表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/85

四精霊17

 奴の姿を改めてよく見る。

 緩降下するその姿は、しかし片足がぶら下がっている。

 どうやら先程与えた傷は想像よりも深かったようだ。神経が繋がっていないように垂れ下がり、そのまま体の付属品としてついているかのようにぶらぶら揺れている。

 そして心なしか、こちらに飛んでくるスピードもそれまでより遅い気がする。


「来るぞ!」

 だがそれでも、ぼうっと見とれていられる程ではない。

 動く方の足での攻撃を、広い足場を手に入れたことを活かして大きく動いて回避。

 攻撃を空振りした奴はそのまま上空に逃げていく。攻撃時には多少速度が落ちたように感じたが、離脱時のスピードは雲の中にいた時のそれと変わらない。

 そのスピードでもって上空に逃れると即座に減速。鋭く弧を描いてもう一度落下攻撃が迫る。

「クソッ!真上か!」

 俺の頭上遥か上、奴が羽をたたんで落下を始める。


「リヒト!」

「なら……こっちだ!!」

 加護のなせる業……という事なのだろうか、首を限界まで上に向けた状態の俺の頭から、その直上からの攻撃への対処法が電撃のように全身に伝達された。

 奴を見上げたまま、フライをキャッチする野手のように、少しずつ横に移動しながら奴と俺との距離をじっと測る。

 奴は突っ込んでくる。重力に加えて羽をたたむことで空気抵抗を減らして。

 その落下が確実に俺を捉えた――そう認識出来たところで、俺は祠に向かって一直線に駆け出した。

「こっちだ!こっちだ!!」

 叫びながら走り、奴の影が俺を覆ったところで意を決して右に跳ぶ。


「うおおっ!」

 歯を食いしばって背中から地面に飛び込み、そのまま柔道の受け身のようにして転がると、その勢いを使って立ち上がる。

 その直前まで俺がいた場所にハーピーの蹴りが駆け抜けていくのを見たのは、まさにその瞬間だった。

 空振り――それを察するや否や、奴はひらりと空へ舞い上がる。

 予想通り、直前で軌道を変更されると攻撃のために加速したことが仇となって対処できないようだ。

 これなら反撃はともかく回避は何とかなる――そう踏んだ瞬間、即座にその考えを頭から放り出す。

 一変した状況=一撃離脱からドッグファイトへ。

「ッ!!」

 蹴りを空振りしたハーピーが一度だけ羽ばたく。ただし今度は高く飛ぶためではなく、姿勢制御のために。

 人間の身長程度の高さでくるりと体の向きを変えるハーピー。その器用な軌道は、再び単純な突撃軌道に変わる。


「ッ!?」

「ッ!まずい!避けろ!!」

 その突撃で即座に捕らえられる位置にいたリンに向かって。

「わっ!」

 再度ハーピーの爪が空を切る。尻もちを搗くようにしてでもその爪を躱せたのは幸運だった。だが、その姿勢からでは反撃を望むべくもない。

「うおおおっ!!」

 そのハーピーの背中に飛びかかる。

 リンが間に合わないのなら、俺が追い付けばいいだけの話だ。

 奴が再度羽ばたく。空振りした蹴りの勢いを殺して姿勢制御するために。

 舞い上がる細かな砂利がリンを襲い、咄嗟に目を閉じてしまったことで反撃の芽は潰されてしまう。


 冷静な部分の出した分析:ハーピーは目の前の無防備な相手を爪で捕らえ、数m後ろに連れて行って爪を放すだけでいい。


「リンから離れろ!」

 叫びながら横一閃。こちらに顔を向けていない奴の背中めがけて渾身の一撃。

「ッ!?」

 きっと、先程俺がすっ飛んで攻撃を躱した時のハーピーの表情は、今俺がしているのと同じものだったのだろう。

 想像など出来るものではない。突然ハーピーが更に浮き上がって、宙返りするようにして俺の視界から消えるなどとは。

「何が――」

 起きている、までいうより先に、俺の背中に硬いものが触れる。


 直感:先程の分析は当たっている。唯一違いがあるとすれば、ターゲットがリンではなく俺だというだけ。


「くっ!放せ!!」

 抗おうにも、片足をやられた怒りか肉に食い込むほどの力で俺を掴んだその爪はびくともせず、人一人分の体重など一切問題にならないと物語るように軽々と俺の足が地面から離れる。

 そしてそのまま、奴はまっすぐ飛んだ――目の前に見えている台地の端。その更に向こう=広大な雲海に向かって。

「リヒト!!!」

 リンの絶叫を一瞬で飛び越え、岩だらけの地面が高速で後ろにスクロールしていく。

「うおおおっ!!?」

 無我夢中で地面に突き出した聖剣。それがガリガリと音を立てて、その岩に新たな、そして深い傷をつけてくれなければ、俺はそのまま投げ出されて一巻の終わりだっただろう。


「ぐううぅぅっ!!!」

 なんとか地面に打ち込んだスパイク。それに全てを賭けてしがみつく。

 俺の握力がどこまで耐えられるか分からない。だが、指が砕けてもこれを手放すわけにはいかない。

「ぐうぅぅ……ああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 何とかして舞い上がろうとするハーピーが更に羽ばたき、それに抗い続ける俺の体が、突き立てた聖剣に必死でしがみつく。

 聖剣や精霊たちの加護によるものか、もしくは火事場の馬鹿力と言われるものか、或いはその両方だろうか。

 凄まじい力で持っていかれそうになりながら、俺の体は何とか聖剣の柄だけで落下を免れ続けていた。

「!!!」

 免れ続けていた――といっても、その時間は精々1秒か2秒ぐらいだろう。奴が再度羽ばたこうとするまでのその時間は、人生で最も長い1秒を間違いなく更新していた。


 そしてそういう時に特有のスローモーションのように全てが見えるその一瞬で、状況は動いた。

「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 俺に向けたリンの詠唱。

 直後に頭のすぐ上を掠めていくファイアボルト。ハーピーの爪に捕まった俺の頭のすぐ上にあるものは――?

 理解するより前に、俺の体は地面に投げ出された。

「ぐっ!」

 思わず息が詰まる。

 だが、地面だ。雲じゃない。


 それを理解して仰向けに転がると、腹の真ん中に火球を受けたハーピーが――より正確に言えばその残骸が――雲海の中に墜落していく最中だった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