変態と体育館倉庫イベントに遭遇すると行きつく先は大体決まってる件
「ったく、めんどいこと押し付けられちまった……。大丈夫か天音」
「大丈夫。それよりコータこそ大丈夫? すごい汗。くさい」
と、散乱したバスケットボールを拾いながら天音。
「心配してんのか貶してんのかどっちだよ。てか、俺そんなにくさい?」
制服をパタパタ仰いで匂う。無臭だ。しかし自分の匂いは分からないと聞くし。心配していると、天音がゆっくり近づいてきて、
「気のせい。別に臭くなかった」
と、俺の胸にぴったりと密着してそう言った。
「そ、そうか。て、てか近い」
「童貞には刺激が強かったね。ごめんね」
そう言ってやや離れるも、天音は口をアヒルのように尖らせている。
「なんか断定されて話進められると悲しいものがあるな」
「童貞じゃなかった?」
「……いや、童貞だが」
俺が頬を膨らませてそう言うと、
「安心して、私も処女よ」
「いや赤裸々!? お前には恥じらいがないのか!」
「こんなこと言うの……、コータだけ。責任とってね」
「その責任、放棄します……」
と言いつつ、俺は無意識のうちに天音の全身を眺めた。決して大きくはないが、ふっくらとしている。こいつは目に毒だ。俺は唾をのんだ。DよりのC。……たぶん。
天音が変なことを言うから、さっき見てしまったかおりのエ○漫画と重なり、顔が熱くなる。意外と胸あるな……なんて、思ってないんだからね!
「コータのえっち」
「お前が変なこと言うから!」
妙な空気感になって沈黙。言い出しっぺの天音の頬が若干朱色に染まった。
「な、なあ。天音」
俺が訊ねると、天音がこくりと首を傾げる。
「? こくはく?」
「ちゃう」
「ざんねん」
「もしだ。あくまでこれは仮定の話なんだが」
「うん。仮定の話」
「ちゃう。仮定(妄想)の話だ」
「うむ」
「もし部活のメンバー全員がかなりの変人ぞろいで、そのうちの一人がエロ漫画をこよなく愛する痴女だったら、俺はどう接したらいいと思う」
と、俺がそう言うと、天音は目を細めて、俺から物理的に距離を取った。
「そんなこと妄想してるコータに対して、私はどう接したらいいかわからない。変態さん」
「ちゃう、これは妄想じゃない。だから俺が毎日こんなこと考えてるわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!」
「さっき仮定(妄想)って言ったのはコータなのに。わがままさん。変態」
どうやら頑なにスルーしてくれないらしく、俺は半ばやけくそになってうずくまった。
ここは「ああ、本人のことなのかな」って心の中で微笑ましく思いつつ、親身になって聞いてくれるシチュじゃん!?
「そうは問屋がおろさないわ。コータをいじめるの楽しい。好きよ。でも、ちゃんと聞く。ごめんね」
ポンポンと頭を撫でられて、ヤンキーとしての尊厳を失った気がした。……ちゃう、俺はヤンキーじゃない。何言ってんだ俺。
一回、その慎ましやかなおっ○いを揉みしだいてやろうかこんにゃろう、と心の中の悪魔がささやいたが、小心者なのでできっこない。
そんな俺の性格を天音は見抜いているらしい。解せぬ。
「でも、人が何を好きになろうが、関係ないわ。エロ漫画でもエロゲームでも、その人はその人のまま」
「うん。だよな」
俺が頷くと、
「コータは人の趣味を聞いて、態度変えるの」
「んなことしねーよ」
天音の怒りも挑発も何もない真っ直ぐな視線にさらされて、俺はちょっとムキになって答えた。すると天音は、ふっと微笑んで、
「ならいいじゃない、なんでわざわざ聞いたの。やっぱり妄想……? でも――」
そのまま俺にまた胸を押し付けて密着してきた。
「好きよ」
そんなドストレートな言葉に、俺の心臓が跳ね上がった。とはいえ、なんか小っちゃくていい匂いのする女の子を腕で抱いていると気持ちがいいのでそのままにしておいた。
「好きって……。いじめるのが、かよ?」
「うん。コータをいじめるのは好きよ」
まったく、距離感バグリすぎてて、わかってても翻弄されるぜ。あとおっ○いがフニフニしててエロい。若干下着の硬さもあるのがエロさに拍車をかけている。
「でも、くっつくのも好き。特にコータのゴツゴツした体を絹ごしで感じて興奮」
「まさかの変態性癖!? そんな性癖聞いたことないぞ」
完全に勘違いしそうになった俺が恥ずかしい。しかもちょっといい感じの雰囲気だったじゃん!?
「でも、コータもおっ○い好きでしょ。お互い様」
「……否定できないのがつらい。確かに、俺はおっ○いが大好きだ」
俺がそう言うと、
「直球で言われると気持ちが悪い。そういうのは思ってても秘めておくもの」
「お前もな?!」
いつものようにツッコミつつも、いまだ離れない天音に、そろそろ俺の生きとし生ける伝説が限界を迎えそうになってきた。
肩を軽く掴んで引きはがそうとしたとき、
「おーい。なげえな。いい加減片づけ終わったかー?」
と、野太い声がこだましてきて咄嗟に、
「やべ、隠れるぞ!」
「!」
俺は天音を抱いて、体操マットの隙間にダイブ。ゴロゴロと天音を抱きながら転がって、声主の視界から逃れた。
ふう、ギリギリ間に合ったぜ……。と一安心するも、隠れる必要ななかったくね? と気が付いたのは鬼又が来た後だった。
「おーい。……ったく、いねえじゃねえか。終わったなら一言言ってから帰れよ。最近の若いもんは……ブツブツブツブツ」
ガシャガシャ。ガシャーン。カチャ。
一際大きい施錠音がして、あたりが真っ暗になった。
俺は急いで出口に出ようとするも、真っ暗で立ち上がれない。
「やべ、しめられた。真っ暗でなんも見えねえ……」
「コータ。もしかしてわざと?」
と、耳元で囁く天音。
「な、なわけあるか! だって完全に見られたらまずいシチュだったじゃん!? 咄嗟に体が動いたんだよ」
「恥ずかしがり屋のコータね」
「わっ! 耳に息吹きかけんな。ギャグアニメ!? くすぐったいんだが?!」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。閉じ込められたのよ。しっかりして」
「誰のせいだ誰の」
暗くて顔は見えないが絶対笑ってる。小悪魔な笑みを浮かべているに違いない。
「よし。とりあえず立つぞ。立てるか?」
俺たちはなんかよくわからないが、重ねられた体操マットと壁の間に二人して挟み倒れている状態だ。
俺が手探りで立ち上がろうとすると、手に柔らかい感触が。
「んんっ……」
「あ、すまん」
手にすっぽりと収まる柔らかさと、天音の吐息に俺はたじろぐ。見た目よりでかい……、じゃなくて!
