四精霊19
「本当に大丈夫なのか……?」
恐る恐る尋ねる俺に、リンはそのライトグリーンの瞳で笑う。
「大丈夫。もう体も動くし……、あと一つだけ、早く行こう」
一瞬、何かを考えるような表情に変わったが、それを認識した時には既にもとの顔に戻っている。
「残す精霊は土の精霊のみ。必ずや加護のあらんことを」
司祭もまた、そう言って俺たちを送り出してくれた――風の精霊の領域に向かった時と同様に杖の光で俺たちを癒してから。
そうだ、いよいよ残すはあと一か所。ここさえ越えれば、つまり土の精霊の加護を得られれば、俺たちはヴェトルに、そしてフィンブルスファートに対抗できるようになる。
「……よし、行こう」
意を決して最後の魔法陣へ。
ここに飛ばされてきた時から数えて四度目の光に包まれ、その光が静まった時に現れたのは、土の精霊の領域という言葉からは想像できないような光景だった。
「これって……」
「一体ここは……」
辺り一面灰色の海に囲まれた絶海の孤島。その片隅にある岩場に立っていた俺たちは、すぐ後ろで一定のペースで砕ける白波に送り出されるようにして内陸へと歩を進める。
恐らくこの辺は入り江なのだろう、岩の隙間や細かな穴に波が打ち付けては退き、常に湿っている大小の岩を渡りながら、堤防のようにそびえ立っている崖を、そこを削って作られたような階段で登っていく。
ここまではまだ想像できる範囲だ。
土の精霊といいながら海辺というのは少し引っかかるが、それを言い出したら火の精霊だって最初は雪山の中にいたのだ。
だがこの場所は火の精霊の領域とも明らかに異なる。洞窟に入らなければその正体が明らかにならなかった火の精霊と異なり、こちらは崖を登っている時点で自分たちがどこに向かっているのかが見えている。
俺たちは向かっているのだ。目の前にそびえ立つビル群に。
「これ……どうやって建てたんだろう?」
崖を登り切った先に広がる、大小さまざまなビル。
俺からすればなじみ深いそれらも、リンにとっては見慣れぬ世界だ。
「これが土の精霊の領域……」
感心しながらも、別に観光しに来たわけではない。周囲を警戒し、ビル群の中に伸びている道がどこに通じているのかを目で追いかける。
正面に伸びている片側三車線の道路がビル群の中で地下に下り、そのトンネルには不思議と電気が来ているのかオレンジ色の照明が並んでいる。
見える限り唯一の通電箇所。探ってみる価値はある。
「あっちに行ってみよう」
リンにそう言って、崖からまっすぐその道路へ。
崖っぷちから数十m進んだ先にある丁字路がその大通りの終点のようで、ガードレールやフェンスで区切られたそこの隙間から道路上へと踏み入る。
車が通った形跡はない。いつからここがこうなっているのかは分からないが、アスファルトの状態はまだだれも使っていない新品のようだ。
その、心なしか靴の裏に僅かな粘り気を感じるようなその新しい道路をまっすぐ前へ。
道路が新品なら、その周囲も新品だ。この道路と両脇の歩道を隔てているガードレールや、その向こうにあるビル群も、どれをとっても出来立てのように思える。何しろ道にも駐車場にも車の一台もないのだ。
まるで映画のセット。作り物のような街を警戒しつつ正面に見えるトンネルへと進んでいく――もしかしたら適当な路地に入ったら、このビル群がハリボテと分かるんじゃないかなどと考えながら。
「この下か……」
「でも行き止まりっぽいよ?」
トンネルの中は緩やかな下り坂、そしてそれを下りきったところで道は終わっていた――全六車線を完全にカバーする巨大なシャッターによって。
どうする?一瞬頭の中に様々な案が浮かぶ――本当にハリボテを探すように路地をうろつくか?
「あっちだ」
だが、それら全てが言葉になる前に立ち消えた。
隔壁のように完全に閉め切られたシャッター、そのすぐ横に設けられた、人間用の出入口を見つけたことで。そしてそこがシャッターはおろか、鍵さえかかっていないと半開きになった扉が俺たちに教えていることで。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




