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ゼロから始まる陰キャあるある!

 突然だが俺は陰キャだ。


『どうした突然、そんなの当たり前のことじゃないか。何をいまさら赤裸々に』なんて思ったやつはこっちに来てくれ。容赦はしない。そこは『ええ全然そうは見えないよ!』って嘘でもいいから言うところだ。出直してこい。


 とまあ、誰に向けてか分からない謎の独り言はこの辺にしておき……。

 何が言いたいかというと、長期休み明けとか、病欠でひさしぶりに学校に行くときとか、なんかクラスの人たちと顔を合わせずらいよねって話だ。

 朝、ガラガラと扉を開けて教室に入った時の『あ、来たのね』みたいな視線よ! 


 かァ――っ! 思い出すだけで恥ずかしい。

 そして今、俺はまさにその現象に直面しているのだ。

 あの事件が起きたのは金曜日。土日を挟んで月曜日から金曜日まで部活はなかった。木乃葉は謹慎中だし、部活がないから天音とは顔を合わせてないし。

 かおりは同じクラスだが別に部活以外だとわざわざ話したりしない。和葉に至っては隣の席なのにいつも以上によそよそしい始末だ。

 つまるところ、俺は今、非常に部活に行きたくないっ!


「にいに、今日の部活は絶対行くのですよ」


 と、今日の朝、何故か念を押すように桜にそう言われた。


「やだなあ、行かないわけないじゃん(汗)」

「それならいいのです。桜はてっきり『気まずいから休も☆』なんて愚かなことを考えててるんじゃないかと疑ってしまったのです。にぃにに限ってそんなクソ陰キャみたいな人間失格みたいな、そんなこと考えてないですよね」


 己を恥じるように猛省しだす桜を前に、俺はどもりながら、


「アタリメーダロ」


 内心、クソ陰キャで悪うございましたねと、桜の洞察力におびえながらそう答えたのだった。

 時間は巻き戻り、さてその時間がやってきた。


「浩太、何をしてるの早く行くわよ!」

「ちょ、ちょい待ってくれ。なんで今日に限ってそんなに急かす」


 放課後、なぜかいつにも増してせっかちな和葉。ホームルームが終わった途端に俺の腕をぐいぐい引っ張るもんだから、俺は机を抱きしめて抵抗。

 いつもならかおりと先に行くくせになんで今日に限って。


「べ、別に深い意味はないし。ぼっちで可哀そうだからひさしぶりにあたしと同行することを許可してあげるといってるのよっ」

「オレ、ヒトリスキ。ホドコシハイラヌ。ソッコクタチサレ」


 やっぱ行きたくねえ。今日は休もうかな。


「あ、あんた大丈夫……? 体調が悪いのかしら……」


 俺の言葉に一瞬顔を引きつらせたあと、そんな的外れなことを言って顔を近づけてくる和葉。どちらかと言えばお前の方が顔赤いだろと思いながら、俺は……。


「それじゃ俺はこの辺でッ! 失敬、どろん!」

「あ、待ちなさい! なんで逃げるのよぉぉッッ……! 馬鹿浩太ぁぁ!」


 猛スピードで逃げました。



「あ、コータ。何してるの」

「げっ」


 走って逃げていると、不幸にも廊下で天音に遭遇。


「コータ、ひどい。げって言った」

「す、すまん。これはまあ言葉のあや的な何というか。天音さん? 痛いので杖で俺の足つぶしてくるのやめて?」


 天音はしゅんとうなだれながら口をすぼめる。久しぶりの会話に一人緊張していると、


「それよりコータ、どこいくの」


 上目遣いで天音。あまりに可愛いのでベロチューしたくなる。


「ぶ、部活に……」

「でも、そっちは逆方向」

「ぎくっ。……ちょ、ちょっとチア部の可愛い女の子たちの揺れるおっ○いを鑑賞してから行こうかと。滴る汗をこっそりピペットで頂戴して自家製の香水を作ろうかと!」


 とっさに嘘をついたら欲望丸出しの言い訳が出た。

鼻息を荒くさせた俺を見て天音が、


「きもい」

「そ、それじゃ、この辺で! どろろんぱ!」

「待って。コータ嘘ついてる」


 俺の袖をつかみながら勘の鋭い天音は頬を膨らませて抗議。くそ、こうなったら。


「ええい! あなや!」


 俺は天音の手を振り切って走り出した。すまん天音!


「待ってよ、コータ!」


 ばたん!


「ッッ……!?」


 うまく振り切れた! そんなことを思いながら走っていると、すぐ後ろでそんな声とともに大きな音が。


「天音!」


 カランコロンと杖が音を立てて転がり、天音が廊下で倒れている。


「大丈夫か、天音!」


 俺は慌てて踵を返し、とっさに駆け寄る。天音を抱き起して、声を掛けると……。


「作戦成功」


 天音は目を開けて、てへっと舌を出しながらそう言った。


「び、びっくりさせんなよ……。ガチでぶっ倒れたかと思ったじゃねえか」

「コータならすぐ来てくれると思った」


 転んだフリで俺を引き留めるとは演技派だなこの野郎、と、ほっと安心するとともに、まんまと作戦に引っかかってしまったことを悔いる。

 天音は「離さない」と言わんばかりに俺を抱きしめて「クンカクンカ」とにおいを嗅いでるし……。いや犬か!


「趣味悪い嘘ついてんなよ」


 俺が言うと、


「それはコータのほうよ。ばか」


 まさに図星で、俺は「ごめん……」と謝るほかなかった。

 そして俺は、脱獄に失敗し……。


「なんで逃げたのよっ!」


 部室の前で待ち構えていた和葉にバチくそブチギレられた。

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