俺は気合いでなんとか抜け出して、天音に手を差し出した。
「何事もなかったように紳士的に振舞っても無駄。コータのえっち。いくら好きでもこれは変態よ」
と言いながら拾い上げた杖で俺の股間に狙いを定める天音。
「どうせならもっと揉みしだけばよかったぜ」
「コータにそんな勇気ないくせに。頬が真っ赤よ」
と図星を言われて俺はドキリ。暗闇に徐々に視界が慣れてくる。
「暗いから、わ、わかんねーよ」
そういう天音も顔が真っ赤だということを、俺はあえて言わなかった。
「でも、ダメだな。完全に閉じ込められちまった」
俺は額にじわりと浮かぶ汗を拭いながら、唇をかんだ。季節は6月初旬。じんわり暖かくなってくる季節で、締め切られた倉庫は若干蒸し暑い。
「体育倉庫はいつも使う。一日経てば開く」
「普通の日はそうだ。だが、今日は金曜日。確か明日は工事で一日閉鎖だ」
俺がそう言うと、握っていた天音の左手がキュッと力むのが分かった。
「大丈夫か?」
いつもボケてくるので気に留めてなかったが、こいつも女子だ。こちらが想像していたよりも不安だったかもしれない。
「トイレ行きたい」
「そっちかよ!」
と、相変わらずな答えに俺の心配は杞憂に終わった。だが、
「コータに揉まれたせいで興奮してトイレに行きたくなった。コータのせい。ばかばかばかばか」
「わ、わかったわかった! なんとかする」
若干涙目になりながら、ポンポン肩をたたいてくる天音。どうやら結構やばいらしい。
さすがに女の子に倉庫で漏らさせるわけにはいかないので、
「誰かーーーー! 開けてくれ!」
と、叫びながら扉に体当たり。相当大きな音を立てているが、場所が場所なので人の耳に届かないようだ。
「コータ、壁が光ってる」
「光?」
天音に袖を引っ張られその方を見ると、壁に拳サイズの穴が。
「とはいってもなあ。これじゃあ何にもできねえよな」
手を突っ込んでみたり、「誰かー!」と穴に向かって叫んでみたりと、試行錯誤したが駄目なようだ。
「覗いてみるか」
と、這いつくばって覗いてみると、どうやら体育準備室に繋がっているようだ。デスクがちらほら。と、そこには鬼又が一人なのをいいことにいびきをかいて寝ていた。
「先生、寝てる」
「ったく、あのハゲチャビンが」
鬼又許すまじ。
「とはいえ、鬼又先生が起きたら、助けを呼べそうだな」
「でも、漏れそうよ」
「我慢してくれ」
「コータにセクハラされて漏れそう」
「ごめんて……。てか」
俺は今気づいた新事実に目を丸くさせた。
「なんでカッターシャツのボタン外してんの!?」
座り込む天音を見ると、何食わぬ顔で上部のボタンを外して、「何か?」みたいな視線をこちらに向けてくる。何か? じゃないから。
「暑いから」
「暑くてもそんなはしたない恰好すんな! ブ・ラジャー見えてる。チラ見しちゃってる」
「なんで区切るの? それに、チラ見してるのはコータの方じゃない」
「恥ずかしいからだよ!」
「恥ずかしがらなくても、私とコータの仲なのに」
と、天音。
「悪い気はしないが。お前、誰にでもそんな無防備なことしてんじゃないだろうな?」
「どうしてそんなこと聞くの」
天音が純粋な視線を向けてきた。
「お前はその、足も不自由だし、なんかあったら抵抗できないんだ。みんながみんな男が草食だと思うな」
「……うん」
俺が視線をそらしながら照れ隠しに言うと、天音は柄にもなくしおらしい返事をして俺に抱き着いてきた。密着する柔らかい感触と女の子の下着に俺は宙に手を彷徨わせる。
「だーからそれが……」
「コータだけよ」
「へ?」
「コータだけよ、こんなことをするのは。何かあったらコータが守ってくれるでしょ」
そんな甘えるようなか細い声に俺は、
「……善処はする」
ええ!? もしかしてモテ期か!? やっぱ俺のこと好きじゃん! 俺にアピールしちゃってんじゃん! と、俺はクールぶりながらも心臓をバクバクさせていると、
「コータの体が一番抱き心地がいいもの。それに私、友達いないから」
「……そ、そげですか」
上げて落とすのがうまいですね。……女の子こええ。と、一人落胆。
別に残念だなんて思ってないんだからねん。
「ん、何か今、物音が」
カサカサ、カタン、ゴソゴソ。
と、何か小動物が歩き回る音が。そして、俺と天音が先ほどの穴の方を見ると、
「きゃッッ!」
「お、おい、急に動くな! っ!」
穴にはネズミがいた。まさかの。ネズミ。どうやらそれはネズミの通り道だったらしい。
ぎょっとする俺の横で、天音は体をびくりとと跳ね上がらせて立ち上がるも、杖を滑らせてバランスが崩れる。
俺は咄嗟に天音を支えて倒れ込んだ。




