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四精霊24

「!?」

 後方だけではない。

 周囲にあった全てのハッチが同時に開き、中に格納されていた――そう呼ぶ方が実態に近いだろう――無数の影たちが一斉に飛び出して俺たちを囲む。


「スパルトイ……ッ!」

 緊迫したリンの声が、その影の正体を告げる。

 長剣と小盾で武装したスケルトン。影のように見える原因の一つである漆黒の装束と甲冑に身を包んだそいつらは、影のように見えるもう一つの理由=アンデッドとは思えない程に機敏な身のこなしを持って知られた骸骨の精鋭。

 その精鋭たちが、一斉にその剣をこちらに向けて周囲をぐるりと包囲している。

 逃げ道も、進むべき道も塞がれた。

「なら……」

「うん」

 選択肢は一つしかない。

「「ッ!」」

 囲んでいたスパルトイの輪が一歩ずつ下がる。

 引き抜いた聖剣の刃は、それまでより一層強く光を放っている。

 油断ならない――そう見えることを願いながら、一体ずつにかわるがわる正面を向けてはその隣に移る。


「……ッ!」

 一瞬の膠着。

 その奇妙な静けさは、しびれを切らした一体が出し抜けに飛びかかってきたことで終わった――より正確に言えば振りかぶって突っ込んでくるそいつの胴体を、ボロボロの甲冑ごと切り裂いたことで。

「ッ!!」

 すれ違いざまに崩れ落ちるスパルトイ。

 奴がただの骨に戻るよりも、奴を切り抜けたことで距離が縮まった正面の個体が飛びかかってくる方が速い。

「しっ!」

 それを見越して腰を落とし、体ごと奴に突っ込む。

 衝撃と同時にバウンドするように奴から離れ、振り向きざまに背後から襲ってきたもう一体と切り結ぶと、こちらを押し切るべく力を込めた瞬間にそれを受け流して振り返り、タックルの衝撃から立ち直った直後のスパルトイを切り捨てる。


「ッ!!」

 その切り捨てた剣を更に加速して、回転するように振り向く動作で直前に払い落とした剣が再度斬りかかってくるのを受ける。

 腰を落とし、奴の力を受け止め、それからすぐ間合いの詰まっているのを活かして足を払う。

 奴が再びバランスを崩して隙を晒し、そしてそれをフォローするべく飛び込んできたもう一体の突きを受け流しながら反対に口に剣を突っ込んで頸椎まで貫く。

「……ッ!!」

 骸骨でも驚愕したというのは何となくわかった。

 その表情のまま、首から上が外れてどこかに飛び、残った胴体がただの骨だったことを思い出したようにその場に崩れていく。


 次の瞬間に三度目の正直を狙った個体の脛を払い、地面に頭から突っ込むように倒れたそいつの頸椎に突きをくれて頭と体を分断。こいつらはアンデッドで、以前先輩冒険者から聞いた話では倒しても蘇ってしまうそうだが、聖剣での傷ともなればその不死の力も発揮できないようだ。ただの人間と同様、首から上が切り離された体はピクリとも動かない。

 ここまでの光景を見て、只者ではないと判断した――そう感じてくれているのならうれしいが、実際のところは分からない――のか、理由はともかく残りのスパルトイは遠巻きに様子をうかがう事を決めたようだ。


「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 だが、足を止めれば即ちリンの格好の的だ。

「危ない!」

 結果、奴らの下した結論に、俺は叫びながら彼女の下へと駆け寄った。

 連中からすれば聖剣の強力な加護を受けた俺より、ただの女に見えるリンの方が簡単に思えるのだろう。

 俺が叫びながら飛びかかり、瞬時にリンが後退。すれ違いざまに彼女が俺の背を向けている側に振り返って、ファイアボルトを放つ手を作ったのが視界の隅に映っていた。

「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 再度の詠唱。それが終わるより前に、獲物に逃げられた二体のスパルトイのうち右側の個体斬撃を躱して、剣を持っていた右腕を肩の付け根から斬り飛ばす。


 その動きに足を止め、こちらに応戦するべきと判断したらしいもう一体の小盾に敢えて切り付け、奴が受け流しつつ反撃を試みたところで即座に剣を引き、体ごと飛びこんでいく――聖剣の加護が身体能力や剣術だけでなく、こうした体術にまで及ぶのはありがたい限りだ。

「シャッ!」

 一歩で奴の剣の柄より内側に入りこみ、その動きの勢いのまま、踏み込んできた奴の右足にこちらの右足を掛けると、全身で体を突き飛ばしてその場にこけさせた。

 起き上がろうとするそいつの首を踏み抜いて、即座に飛び込んでくるもう一体と剣を交える。


「なっ――」

 その個体は敢えて斬られるように唐突に構えを解いた。

 そしてそれと同時に、その後ろからもう一体が飛び込んでくる――敢えて斬られた前衛の体からまだ剣を抜けない俺に向かって。

「ちぃっ!」

 アンデッド故の命を顧みない作戦だろう。

 本来なら、そこで俺は終わりだっただろう――本来なら。


「ッ!」

 これも加護の力か、何をするべきかは既に体が理解していた。

 スパルトイに刺さったままで、剣に意識を集中する。刃が纏っていた光が一度剣そのものに収束したかと思った瞬間、剣を突き立てられたスパルトイが吹き飛んだ――爆発的に辺りに広がった閃光と共に。

「……ッ」

 思わず自分でも目を細める。

 辺りに広がっていく強烈な閃光。リンのディバイングリントを更に広げたような広範囲の光が、周囲のスパルトイたちを飲み込んでいく。

 そして、飲み込まれたスパルトイたちが、その爆心地にいた個体と同じように木端微塵に吹き飛ぶのは、眩しさからほとんど閉じている限られた視界でも分かった。


「これは……」

 スパルトイたちを一瞬で壊滅させた光。いや、より実情に即して言えば蒸発させた、だろうか。

 だが、それに驚いている暇もなく開きっぱなしのハッチからは“お代わり”が飛び出してくる。

「くっ、次から次へと」

「もう一回今のを!」

 飛び出してきた直後のスパルトイにファイアボルトを放ちながらリンが叫ぶ。

「だけどやり方は――」

「剣に意識を集中して、今はなった光をイメージすれば出来るはず!急いで!!」

 殺到する火球を回避し、リンに対峙するスパルトイたちが見える。加えて、それまでの戦いの経緯が見えているのかいないのか、俺の周りのスパルトイたちも今まさに飛びかからんとしており、確かに時間には全く余裕はない。


「……ッ!」

 言われるがまま、頭に先程の光景を思い浮かべる。

 剣に意識を集中させ、周囲に纏った光が刃に収束する映像。そしてその収束に反発するように爆発的に広がっていく閃光。

 それらが全て再生される――自分が構えた剣の上で実際に。

 再度の収束。

 再度の爆発。

 先程よりも巨大な光の範囲。

 光りが収まった時、そこにはもう何も残っていなかった。


「終わったようだね」

 ただ一人、リンを除いて。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは数時間後、いつもの時間帯に

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