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四精霊9

 お堂の前を横切って洞窟の出口へ。目の前に広がる雲海のような乳白色の世界を見下ろして、そこに向かって伸びている石造りの細道を下っていく。


「崩れないよな……」

 思わず口をついたのは最悪の想像。もしここでこの人一人がやっと通れるぐらいの石の橋が崩れれば、助かるすべなど何もない。

 どういう経緯でそうなったのかは分からないが、自然のもの故に橋げたの一つもないこの石橋、急いで駆け抜けたくなるが、一歩踏み出すごとに頭に浮かぶ嫌な想像のお陰で、駆け出しそうになる足にブレーキがかかる。

 そのまま多少速足程度でその橋を渡り終え、雲海の中の島のようになっている岩山の頂上に到着。ほっと一息ついて辺りを見渡す。

 柱のてっぺんのようなその台地は、一面の砂利の中に一本だけ松が伸びていて、その根元に立って、その下から伸びている丸太を並べただけの橋を見る。先程まで歩いてきたところとどちらが安心かは、一概には言えない頼りなさ。


「まあ、それでも他に道もないか……」

「気を付けて進むしかないね」

 幸い、今度は先程よりも短い。その橋の対岸にはここと同じような岩の台地があって、その先で左右にそれぞれ丸太の橋が伸びている。行先はどちらも、これまた同じような岩の足場だ。

「とりあえず、あそこに進めばよさそうだな」

 覚悟を決めて、松の根元をぐるりとめぐるように下へと続いている下り坂を降りて丸太の橋へ。先程通った岩の道よりも雲に近いため、ほとんど雲の上を歩いているような錯覚さえ覚える。


「おっ……」

 その橋に一歩踏み出すと、足元の雲から涼しい風が僅かに吹き上げて頬を撫でた。

 ――火の精霊の領域は溶岩に満ちていたが、風の精霊の領域はこの程度のそよ風という事もあるまい。

「……風に飛ばされないようにしないとな」

「ちょっとすれば落ちそうだしね」

 その考えが、吹き上るそよ風に対してオーバーな程の台詞を吐かせたのは、そういう訳だった。


 結論から言うとそいつは杞憂だった。

 風はほとんど無風だった。

 下からのそよ風はその一回だけで、あとは全くの無風だ。ただ静かな谷間の雲海の中を、俺たちは声も発さずに歩いていく。

 しかしそれは、一切何も気にしないでいいという事でもない。


「……?」

「リヒト?」

 立ち止まり、耳が拾った音の方向=前方右下へと視線を向ける。

 見えているのは一面の雲。風もなく、それ故に動くことも無い凪のような雲海。

 確かにそこから聞こえたのだ。何かが羽ばたく音と――獣のような咆哮が。

「今何か聞こえなかったか?」

「何が――」

 リンが聞き返しながら耳を澄ませようとして、即座にその必要はなくなった。

「「ッ!!?」」

 俺が音を拾った方向とは橋を挟んで反対側=前方左下の雲が突然破れて、その下からそれは飛び出してきた。


「ハーピー!!」

 リンがその名を叫ぶと、それと同時にそいつは、その巨大な翼を広げてこちらへと急降下を開始した。

「来るぞ!!」

 ハーピー。巨大な猛禽類のような翼と下半身に人間のそれのような上半身と頭を乗せたそのモンスターは、人とも鳥ともつかぬ咆哮と共に俺たちの頭上から襲い掛かった――橋の上で左右に逃げられない俺たちに向かって。

「くうっ!!」

 咄嗟に後退。橋が壊れるかと思うほどの振動で危うく振り落とされかけながらもなんとか振り向くと、それまで俺たちがいたところをフックのようなハーピーの爪が掴み、丸太の表面に真新しい傷をつけていた。


