとは! 目的は何だ! 一体誰に唆された!」
私の言葉を押し切るように、撒き仕立てるようにして話すエティエン。
すべてを失えば、少しくらい改心するかと思っていたけど、貴方は何一つ変わらない。
「エティエン……」
「……すまない、ルディア。少し強く言いすぎたな。だが、僕たちの未来がかかってるんだ。こうして僕が熱くなるのも当然だろう? すべてお前のせいなのだから」
私の前に立ったエティエンは、私の手を取ると眉尻を下げて、まるで捨て犬のような顔をしてこちらを見つめた。
ブラウンの髪が風に揺れて、金色の瞳が私を見つめる。
「ルディア、侯爵様に悪いとは思わないのかい? お前をここまで育ててくれた実の父親じゃないか。今からでもきっと間に合う、すべてがお前の虚偽の報告だったと国王陛下に言うんだ。そうしないと、侯爵様も俺たちも終わりだよ」
ああ、本当に鬱陶しいわね。
「終わるのはあんただけでしょ? エティエン」
「……ルディア?」
「お父様が可哀想? 私はそうは思わないわ。自分が犯した罪の罰が、ただ下されたというだけでしょ? そんなにお父様が好きなら、私じゃなくてお父様と婚約してればよかったじゃない!」
「何バカを言う! 今はふざけてる場合じゃないんだぞ!」
「ふざけてなんかないわ、私は至ってまともよ。貴方こそ、ふざけたことをいつまでも言ってるんじゃないわよ!」
「お前……! こっちが下手に出てやってれば、調子になるなよ!」
「ハッ、やっぱり貴方にはその歪んだ顔が似合ってるわ。エティエン、遠いアドラー子爵家からどうやってここまで来たの? 優しい弟君が憐れんで馬車だけでも貸してくれたのかしら? それでわざわざ遠い侯爵家までやって来たの。当然と言えば当然よね、子爵としての座も侯爵家の財産も、貴方は全部失ったんだから。そりゃあ私を言いくるめて取り戻そうとするはずよ!」
「ルディア……本当に何があった、お前はもっと口数の少ない扱いやすい女だっただろう? 侯爵の操り人形として……それなのに、一体何故!」
「好き勝手言わないで。貴方はいつも私を見下していたけど、私もずっと貴方が不快で仕方なかったのよ。すべてを失った貴方が屋敷に入れるなんて不思議だと思わない? 私が使用人たちに言っておいたの、貴方が来たら追い出さずに迎え入れてって。貴方のその顔をどうしても見たかったから」
俯いて、プルプルと肩を震わせるエティエンの姿は実に滑稽なものだった。
私への怒りからか。それとも、これから先自分が待ち受ける想像もつかない凄惨な未来への恐れか。
「余計なこと考えたりしないでよね。扉の前には我が家の優秀な騎士が待機しているから、私が少しでも声を上げたら、すぐにやってくるわ」
「…………」
「話はそれだけ? なら、さっさと帰って。貴方とはもう二度と会うことはないでしょう。思えば、私たちは本当に長い間一緒だったわね……そのどれもが私にとって、黒歴史でしかないけれど」
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「お帰りなさい、お母様」
お父様だけでなく、使用人たちやお母様に嫌な記憶を取り戻させるすべてを改めた後。
私は、遠い領地へと精神的病を理由に無理やり父が送った、大好きなお母様が帰って来た。
本当に長かった。
お母様が侯爵邸を出たのが、私が十歳の時。そして今、私は十七歳。本当に長い時間がかかってしまった。
「あら、わたくしの可愛いルディアちゃんったらどうしたのかしら。また転んだの? いつも言ってるでしょう、足をジタバタさせて歩いてはダメだって。痛くて泣いているの? いらっしゃい、わたくしの可愛い娘」
「……そうなんです、お母様。すごく痛かったんです」
医者によると、お母様は辛い記憶に蓋をするかのように、数年の記憶が無く……私が幼く見えているという。
頬に伝って流れ落ちる涙を優しくハンカチで拭ってくれる母の姿は、昔の美しさと変わらない。
「だけど、もう大丈夫です。もう痛くありません」
「ふうん、もう大丈夫なの? 偉いわねえ、ルディア」
「はい。私も、お母様も……もう大丈夫なんですよ」
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
「母上の具合はいかがですか」
「わあ、素敵なお花。ありがとうございます。エヴァレット王子が紹介してくださったお医者さまのおかげで、母の容態も良くなりつつあります。最近は、昔のように庭園の花々に囲まれて読書を楽しまれています」
私は、エヴァレット王子が土産に持参してくださった花束を花瓶に生け、使用人に二人分のティーセットを用意させた。
噂に聞くところによれば、父は不倫相手であったガーネット夫人のもとへ押しかけたものの、門前払いを受け、その後は路頭に迷った末、今では小さな農業会社に雇われているという。
かつては農民を無休で働かせていた人物が、労働の対価を得る立場に落ち着いたのだから、これ以上の皮肉もない。
不倫の事実が広まり、ガーネット夫妻も離婚の危機にあるらしいが、もはや私の知るところではない。
過去は、完全に切り離された。
「今日はこの本を持ってきました。きっと、王子も気に入ってくださるはずですわ」
エヴァレット王子とは、あの日以来、読書を通じて親交を深めるようになり、こうして時折、我が家を訪ねてくださる読書仲間となっていた。
本当に長い時間がかかってしまった。
かつて憧れていた「幸せな家族」は、もうどこにもない。
けれど私は、それを失った代わりに、自分の人生を手に入れた。
それだけで十分だと、今は思えるから。
少しでも面白いと思っていただけましたら下にある☆マークから評価をお願いいたします。感想、レビューもお持ちしております。とても励みになります⋈*.。
二時間くらいで急ぎ足で書いたので色々とミスが合ったらすみません!小説たのしい




