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四精霊16

「クソッ!また来るぞ!!」

 毒づき、剣を構える――本来の進行方向に向かって。

 そちらから来るという保証はどこにもない。どこから来るかどころか、今奴がどこにいるのかさえ見えていないのだから、判断のしようもない。

 だからあくまで仮だ。前から来るという仮定だ。

 ――そうでもないと後ろというほぼ唯一の逃げ道がなくなってしまう。


「……ッ!!」

 当然、向こうはそんなことはお構いなしに飛ぶ。

 一瞬だけ正面の雲を横切って姿を見せたと思った次の瞬間には、足元の下へと飛び込んで姿を消す。

「下か!」

 その言葉を発した瞬間に、雲の向こうに一瞬だけ垂直に飛翔する影。

 すぐ横を急上昇した――反射的に顔を上に向けるが、やはり姿はない。

「リヒト!後ろ!!」

 リンが叫び、直後羽を広げた巨大な姿が振り返った視界に雲を突き破って現れた。

「うおっ!!?」

 振り返りざま、その場に伏せるようにして辛うじてその鋭い爪を躱したリンのすぐ上を、滑空するように俺の方に飛び込んでくるハーピー。


「ッ!!」

 それはほんの一瞬の、ごく僅かな偶然だったのだろう。もしくはここまでに得られた水と火の精霊の加護が働いたのかもしれない。

 飛び込んできた奴に、俺は無我夢中で剣を振っていた。

 どこかを狙っていた訳でも、確実に撃ち落とす算段をしての迎撃でもない。ただ身を守るために、頭の前に手を持ってくるぐらいの勢いで剣を振った。

 その剣に、一瞬だけ手応えが返ってくる。

「えっ!?」

 思わず声を上げ、その時初めて自分の振った剣が、俺を捉えようとしていたハーピーの足を真一文字に斬っていたことを知った。


「な――」

 なにを言おうとしたのかは自分でも分からない。おそらくただ単に驚きで喉から音が出ただけだろう。

 そしてその瞬間、それより何倍も大きな咆哮を上げながら、ハーピーは俺の頭上を通り越して進行方向へと全速力で消えていく。

「あれは!?」

 奴からしても予想外の一撃。

 驚いたように高速で飛び去っていく。

 そして、そのための力強い羽ばたきは一度で奴の体を遥か前方まで飛ばし――それ以上に周囲の雲を力強く蹴散らしていった。


 見えたのは一瞬。しかしそれで十分だ。

 このまま道はまっすぐで、緩やかな上り坂になったその先には、雲の上に浮島のように突き出ている岩の台地。

 距離にして、およそ30m程度。


「リン!見えた!!」

 物語っている起き上がった彼女の目=同じものを見た。

「あそこまで行こう!」

 言いながら、頭の中ではその可能性についてを同時に考え始めていた。

 一つの策:あの台地まで駆け抜けて視界を確保し、万全の状態でハーピーを迎え撃つ。

 それへの反論:そこにたどり着くまでの30m程度の間、俺たちは無防備に一本道を進むことになる。


 脳内での結論はすぐに出た――留まっていても無防備なのは変わりない。

「分かった!急ごう!!」

 リンがその結論に達すると同時に走り出し、俺もそれに倣って足場を進む。

 流石に全力疾走は怖いため小走り程度だが、それでも足を斬られて警戒しているのか、ハーピーは雲を抜ける直前まで襲ってこなかった。


「いたぞ!!」

 そしてその直前の襲撃。再び足を狙われるのを恐れてか、左側から水平の突撃。

 耳が顔の両脇についていることに感謝するよりない。奴の羽ばたきと咆哮が、バタバタと音を立てる足場と四本の足の音に混じって左側から急接近してくる。

「来るっ!!」

 足を止めて左に向き直る。

 人間の足で小走りした程度、ハーピーの飛行速度からすれば止まっているのと同じ。

 なら無防備な脇腹を晒すより、正面から迎え撃った方が勝率は高い――今は先ほどのラッキーパンチを、その二匹目のどじょうを信じるしかない。


 その覚悟を決め、腰を落として剣を構えたのと同時に、目の前の雲を引き裂いて、その槍のようなくちばしを先頭にしたハーピーが飛び込んでくる。

 それと同時:すぐ横にいたリンの一息の詠唱。

「光よ、邪なる影を払い真実の姿を示せ!!ディバイングリント!!」

 アンデッドを払う光の魔法は、ハーピーにも有効だった。もっとも、その神聖な力によってではなく、単純に強い閃光によってだが。


「ッ!!」

 ハーピーがバランス崩す。

 足を斬られた痛みと怒り、そして油断ならぬ相手を確実に仕留めるという判断。それらが持てる全速力で俺たちに当たるよう仕向けたのだろう。

 やられた足を使わず、傷のない鋭いくちばしによる一撃。

 その目標をしっかりと捉えていただろうその目に、突然凄まじい閃光が飛び込んでくる。

 驚いたようにハーピーの軌道が上に逸れる。

 突撃の勢いは完全には殺せないため、俺たちの頭上を通過して反対側の雲の中へと突っ込んで消える。


「よし、今のうち!」

「ああ!」

 その姿が消えると同時にリンが叫び、俺もそれに続いて再度足を動かす。

 ハーピーの一撃を凌いだ。こんなチャンスはもう来ないだろう。

「うおおおお!!」

 叫び、足を動かす。先程までより開けてきた視界に向かって。

 一歩ずつその傾向は強まり、360度白濁していた世界は、自分でも分かるほどのスピードで透明感を増していく。


 そして遂に、その瞬間が来た。

「抜けた!雲を抜けた!!」

 やってみると、あまりにもあっけなかった。

 音もなく、強い光も差し込まない。ただ辺り一面に広がる雲海の上に出たというだけ。

 そして先程遠くに見えていた台地が、今は目の前にあるというだけ。

 ただし、その台地の奥には、火の精霊のそれによく似た祠がひとつ祀られている。

 つまり、ここがゴールだ。

「ッ!!」

 そしてそのゴールを守るキーパーよろしく、再び正面上空からハーピーが降下を開始していた。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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