「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」

 即座にリンが唱え、俺のすぐ横を火球が飛んでいく。

 ほとんど着地した瞬間を狙ったようなそれが貫いたのは、ハーピーが浮かび上がった後の空間だけ。

「くっ!」

 決して遅くないはずのリンの火球を、奴は羽ばたき一つで悠々と躱して、2mを優に超える巨体を空に舞い上がっている。

 そしてお返しとばかりに、俺たちの頭より高い位置から再び爪での攻撃。

「っ!!」

 咄嗟に引き抜いた聖剣を通じてその衝撃が全身を駆け抜ける。あと少しでも遅れていたら、俺の体にあの爪が食い込んでいただろう。


「このっ!」

 押し返しつつ斬ろうとするその動きに乗るようにして奴は再度羽ばたき距離を取る。続いてさらなる攻撃――とはならず、そのまま空中で身を翻すと一度降下し、雲すれすれの高度で円弧を描きつつ飛んでくる。

「旋回した!?」

「走って!後ろから来る!!」

 リンの直感通りだった。

 俺たちが後方に逃げる=広い足場に近づいていると悟ったのだろうハーピーは、ならばとそちら側から仕掛けることにしたようだ。

「くうっ!!!」

 背中を奴の羽ばたきが生み出した風が叩く。それにこかされそうになりながら、前方に見えるもう一つ岩場に向かって全速で突っ込んだ。

 この狭い橋の上では自由に飛び回るハーピーの相手は出来ない。少しでも動き回れる対岸の岩場にいち早く乗り込むことだ。


「ッ!!」

 だから、その岩場の向こう、岩場で見えないが恐らくこの辺と同じ状態だろう雲海からもう一匹のハーピーが飛び出してきた時の絶望感は、思わず足を止めそうになる程だった。

「止まらないで!走って!!」

 リンのその声がなければ、恐らくそのまま新手を見上げたまま動きを止めてしまっていただろう。

「お、おう!」

 自分が置かれている状況を思い出して再度丸太を蹴り、残りの距離を一気に駆け抜ける。

 ――と同時に剣を頭上へ。ハーフソード=片手を剣身に置く形で、頭上から飛び込んでくる正面のハーピーの爪を受け止め、後ろに突き返されるような衝撃の中で足を踏ん張る。

「おおおっ!!」

 腰を落として奴を跳ねのけ、そのままの勢いで一気に対岸へ。再び踏みしめた硬い岩の感触は、その硬さがこの上ない安心感を与えてくれた。


「まだ来る!」

「了解だ!」

 その盤石な地面を踏みしめて振り返る。

 二匹のハーピーは全く手を緩めることなく、俺たちめがけて急降下を開始している。

「ぐっ!!?」

 先頭の一匹の振り下ろす爪を再び剣で受け止める。

 ――と、同時に感じる妙な軽さ。

 これまでの経験から腰を落として衝撃に備えていたが、それまでとは明らかに異なる感覚だ。


「なんだ――」

 確実に致命傷を与えるとか、相手に爪を食い込ませて捕らえるとか、そういった意思のない、ただ当てるだけのような攻撃。

 拍子抜けするようなその軽さを感じたのと、即座に飛び離れたそいつのすぐ上から二匹目が急降下してきたのは同時だった。

「ッ!!」

 そして、全ての生物にとって致命的なトップアタックという攻撃に対し、それではあまりにも遅すぎた。

 回避するか?防御するか?予想外の軽さ――勿論これを狙っての事だろう――によってどちらも出来ない中途半端な姿勢で立ち尽くしてしまっていては、全く対処など出来ようもない。


「ッ!!!」

 やられる――その瞬間の俺に出来たことは、思わず身を縮こませて、ただその瞬間を待つことだけだった。

「光よ、邪なる影を払い真実の姿を示せ!!ディバイングリント!!」

 詠唱と同時に突撃してきたリン。間一髪で彼女の放った閃光が、襲い掛かるハーピーの防衛本能に危険を刷り込んだ。

「リン……」

「大丈夫!?」

 間一髪で攻撃を中断して空中に帰っていくハーピーを、光に眩む目でなんとか捉える。


「ああ、助かった」

 だがそんな不便など、命に比べれば安いものだ。幸い、光によるダメージは奴らの方が大きかったのか、俺の視野がなんとか普通に見えるようになるまで奴らも警戒して近寄っては来なかった。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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