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四精霊7

 火車が突っ込んでくる。溶岩の上を滑るように、炎を纏った車体が、一直線に俺たちをひき殺しに来る。

「……!」

 対するリンは素手でそれに向かい合い――そしておもむろに纏っているベストに手をかけた。

「来るぞ!!」

 叫び、飛び退く。

 だがリンは動かない。


「リン!」

 叫び、それをかき消すような轟音を立てて火車が彼女へ突っ込んだ。

「!!?」

 その瞬間、間一髪で彼女は避けた。跳び下がって安全に距離を取るのではない、ぎりぎりのところで危うく致命傷を避けるような動き。

 そのままバランスを崩してその場に倒れ伏す。

「ぐっ!」

「リン!!」

 咄嗟に彼女を掴んで火車から引き離した。彼女をひき殺しかけた火車はそのまま駆け抜け――ようとして急激に右旋回。そして横転。

「やった!」

 助け起こした腕の中、しっかりとそれを見届けた彼女が声を弾ませる。


 ひっくり返った火車の右側の車輪。先程リンが紙一重で躱したそれの車軸には、すれ違いざまに彼女が放った冷却用ベストがしっかりと巻き付いていた。

 いや、ただ巻き付いただけではない。それだけではただベストを持っていかれるだけだ。

「よくあんな真似を……」

 リンが放ったベストは、車軸にしっかりと巻き付いたまま、車体との隙間に入りこんで、ガタガタと音を立てる原因だったのだろう僅かな隙間を完全に埋めていた。


「何度か通り過ぎた時、あの車輪がどうなっているのか見えたからね。」

 そう言ってのけるのを聞きながら、頭の中に冷静な声が響く――だからと言ってあの一瞬で狙いすまして絡ませるなど不可能だ。

「とにかく、今がチャンスだよ」

「あ、ああ……そうだな」

 その言葉にはっと我に返る。ひっくり返った火車。今は天を仰いでいる窓から、そこを覆っていた御簾が外され、人間のものではないと一目でわかる、病的に青白く細長い腕が何本も空を切っていた。

「きっとあの中に本体がいるはず」

「分かった」

 その言葉を信じて横転した火車によじ登る。

 平安貴族が乗っていそうなこまごまとした装飾と、それを一切損なわずに覆っている炎。それらに触れないようにしてよじ登ると、生け花みたいに伸びているその青白い腕の根元に、聖剣を一思いに突き立てた。


「……ッ!!」

 ほとんど手応えはない。だが、全く何もなかったという訳でもない。

 見た目のわりにあまりにも軽く小さな感触。不気味に蠢いていた無数の腕がビクンと脈打ち、そしてそのまますうっと、青白い肌からその色が失われて、蒸発するように消えていく。

「やった……のか?」

 車体が纏っていた炎も今や消え、車体に施されていた結構な装飾も、見る影もなく消えていく。

 残ったのは、あまり見もみすぼらしい、うち捨てられたリヤカーの残骸。

 荷馬車とさえ呼べないようなその中途半端な代物の残骸の中に、何やら呪文のようなものが刻まれた木製の呪符が一つ。それが先程の軽く小さな感触の正体だというのは、その呪文の真ん中にしっかりと残った、まだ新しい傷跡でわかった。


 とにかく、これで一件落着だ。

 拭い去った汗は、ただの暑さのためだけではない。


「これでよし……っと。それにしても……」

 踵を返し、ついさっき中断した感想を再度口にする。

「よくあの一瞬で車軸と車体の間に挟むなんて思いついたな」

 そして、それを一度で成功させた。

 その神業と言うほかないそれに対しても、リンは少しだけ恥ずかしそうに視線を目的地である祠の方へと逸らした。

「私も、今までの私なら出来ると思っていなかったよ。ただ、多分これがウンディーネの加護を得たということなんだろうね」

 神殿を発つ時に加護を受けたのが、ここで幸いしていたようだ。


 俺も彼女に倣って目の前に迫った目的地に目をやる。ここより少し小さな島。その真ん中にポツンと佇む祠。

 着実にリンは、聖剣はパワーアップしている。

 ウンディーネの加護だけでここまでのことが出来るのなら、ここを含めた三精霊の加護を得られれば、ヴェトルに後れを取ることもないはずだ。


 そうときまれば、ここで時間を浪費するわけにはいかない。

「いよいよ火の精霊だね」

「ああ。行こう」

 ようやくたどり着いた最初の目的地。

 火の精霊を祀るその祠に向かって、俺たちは歩き出した。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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