破滅の勃⚪︎王、魔道を征く……?
小休憩。俺がトイレから華々しく凱旋すると、机に人だかりができていた。
「なんだ?」
ハンカチーフで手をふきふきしながらその方向を見ると、男子生徒3人が仲良さげに談笑している(←うらやまちい)。
どうやら彼らはこのクラスのオタクグループのようで、今季のアニメについて熱く語っているようだ。
「いや、それなら今やってる『破滅の勃⚪︎王、魔道を征く ~気づいたら股間で魔王を倒してました~(略してハメボツ)』が今一番熱いっしょ!」
「それな! 最初はテンプレハーレムものかと思ったんだけど、下ネタを織り交ぜたギャグとシリアスのハーモニーがデリシャスなのよ」
俺は彼らの話題に聞き耳を立てる。なんだその規制されそうなネーミング……。
「『このライトノベルがものすんごいすごい!』には惜しくもランクインならずだったけど、とにかくいいんだ」
いや入ってないんかい。完全ランキング上位の盛り上がり方だったんだけどな……。まあ、アニメ化するだけでも充分すごいけど。
俺はそうツッコみをいれながら、ふと考えた。
これ、チャンスなんじゃないか、と。
休み時間はあと少しだが、自然な流れで登場し、自然な流れで会話に参加すれば晴れて俺も彼らのグループの一員になれるのではないだろうか。
俺はラノベはまあ、少しはたしなむ方だと思う。基本的に何でも読む(小説から洗濯機の取扱説明書まで広範囲を網羅している)ので、その流れでラノベにも手を出した。
べ、別に一緒に遊ぶ友達がいなくて一人遊びしてたわけじゃないんだから、勘違いしないでよねっ!
この、深くは知ってはおらず、されど知らないわけでもない、というのが一番会話ができたりする。ある程度情報を提供しつつ、俺の穴を向こうが埋める。
こうすることで、会話のキャッチボールが滞りなく進行するはずだ。
「よし、いざ行こうぞ!」
俺は唐突に舞い降りた友達を作る大チャンスに心躍らせながら、半ばスキップで対象に接近。
きっとかおり辺りに知られたら鼻で笑われるに違いないが、そんなことはどうだっていい!
「よ、よお」
俺が話しかけると、グループのリーダーらしき男子がこちらに視線をよこした。
そこまではよかったのだが……。
「ん? 何か用……ッッッッッッッッ!?」
まるで『コ⚪︎ンが事件現場の死体を目の当たりにして目を開かせる』時みたいに仰天した様子で、男子くんは体をのけぞらせた。
「そ、そこ、俺の席なんだけど、あ、あの何の話して——」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! も、もう二度と使わないので、許して!」
「は、はあ、べ、別にいいから、そ、その、何の話して——」
「こ、こいつも知らなかったんだ。次からは気を付けるから」
もう一人の男子くんがなにやらフォローを開始。
「お。俺たち喧嘩初心者だからさ、やってもつまんないと思うよッッ! じゃ、じゃあそういうことだから!」
「お、おい、待って……」
俺が引き留める前に、そそくさと行ってしまった。
俺は意気消沈しながら自席に座る。
「いい奴らだったんだけどな」
俺の席に座っていた男子くんなんか気を遣って、持参していたウェットティッシュで俺の椅子を綺麗にふきふきしてから去って(逃げていったんじゃない……よ?)いったし。
どうやら俺が喧嘩相手を探していると早とちりさせてしまったらしい。
昨日の自己紹介がこんなところにまで影響を及ぼすとは……。
「前途多難だぜ」
まあ、こんなことはいつもののことなので全然気にし……て……なくもないんだから……。
「……?」
ふと視線を感じたので廊下側の一番後ろの席に視線を移すと、かおりがこちらを見ていて、
「ふっ」
鼻で笑われた。
「あんにゃろう」
自己紹介で滑らなかったらこんなことにならなかったのに。
ハンカチを噛み締めたい思いに駆られながら視線を隣に移すと、自分の隣に新たに席が追加されていることに初めて気が付いた。
最初は隣に席なんてなかったのに。
机と椅子にはまだ名前シールが貼られていない。
「授業始めるわよー」
まあ、いいか。
俺はたいして気にも留めぬまま、そのまま授業に臨んだったのだった。




