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彼女の初恋

 私は目の前の光景に見とれていた。かつての光景とシンクロし、初恋が再現される。

 私は私だけが知っている。浩太が実は喧嘩が強いこと。私を昔助けてくれたこと。

 葉恋痴かおりはずっと浩太のことが好きだった。クローズドサークルを作って、彼を誘って、半強制的にだけど入ってくれて。

 惚れなさいよ。あなたのことが好きな黒髪巨乳なんてそうそう現れないわよ、なんて。

 でもね。

 だめよ、浩太。それ以上はだめ。私以外の前でそれを見せたら、きっと周りは私と同じようになってしまうから。

 私以外には見せないで。ずっと私だけの救世主でいて。そうじゃなきゃ……。


「浩太、かっこいい……」


 私は思わず目を見開いて隣の和葉を見た。

 絶世の美少女がツンデレを忘れて目を輝かせ、そんな呟きを漏らしている。

 胸がチクりと痛んだ。そんな私の気持ちに気づくことなく和葉が、


「やばい、あたし、浩太のこと好きかも」


 あーあ。

 私は膝から崩れそうになりながら努めて冷静に「単純ね(笑)」と、いつものようにツッコむ。ツッコむけれど。たぶん私の顔は引きつっている。


「だってかっこいいもの! 正義のヤンキーしか勝たんってやつね! ねえ、かおり。浩太の好きなタイプって何か分かる?」

「知らないわよ」


 せっかくお友達になれたと思ったのに。私、あなたのこともう憎めないのに。現実はいつだって残酷で苦しい。


「でも、黒髪で胸が大きい女の子が好みって聞いたことがあるわ」


 負けない。誰にも渡さない。

 私は過去一番性格が悪い嘲りの笑顔で、そう言ったのだった。


   ◇◆


「この大馬鹿もんガア」

「ご、ごめんさない」


 パトカーの赤い光にチカチカ照らされながら、俺は鬼のような顔をさせた大男に謝罪していた。

 この強面の男は伊東家の大黒柱にして現役刑事の俺の親父だ。名前は鬼蔵。人々からは鬼と呼ばれている。

 さて、ブーストモードでヤンキーを蹴散らしていた俺だったが、暴走族というのは恐ろしいもんだと実感した。ようやく全員倒したと思ったら、ブンブンブンブンとスズメバチの羽音みたいにけたたましい音を立てながら続々と応援がやってくるんだぜ。


 総勢30人近い輩が集結して「オワタ」と、死を直感したところでパトカーのサイレン音が鳴り響き、ヤンキーたちは散り散りに逃げ去り、九死に一生を得たというわけだ。

 そして今に至り、俺はパトカーに同乗していた親父に説教されている。


「まったく、最近顔を合わせんと思っていたら、何をしとるんだ」


 と、腕を組みながら親父。


「ぶ、部活に入ってよ」

「それは桜から聞いちょる」

「そ、そげですか」


 俺は頭のてっぺんにできたたんこぶの痛みに耐えながらうなだれた。

 え、このたんこぶ? もちろん親父の鉄拳の影響ですが?


「楽しくやっとるんかと聞いちょる」

「? お、おう。まあ、楽しいよ。友達もできたしな」

「ならいい」


 親父はそう言って、無表情のまま鼻の下を擦った。 どうやら照れ隠しをしているらしい。親父は非常に分かりづらいところがある。


「今回はこれくらいで勘弁しておく。格闘技を習わせたのも、こういう時のためだけん」

「お、おやじぃ」

「しかし、浩太」


 親父は視線を遠くにやってそう言った。俺もその視線を追うと、遠くにクローズドサークルの女子3人が見えた。

 三人とも警察官に事情を聞かれている。


「なんだよ」


 俺が聞くと、


「お前の彼女はあの中のどの子だ。まさか3人とも、というわけじゃなかろうな」

「な、な、な、なわけねぇだろ!?」


 と、俺は目の前で握られる鉄拳に恐れおののく。


「ふん。柊木さんのとことは親交があるけん、何かと融通してやれんこともないが、自分の力でアプローチせないかん」

「なんで俺がまるで『好きな子の相談を親父に持ちかけた』みたいな構図になってんの!? 誤解だから。とにかくあいつらとはまだそんなんじゃないから!」

「ふむ。そうか? まあいいが、高校生にもなって彼女ができんなど男が廃れる。しっかり考えておけ。かといって羽目を外し過ぎんように」

「わーってるよ」


 俺はそこまで言って、「まだ」と言ってしまった自分に驚く。それはつまり、俺は心の中で、いつかあいつらの中の誰かとそういう関係になりたいと思っているのだろうか。

 3人は俺に気が付くと「こっちにこい」と言わんばかりに手を振ってくる。


「ったく」


 俺はいつものようにやれやれと肩をすくめて、あいつらの元へ。

 すっかり居心地がよくなったぬるま湯に、浸かりに行くのだった。


   ◇◆


「お前のおかげで助かった。礼を言う」


 息子の背中を見ながら、鬼蔵は近づいてきた小野寺シュウにそう言った。


「なんすかそんな改めて。別に俺はなんもしてないっすよん」


 と、おどけてシュウ。


「最近、入り浸ってるらしいな」

「人聞きが悪いっすよ先輩。あくまで取材。決してロリエに会いたいからとかそんなんじゃないっすよ」


 と、もはや白状しているような物言いに、「そうか」と納得する鬼蔵。

 そんなんでよく刑事続けられているなと思うシュウだったが、

「帰ってくるつもりはないか」


 そんな鬼蔵の言葉で、あえてスルーされていたことに気づいた。

 シュウは肩をすくめて、


「勘弁してくださいよ」

「お前はいい後輩だったんだが」


 恥ずかしげもなく言えるところは親子でそっくりだなと思いながら、シュウは笑った。


「俺にはもうそんな資格はないですから」

「……悪い」


 無表情ながらも、明らかに落ち込んでいるのはシュウでも分かった。しかしそんな鬼蔵の姿は見たくなく、シュウはへらっと笑って、


「俺は売れっ子ツヨツヨラノベ作家の道を行くことを決めましたんで。堅物刑事とはおさらばっす」

「ふん、言ってくれるわ」


 鬼蔵は続けて、


「息子をよろしく頼む」

「見守るくらいはしてもいいっすよ」


 そう言いながら、シュウは手を振ってその場を後にした。


   ◇◆


 そんなこんなで、『幼馴染がめんどくさい! & ツンデレヘンタイ誘拐事件』は無事に終息した。

 しかし後日、俺たちは生徒指導に呼び出されこっぴどく怒られ……。

 木乃葉は反省文と5日間の謹慎。俺、かおり、和葉は反省文を。クローズドサークルの活動は5日間自粛することになったのだった。

 と、ここまではいいのだが(よくない)、学校中でこんなうわさがはびこるようになった。


 地元最強格の暴走族集団を単身で撃破し、いよいよ本格的に伊東浩太が全国の暴走族の討伐に乗り出した。


 校内新聞のコラムの欄にも、『彼が天下を取る日も近いだろう』なんて書かれていて。


「あはは……。面白い冗談だZE……」


 いよいよ俺は、これからのスクールライフに不安を覚えるのだった……。

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