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四精霊5

「やっぱ暑いな……」

 流石に対策を施したところで体感温度が変わるものでもない。

 だが、それでも確かに多少は楽になったような気はしてくる。勿論熱気は感じているのだが、それでもまだ体の内側には余裕が感じられる。


 トンネルを一番奥まで進み、そこから下り坂を降りていく。

 温風が熱風に変わるほど降りていくと、ただの風に硫黄の臭いと湿気が、それも体に纏わりつき、むせ返るような程の湿気が辺りに満ちてくる。

「これ……温泉か?」

「みたいだね」

 何度も折り返した坂を下りきった先、現れたのは地底湖と呼ぶべき代物だった。

 といっても、周囲に立ち込める凄まじい湯気に相応しく、盛んにボコボコと沸騰した水面に泡をつくっていて、実態としては温泉の方が近いだろう。

 もし眼鏡をしていれば一瞬で何も見えなくなりそうな程の濃密な湯気の切れ目に見えるのは、その沸騰する地底湖の対岸に続いている奥への道と、そことの間に横たわるこの巨大な温泉に網目のように走っている無数の細い道。どうやらこの道を進んでいくしかなさそうだ。


「この道を行くしかなさそうだね」

「そうだな……石貰ってきておいて正解だった」

 桃太郎よろしく腰に提げた袋から一つ、件の石を取り出して、卵を割るように地面に叩きつけると、当たった場所から炎が広がるように――しかし全く熱はなく――青い光が広がっていった。

「これを道しるべにして進もう」

 それを地面に置くと、地底湖の上に広がった迷路へと足を踏み入れる。少し進んでから振り返ると、湯気に包まれた中でもはっきりと石の放つ青い光はその存在を物語っていた。


「……また外れだ」

「……また?」

 それから少しして、俺たちは茹でられているかのような中で足を止めた。

「仕方ない。戻ろう。さっきの分岐を右だ」

「そっちはその前に行かなかった?」

「……ああ、そうだった。じゃあその前の分岐を反対に……」

 頭が回っていないのが自分でも分かる。暑さが集中力を確実に奪っている。

 加えて湯気で視界を遮られるとなれば、熱湯に落ちないように足元に注意して歩くのに精いっぱいだ。


「……まあ、おかげで道しるべは置けた」

 来た道を振り向く。湯気の中でもしっかりと主張する光。それが分岐ごとに輝いていて、もし湯気がなく視界がクリアならば星座の様に線でつなぐことが出来そうに思えた。

「二人とも聞こえるか?」

 と、水をかぶったような汗をぬぐっているところで司祭の声。視線をリンの提げている水晶へ。

「そちらの気温と湿度では間もなく活動時間の上限に達する。一度外気に触れて休め」

 せっかくここまで来たのだが――その言葉が喉まで出かかって、しかしまだ残っていた冷静な部分がそれを押しとどめた。

「了解。一度戻ります」

 道しるべは残してある。ここまで戻ってくる時間は、一回目より短く出来るはずだ。

 今度は熱風に背中を押されるようにして来た道を戻り、先程はすぐに冷たく手がかじかんだほどの外へ。

 先程までの寒さは、今では快適さに変わっている。


「はぁ~……」

「涼しい……」

 到着と同時にもれる声が、白い息となって鉛色の空に消える。

「そのまま少し休んでくれ。緑の飲料も忘れずに。ただ、暑いからといって雪を食べるのはやめた方がいい。雪を体内で消化するのは想像以上に体に負担となる。精々顔を拭くぐらいにしておいた方がいい」

 その指示通り、足元の雪をすくって首筋に刷り込むように押し付けると、その痛いほどの冷たさが全身の熱を急速に奪っていき、その熱と引き換えにするように心地よさが全身に広がっていく。

「はぁ~……」

 もう一度声が漏れる。

 と、冷たくてかたいものが頬に触れた。

「はいリヒト、しっかり水分摂って」

「うおっ!?ありがとう」

 ひんやりとした感覚に驚いて振り返り、リンが後ろから頬に当てていた瓶を受け取ると、いい具合に冷えた、心地いい苦みの液体を一気に呷る。


 意思をもって体に潜り込んでいくようなそれが指先まで染み渡るような気がして、一瓶を一気に飲み干した。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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