四精霊11
硬くむき出しの岩は、鈍い音を立ててハーピーを僅かに跳ね返した。
低くバウンドしたハーピー。そのまま勢いが止まるまで転がり、そしてピクリとも動かない。
「やったか……?」
だが、確認する時間はない。もう一羽は健在だ。
「ッ!」
その健在のもう一羽は、しかしその時点で追撃を諦めたようだった。
ひらりと空中で身を翻すと、俺たちに尻を向けて距離を取り、ほぼ垂直に雲海へと突っ込んで姿を消す。
「逃げた……?」
「そのようだな」
なら深追いする必要もない――というか、この雲の下に逃げられてはしようにも出来ない。
「今のうちに進もう」
ほっと一息ついてから、改めて辺りを見回す。
この足場から左右に伸びている分岐はどちらも同じような岩の台地に繋がっているが、今回は左手側に歩を進めることにした。こちらの方が近いし、何よりここから見える場所にその先があるのが分かる。
次の足場に向かう丸太の橋に一歩を踏み出し、まっすぐに伸びているその橋を、先程と同じような岩の台地へ。
「「ッ!!」」
背後に巨大な影が躍ったのは、そのちょうど中ほどに達した所だった。
「ハーピー!!」
振り返ったリンが叫び、俺も剣を構える。
現れたのは一羽だけ。
大きく羽を広げ、雲海から飛び出してきたのだろうそいつは、ターゲットを上から襲うべく仕掛けた急上昇を終えた瞬間だった。
「くっ!!」
頭によぎるのはさっき逃がした個体。
もしこいつがそうなら、最初からこのタイミングを狙って敢えて逃げていたのか。
「来る!」
真相は分からない。分かることはただ一つ。奴は俺たちにまっすぐ飛び込んでくるという事。
「光よ、邪なる影を払い真実の姿を示せ!!ディバイングリント!!」
しかしその突撃は、リンの放った光が迎え撃った。
閃光が走り、同時に彼女が飛び下がる=位置の関係で俺に突っ込むような動き。玉突きのように俺も後ろへ跳ぶ。
残ったのは、目のくらんだまま丸太へと突っ込んだハーピー。
「うおっ!!」
その衝突の衝撃にぐわんと足元が揺れるが、幸い俺たちは落ちてはいないし、橋も無事そうだ。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
そしてなんとか転倒をこらえたリンが、片膝をついた姿勢のまま放った火球は、想定外の激突で飛び上がるタイミングを逸していたハーピーの胴体、その鳥と人間の境目辺りをしっかりと撃ち抜いた。
「ギッ!!?」
短く詰まった声。それだけを残して、ハーピーは雲の下へと落ちていく。
羽を広げたような姿勢のまま、しかしその羽根で羽ばたくこともせずに一直線に。
「お見事」
今度こそ安全を確保。改めて道を進む。
幸い、今のが襲撃の最後だった。次の岩場に到着した時も、そこから左手側の切り立った崖に向かう丸太の橋の上でも、そしてその崖に張り付くようにして奥へと伸びている木材を組み合わせた細長い足場でも。
「襲われたら逃げ場がないな……」
一応人が二人何とかすれ違うことが出来るぐらいの幅はある――すれ違う際に外側には立ちたくないぐらいギリギリだが――ものの、左手側がそびえたつ岩壁で逃げ場がない以上、ここで襲われればどうすることも出来ない。
だから、その危険な足場のゴールが、岩壁にぽっかりと開いた洞窟だと分かった時には、その中が見えないうちから、中への警戒より助かったという思いが先に出てきた。
「ここから先に進むのか……」
「他には道もなさそうだしね」
足場はその洞窟のすぐ前でなくなっていて、あとは岩の隙間から生えている名前も知らない植物だけ。
のれんのようになったその植物の下をくぐって洞窟の中へと足を踏み入れると、意外なほどに中は明るさを保っていた。
入ってすぐ右に折れ、岩壁に沿って伸びている洞窟。先程まで歩いていた足場の更にその先に当たるのだろう右手側は所々岩壁に切れ目があって、そこから外の光が差し込んで照明の役割を果たしている。
その光の差す一本道を奥へ。幸いなことに幅も高さも十分にあるそこは、ここまで歩いてきた足場や丸太の橋と同様に誰が用意したのかと疑問に思えるほど、ちゃんと通路として整備されているようだった。
その一本道の洞窟に変化が訪れたのは、そこをしばらく進んだ先、緩やかな下り坂を降りていったところで。
「ねえ、これ」
それまでで初めて現れた分岐=左手側に伸びているもう一つの細道。
ここまでの本道よりも狭く天井も低ければ下りも急なそこは、しかしその手前にこれまた誰が用意したのか分からない錆だらけの鎖で封鎖されている――ダメ押しのように「危険」の札まで下げられて。
「ああ、何かあったのか……」
何の危険があるのかは分からない。だが、触らぬ神に祟りなしだ。
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




