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四精霊23

 前後に何往復かして、それからリンが不意に扉を指さして声を上げた。

 扉を指していない方の指は己の耳に当てている。


「何か動いている音はする」

 言われて、俺も彼女の横に並ぶ。

 成程確かに音がしている。モーターの唸るような、しかし一瞬で止まってしまう音。

 一つの可能性:何らかの不具合で開かなくなっている?


「だとすれば……」

「あ、ねえ、あれ」

 リンの指が続いて扉の横に設けられた金属製の箱にスライド。その箱から伸びた線が、天井に設けられた溝を伝って扉へと続いている。

 どうやらこの溝、扉自体のレールを兼ねているらしいという事を、その上側を見上げた時に気づいた。近未来的な施設だと思っていたが、意外にこの辺は現代のそれとあんまり変わらない。

 ――そして不具合の原因もまた、すぐにそれと分かるものだった。


「あれか……」

 見上げた先に見えたもの=上側のレールに挟まっている金属製の棒。

 一体何に使ったものなのか、扉の上側に挟まったそれが、扉自体の駆動を妨害しているようだ。

 つまり、これが取れればいいという訳だ。

「よし、あれ取ってみよう」

「分かった。電源落とす?」

 リンが箱=恐らくは制御盤を指さしたのを、俺は首を縦に振ってこたえた。

「ああ。そうしてくれ」

「分かった」

 二人で彼女の指し示した制御盤へ。制御盤に備え付けてあったゴムの絶縁手袋をはめてから蓋を開き、スイッチをオフにして念のためブレーカーもオフにする。これで作業中に動くこともあるまい。


 念には念を入れて操作禁止の札を制御盤に掛けたら、その横の壁=入口から見て右手側の通路手前に書かれた説明:自動ドアメンテナンス時は保管庫2から用具を持ち出すこと。

「保管庫2って……あれか」

 右手側の通路入ってすぐの銘板がここからでも読み取れる。

 言われた通りその部屋に進むと、殺風景なコンクリート打ちっぱなしの空間の中、入口以外の三面の壁に隙間なく棚が設けられていて、各種の工具や治具、保護具の類がそれぞれネームプレート付きの容器の中で保管されていた。


「これと、これと……」

「あの高さだと脚立も必要だね」

 一通りの道具を揃え、入口の横に固縛されていた脚立も失敬して再度扉の前に戻る。ヘルメットも一緒に借りてきたのは、転落した時の備えだけでなく、どうせ作業に集中すればどこかに頭をぶつけるというのが分かりきっていたから。

「さて、あの金属棒を取り除く訳だが……」

「勢い余って落ちないようにね」

「ああ。それと、さっき見たところ金属棒の上に電線が走っている。電源も落としているし、被覆もされているが、万が一破孔があったりしたら危ない。感電対策として、まず線の状態と、電気が来ていないことを確認しよう」

 お互いに現場を確認。下から見た限り電線は被覆されている。


「脚立水平ヨシ」

 リンが扉の横に設置した脚立を最大限に開いた状態で、取り付けられた水平器を確認。

 開き止めが機能してそのままの形で固定されたその脚立を俺は登っていく。

「よいっと……、これか」

 脚立の最上から二段下。ちょうどいい高さで例の金属棒と、その上の電線。見る限りは被覆されていて、表面に傷もないが念には念。

「電流計取ってくれ」

 下で脚立を支えているリンに伝え、彼女から差し出されたそれを受け取る。手の中に収まるサイズだが、それでも昇降中に手に持っておくのは危ない。

「……よし、OKだ」

 電流計の表示が、頭上の電線が触っても問題ない状態であることを確かめて電流計をリンに返すと、今度こそ金属棒の引き抜きを開始。

 意外なほどにするりと抜けたそれもリンに引き渡す。この一本以外には挟まっているものはなさそうだ。


 先程までの動きを逆再生するように脚立を降り、電源の復旧を行うと、先程までの不具合などなかったかのようにあっさりと、音もたてずに扉が道を開けた。

「これでよし」

 使った工具や脚立を返して来たら、いよいよその奥へと歩を進める。

 扉の向こうは特にこれと言って何か違う訳ではない。ただ、いくらかこちらの方が年季が入っているというか、恐らく最初に造られたのはこちら側なのだろうというのは入った瞬間に直感的に察することが出来た。

 その中を進んでいく俺たち。違いがあるとすれば壁を走る光が存在しないことと、それがなくても問題のない完全な一本道ということだろうか。


「これは……」

 その一本道は唐突に終わりを告げる。目の前に現れたのは、精々車一台通れるぐらいの幅しかなかった廊下には不釣り合いの、大型トレーラーが余裕ですれ違えるぐらい巨大な扉。

 その手前にある操作盤にはちゃんと電源が供給されていて、ボタン一つでこの巨大な板二枚を動かせるようになっていた。

「この先に気配を感じる。多分近いよ」

 リンがそう一言。なら開けない理由はない。

 今度は問題なく初めから扉が開く。音もたてず、滑らかに。

 開いた先にあったのは、扉の幅より倍以上は広い巨大な空間。

 奥に伸びる廊下のように思えるそれはしかし、廊下と呼ぶにはあまりにも巨大な直方体の空洞だった。

 そこがゴールではないという事は、これまでと同じ近未来的な壁や天井以外には、その壁に一定間隔で設けられている何かのハッチと、一番奥に控えている普通の大きさの扉、そしてその扉に目を向けたリンの言葉で証明された。


「あの奥から気配がする。多分あっちにある」

 その言葉に従って、俺たちはこの巨大空間に足を踏み入れた。

 他に何もない、殺風景でだだっ広いだけの巨大な空洞。一体誰が何のために造ったのか分からないそこを歩くと、何となくどこかからか見られているような感じがする。

「……なんか、落ち着かない場所だね」

「リンもそう思うか?」

 どうやら俺の意識のし過ぎではなかったようだ。お互い、広くて遮蔽物のない空間は苦手かもしれない。


 そんな落ち着かない場所も、ようやく真ん中辺りまでやってきたところで、不意に背後から聞こえてきた空気の抜けるような音が、俺たちの注意を集めさせた。

「なんだ?」

 振り向いた先=一定間隔で壁に設けられたハッチの一つが開いている。

「!?」

 いや、開いているのではない。開けたのだ。おそらくは内側から。

 それを表すように、中から飛び出した何かは、射出と呼んだ方いいようなスピードで、ただの影のようにしか見えなかった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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