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四精霊10

 とはいえ、連中も諦めたわけではないというのは明らかだ。

 二羽とも――ハーピーの数え方がそれでいいのかは知らないが――大きく旋回すると再び高度を取り、俺たちの頭上を取るように真上へと移動を始める。


 先程の攻防でわかったように、トップアタックというのはあまりに致命的だ。

 多少高さのある所からの攻撃なら対処法もあるだろうが、完全に真上から突っ込んでくるとなると話が変わってくる。そんな状況を想定した迎撃法なんて限られているし、回避するにはただ思い切り距離を取るより他に無い。

「また来る!」

「くっ!!」

 その急降下を何とか躱し、反撃に応じようにも確実に安全と言えるだけの距離を取って回避してからの反撃では、俺の斬撃でもリンのファイアボルトでも奴らの動きを捉えることは出来ない。

 そしてそれを分かっているからだろう、ハーピーたちは一度の攻撃で倒せないとわかっても無理に追撃せずに再度上空へと逃げ、安全な高さから再度攻撃を加えるべく急降下する。


「ちぃっ!」

「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 その降下する相手に迎え撃つリンのファイアボルトは、落ちながらロールする動作で躱され、一回転したままの姿勢で一切スピードを落とさないハーピーの突撃には逃げまどうしか出来ない。

「うわっ!!」

 跳び下がって着地。その瞬間、右足の踵が地面から離れていることに気づく。

 もし踵側に体重を乗せていたらそのまま落ちていてもおかしくない、完全な崖っぷち。

 すぐ横にある左手への分岐に逃げるか――その考えを即座に否定する。丸太を三本並べただけの橋の上で、二羽のハーピーから逃げ切るのは不可能だ。無理に避けようとすればどれぐらいの高さがあるかすら分からない谷底に真っ逆さま。つまり、ここで何とかするしかない。


「とはいえ……」

 再度舞い上がるハーピー、リンが再度火球を放つが、嘲笑うかのようにひらりと身を翻しただけで連中はその軌道から逃れていく。

 急降下突撃を剣で斬るのは現実的ではない。なら、それ以前の段階で撃墜できれば一番なのだろうが、それなりの剛速球に含まれるだろうリンのファイアボルトですらも躱されてしまうとなれば、こちらに奴らに対する有効な手はない。

「それ、なんとかして誘導できないのか?」

 ダメ元の問いに返ってきたのは横に往復する首だけ。

 時を同じくして再度ハーピーが急降下の姿勢に入る。


「クソッ!どうすれば――」

 まるでこちらのやり取りを理解しているかのように、まっすぐに突っ込んでくる一羽と、そのすぐ後ろにつくもう一羽。

 理屈でいえばこの突撃の瞬間にファイアボルトを撃てば当たるのかもしれない。

 だが、狙いを定めて詠唱をして――という間に奴はここまで落ちてくる。

 仮に最初の一羽に命中したとして、即座に次の一羽が……。


「……いや」

 そこで思考を中断。先程とは反対に台地の真ん中に向かって、頭から飛び込むようにして回避。

「リヒト!くっ――」

 前衛の一撃が空振りに終わったとしても、即座に同じ軌道で叩き込まれる後衛は一切止まることなく同じ軌道を描き、前衛を飛び越えるようにして近くにいたリンを狙う。

 俺にしろ彼女にしろ、ここまで致命傷を負わないでいられるのは、それぞれに与えられた加護の力によるものだろう。それ程に、連中の攻撃は速い。


「どうすれば……」

 再度舞い上がったハーピーたち。何とか攻撃をかわしてそれを見上げているのは、俺もリンも同じ。

 そしてハーピーの次の攻撃手段も同じ。

 一個だけ違う点があるとすれば――そしてそう自惚れることが許されるならば――俺の頭に浮かんだ考えが正しければ、これが連中の最後の攻撃になるという点だ。

「リン、こっちに来てくれ!後衛を落とす」

「!?」

 そんなことが出来るのか――そう聞き返すことも、それについて手を説明する時間もないというのは、彼女も分かっている。

 どうすればいい――ただ駆け寄りながら目でそう尋ねるのみ。

「俺の背中についてくれ」

 落ちてくる二羽と同じような形。

「合図したら後衛にファイアボルトを」

「分かった」

 信じてもらうしかない。奴らは既に、一直線に落ちてきている。


「……ッ!」

 今度は逃げない。再びハーフソードにとった剣を盾のように頭上に掲げて腰を落とす。

 体重を低く、腰を入れた瞬間、その姿勢を上から押しつぶすような凄まじい衝撃が走った。

「ぐうっ!!」

「リヒト!!?」

 思わず膝をつく。ハーピーの質量と位置エネルギー、それにその飛行速度の全てを受け止めた聖剣には感謝してもしきれない。

「ッ!!」

 だが、今はそれを後回し。

 即座に襲い掛かる後衛のために跳び下がったそいつの後ろ。その後衛が一対の巨大な爪を振りかざして飛び降りてくるのを目が捉え、一撃目の衝撃で思わず漏らした息の残り全てを吐き出すように、俺は叫んだ。

「今だっ!!!」

「ッ!!光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 その叫び声に、リンはしっかりと詠唱で答えてくれた――前衛とほとんど同じ軌道を取るが故に、攻撃の瞬間には完全に予測できる進路で突っ込んできたそのハーピーに火球を放つ掌をしっかりと向けて。


「ッ!!!?」

 ハーピーの落下速度+ファイアボルトの弾速。

 凄まじい速度の火球が、ハーピーの左の翼を根元からもぎ取った。

「よしっ!!」

 空中で軌道を乱され、後衛は落ちた――硬い岩肌に、受け身も取れずに頭から。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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