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俺はなろうの主人公

 突然だけれど私にも黒歴史というのがあってね。

え? 友達にエロ待ち受けを見られたこと? いえ、違うわ。別にそれは黒歴史じゃないわ。


 髪を金髪に染めてスカートの丈を短くして、けだるげにギャル語を使いこなして夜の街をあてもなくぶらついていた時期が私にもあったのよ。

 あ、決して勘違いでしないでほしいけれど、「私こんなに昔は悪かったんだぜ」自慢ではないから安心して。そういうのは大学新入生の専売特許だものね。


 こほん。それはさておき。私はそんないわゆる不良だった。両親は悪くなく、むしろ恵まれていたけれど、私はなにかに引き寄せられるように夜が好きだった。

 でも、夜だもの。補導という言葉があるように、そこには危険がつきもの。

 かわいいねえ。あっちでいいことしない? おい、ついてこいよ。

 正直に言うとね、怖かったわ。凄くね。だって私は別に不良じゃないもの。不良の皮をかぶった普通の女の子だもの。

 だからね。

 私を助けてくれた人を好きになるのは当然のことなのよ。ええ。だって私、お姫様みたいにピュアだから(異論反論はいっさい認めない)。


 ——大丈夫か? ったく。なんだあいつら……。お前もさっさと帰れよ。


 その人はヤンキーの皮を無理やりかぶせられた男の子だった。

 私は、遠ざかる彼の背中を必死に追いかけて、こう聞いていた。


「どんな人が好みですか?」


 ——うーん、そうだな。乳がでかくて、黒髪清楚。


 私は大変身を遂げた。さながら魔法少女のように。黒髪に戻して、巨乳を隠すのをやめた。

 あの日、駅で出会ったとき。

 それはもう運命だった——。


   ◇◆


「っと、そうだ。かおりと和葉を見なかったか? なんかこっちに来てるっぽかったんだが」

「え、見てないかも。来てるの?」

「おっかしいな……。あいつらマジどこ行ったんだろ」


 先に帰ったのか? なんて思ったが、スマホを捨てて帰るなんて奇行に躍り出るとは到底思えな……、いやワンチャンあるのか?

 と、そんなことを思っていたら。


「浩太君!」


 木乃葉が突然俺の袖を引っ張った。

 俺は何事かと木乃葉を見る。その視線は俺の後ろに向けられていた。俺は振り向いた。それとほぼ同時に、けだるげな、間延びした声がした。


「まーた侵入者じゃん。ええ? なんでこんないんの?」


 声質というものがある。悪の道に足を入れたら声にもそれが出る。終始ダルそうな声。未成年なのに咥えているタバコ。片手に握られたチューハイの缶。

 世の中にはかかわってはいけない人間が少なからず存在する。

 俺は瞠目して、叫んだ。


「お前らっ!!」

「浩太ッッ……!」


 そこにはヤンキーの集団がいた。眉毛がない金髪野郎が4、5人。なんか全員いかつい特攻服を着ている。

 てか、え、やばいじゃん。どうすんの。


「知ってる? ここ」


 ヤンキーAがそう言う。俺は焦りながらも、努めて穏便に、


「あー、ごめん。知らなかったんだ。すぐに退散するから、そいつら離してあげてくれませんか」


 羽交い絞めにされて拘束されているうちのツンデレとヘンタイは涙目になっている。

 なんとか見逃してくれないかな~、と思っていたが……。


「!?」


 瓶が飛んできて、ガッシャーんと割れた。え、怖い。何なの、破壊衝動でもあるの!?


「ああ? 逃がさねえよマジで。この男みたいに、お前もなるんだよ」


 ヤンキーA(たぶん頭)が目くばせすると、


「てるっち!」


 ボコボコにされたてるっちが、ヤンキーたちから投げ飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。

 てるっちのところに駆け寄ると、見てるこっちまでもが痛々しくなるくらい顔面を腫らせていた。


「てか、お前どこの隊だよ? 敵情視察か、おい」


 ヤンキーAを筆頭に、とさかヘア集団がこちらに近づいてくる。どうやら俺は敵の暴走族だと思われているらしい。

 ……なんて、そんなことはくそどうでもいい。

 呆然とした。俺は痛いくらい手に力を込めた。


「逃げろぉぉ、こうちゃん。ぐふぇ……」


 てるっちが鼻血でげぼげぼしながら、俺に笑顔を向ける。

 プツンと。

 俺の中で何かが切れた音がした。

 俺は普通にしたいだけなのに。父は刑事で母は弁護士。エリート一家でばちくそ可愛い妹までいる。

 なのになんで俺はこんなに見た目がヤンキーなんだ。

 別に俺がなんて言われようといいけどさ、これはちょっと違うだろ。なあ、神様。違うだろ。


「浩太君」


 後ろで木乃葉が心配そうに震えている。


「ちょっと待ってろ」


 俺は歩き出した。


「浩太逃げなさい!」

「そうよ浩太、逃げて助けを!」


 和葉とかおりが叫ぶ。しかし俺は止まらない。

 俺はヤンキーじゃない。でも、仲間のためなら、いっそのことなってもいい。

 なってもいいんだ。

 せっかくできた友達が親友が、幼馴染が、こんな目に遭うくらいなら俺はヤンキーでもなんでもなってやる。

 俺の目を見たヤンキーAは「へえ」と、感心したように呟いた。

 何が「へえ」だ。かっこつけやがって。授業中屁でもこいとけこのくそ野郎。


「やんじゃん。お前、一回しね?」


 ヤンキーAが唾を吐いた。一瞬気を取られた瞬間、大ぶりの右ストレートが飛んでくる。

 されど俺はひるむことなく、避けた。


「ッッ……!?」


 簡単なことだ、ヤンキーA。そんなに驚くな。単に俺が強いからよけられたってだけだ。

 スウェーで額をかすめ通る拳を瞬きせず見送りながら、カウンターの左フックでヤンキーAの顎を打ち抜く。


「まず一人目」


 倒れるヤンキーAを踏みつぶしながら前進。

 俺だっていやだよこんなの、殴ったらこっちだって痛いし。感触も気持ち悪いし罪悪感あるし。

 なにより……。


 ——あの人やばくない?

 ——なんか病院送りにさせたらしいよ。

 ——捕まるのも時間のうちかもね。


 そんなありもしない噂流されて後ろ指刺されて、俺、結構つらかったんだぜ。

 見た目だけでなんか喧嘩売られるし。身を守るためだつって、親父に無理やり総合格闘技のジムに放り込まれるし。おかげで女子から距離取られるし。


「くそが! まぐれでイキってんじゃねえぞ」


 ヤンキーBは隊の頭があっけなく失神したことに動揺を隠し切れない様子だ。

 しかし俺はお構いなしに膝を突き上げる。ひるんだところをタックルで転ばせ、マウントポジションでパウンドの連打。戦意を喪失させる。


「二人目」


 あーあ、これじゃあみんな幻滅したかな。最悪だな。俺はヤンキーじゃない! って、もう言えなくなっちゃうよ。

 俺は向かい来るヤンキーをどつき回し続けた。


 全国を股にかけて暴走族集団を撲滅させていると噂される孤高のヤンキーなんて不名誉な称号は、あながち間違いじゃなかったのかもしれない。

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