四精霊21!
ひたすら通路を進んでいく。
壁を走るパイプの光は、まさしく俺たちのような部外者の道案内だったようで、途中にあった数か所の分岐すらも、その光が流れていく場所に向かって進めば間違いないという有様だ。
と、これだけ見れば非常に単純な構造のように思えるが、当然その中を進んでいく俺たちはただ何も考えずに進むことなど出来はしない。
道が分かりやすければ、その分その道自体が罠の可能性があるという考えは当然浮かび上がってくる。
「リン、道はこっちでいいのか?」
「うん。多分ね。少しずつだけど気配に近づいている気がする」
とはいえ、光の消えている分岐の先がことごとく行き止まりであったり閉鎖された隔壁であったりすることを考えると、事実上一本道で、仮に罠だとして他に採るべき進路はない。
「罠の類は……」
「今のところなさそうだね。待ち伏せもいないし」
幸い、リンのその見立てが楽観論過ぎるという事はなかった。
分岐を越えてたどり着いた先で、道は唐突にちょっとした広場のような場所に出た。
と言っても精々バレーボールのコート一面分にも満たない広さだが。
俺たちが通ってきた道の他には左右にこれまでと同じような道が伸びているが、進むべき順路はその二つの真ん中にある閉め切られた扉であることは、壁の光が示している。
「多分、この扉だね」
「ああ。多分な」
言いながら扉の前へ。この通路に入ってきた時と同様のデザインのスライドドアで、この見た目からして恐らくここも自動ドアだろう。
「……?」
だが、反応がない。
扉の前に立って、念のため扉に手を触れて、しかし全く動く気配がない。
「施錠されている……?」
だとすると厄介だ。この扉が使えないだけでなく、ここまで信じて進んできた壁の光すらも疑わなければならなくなる。
加えて、これまでの分岐はどれも行き止まりだった。つまり、ここを何とかして開けるか、左右の道を探索するか――。
「本当に動かないのかな?」
諦めきれない、といった様子でリンが何度かチャレンジ。扉の前で前後や左右に動き続ける。
「あ、これ」
「ん?」
前後に何往復かして、それからリンが不意に扉を指さして声を上げた。
扉を指していない方の指は己の耳に当てている。
「何か動いている音はする」
言われて、俺も彼女の横に並ぶ。
成程確かに音がしている。モーターの唸るような、しかし一瞬で止まってしまう音。
一つの可能性:何らかの不具合で開かなくなっている?
「だとすれば……」
「あ、ねえ、あれ」
リンの指が続いて扉の横に設けられた金属製の箱にスライド。その箱から伸びた線が、天井に設けられた溝を伝って扉へと続いている。
どうやらこの溝、扉自体のレールを兼ねているらしいという事を、その上側を見上げた時に気づいた。近未来的な施設だと思っていたが、意外にこの辺は現代のそれとあんまり変わらない。
――そして不具合の原因もまた、すぐにそれと分かるものだった。
「あれか……」
見上げた先に見えたもの=上側のレールに挟まっている金属製の棒。
一体何に使ったものなのか、扉の上側に挟まったそれが、扉自体の駆動を妨害しているようだ。
つまり、これが取れればいいという訳だ。
「よし、あれ取ってみよう」
「分かった。電源落とす?」
リンが箱=恐らくは制御盤を指さしたのを、俺は首を横に振ってこたえた。
「いや、これ取るだけだ。正面に立たなければ扉は動かないし、そのままやるよ。そこにある何かの箱とってくれ」
「分かった」
代わりに彼女の近くにあった、空の木箱を持ってきてもらう。
足場になりそうなものは近くに無いが、これを踏み台にすればちょうど高さは足りそうだ。
「よいしょ……っと」
「落ちないように気を付けて」
リンにそう言われながら木箱に登る。足をかけた瞬間少しぐらっと動いたが、まあ許容範囲だろう。
高さを得て手を伸ばすと、まさしく挟まっている金属棒がちょうどいい高さだった。
その棒に向かって手を伸ばす。その上に走っている扉に通じているだろうむき出しの電線には届かないぐらいの絶妙な高さ。
腕を垂直に上げて、ほんの少し踵を浮かせた高さがその10㎝以上下の金属棒だ。
「もう少し……もう少し……」
その金属棒を手でつまむと、少しずつ力を加えて引き抜いていく。
ここで一気に力を加えれば、そのまますっぽ抜けてバランスを崩し転倒という事もある。少しずつ少しずつ、多少時間がかかっても確実に抜き取る。
「うっ……く」
だが、流石にずっとつま先立ちを続けるのはきつい。
「ふぅ……」
一度かかとも着地し、ついでに疲れてきた腕も下ろす。
一度深呼吸。それから再度腕を伸ばす。
「……よしっ!」
今度は成功だ。それまで動かなかった金属棒がぐらりと動いて、抵抗がなくなった。
「これで……っと!」
瞬間、多分俺の足は木箱に余計な力を加えたのだろう、ほんの一瞬だけ、最初に登った時のような揺れが足元から襲った。
「うおっ!!」
と言って、転落するようなそれではない。
咄嗟に開いている方の手で金属製の扉の縁に手をかけて体を支えた。
これで一安心――そう思った瞬間、引き抜いた金属棒が天井へと垂直に伸びていたと知った時には、俺の体の中に衝撃が駆け抜けていた。
「リヒト?」
「……ッ!!!」
声は出なかった。
それが感電だと分かったのは、硬直した体がバランスを崩して落下する瞬間、天を仰いだその一瞬だけ見えた、少しだけ揺れ動いている裸電線の姿によってだった。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




