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四精霊1

「話は決まったな。それなら、善は急げだ」

 俺たちの決意を、大きく頷いてから司祭は告げ、それから件の石の床の方を示した。

「まずはこの神殿の水の精霊の加護を授ける。それから他の三つの下へ向かうといい」

 言うや、自ら先頭に立ってその一段高い石の舞台へと向かう。


 彼についてそこに上がると、その石に刻まれた複雑な文様は、中央に刻まれた水の精霊ウンディーネを中心に広がっていた。

 そのウンディーネの前にリンが膝をつく。これから何をするのか、彼女には分かっているようだった。


「さあ聖剣の精霊よ。ウンディーネに祈りを捧げよ」

 両膝をつき、両手を組み、頭を垂れると静かな声での祈りが、静まり返った舞台上に僅かに響く。

「……水の精霊よ。清き水よ。我ここに祈りを捧げん。偏に邪悪を払わんがため、ひと時その力この剣に貸し与えん」

 静かな詠唱。それを待っていたかのように、ウンディーネの彫刻が剣よりも明るい青で光を放つ。

「おお……」

 思わず声が漏れた。

 輝くウンディーネは、その彫刻から立ち昇る煙のようにリンの前に広がると、彼女を包み込むようにして広がり、そして――彼女と一体になるかのようにして消えた。


「よし……ウンディーネの加護はこれで聖剣の精霊に宿った。あと三つ、加護を得ることが出来れば――」

「邪竜を討てる……!」

 その加護を受けた本人が、立ち上がってそう言葉を繋ぐ。

 その目はまっすぐに俺を見て、その表情には先程までとは明らかに異なる力強さがあった。

「だが気を付けなされ。道を踏み外したとはいえ、ヴェトルも元はエルフの魔術師。四精霊の存在は知っておる。聖剣の捜索と祠の破壊、そしてフィンブルスファートの復活を最優先にしているため破壊こそしてはいないが、この状況を想定してそれぞれの領域に邪竜の力で生み出した魔物を放っておるはず。加護を得るにはそれらを打ち倒し、精霊たちを解放する必要がある。くれぐれも油断せぬようにな」

 どうやら一筋縄ではいかないようだが、ここまで来たならもう後戻りするつもりもない。


「なにからなにまで、ありがとうございます」

「必ずや、加護を得て邪竜を」

 俺たちがそれぞれ頭を下げると、司祭はその懐から取り出した小さな水晶を俺たちに差し出した。

 ピンポン玉のようなサイズのそれは、薄紫の紐が通されていて、ネックレスの様に首から下げることが出来るような形だ。

「この水晶を持っていれば、それぞれの迷宮の魔法陣を使っていつでもここに戻ってこられる。それに、何かあればこれに魔力を籠めれば目の前にいるように話すことも出来よう。何かあれば私を呼び出しなされ」

 受け取ったそれはリンの首に収まった。紐は長すぎず短すぎず、彼女の首元にころりと落ち着いて曇りなく澄んでいる。

「有難く使わせていただきます」

 有難く頂戴したそれを携え、俺たちがまず向かったのは左手の、火の精霊の下へと向かう魔法陣。

 別に大した理由はない。ただ単に一番近かっただけだ。


「火の世界か、その大部分は灼熱と聞く。楽な道のりではないだろうが、健闘を祈る」

「「行ってきます」」

 司祭の言葉に応え、同時にここに飛ばされた時と同じ光が体を包み込む。

「!」

 そしてそれに気づいた次の瞬間、俺の視界はその光によって満たされ、目がくらむように世界全てが白一色へと変わった。


「ん……」

 時間にすれば、恐らく数秒にも満たないだろう。光の影響が徐々になくなっていく目の前に広がるのは、あの神殿ではない。

「これは……」

 火の精霊の領域。

 司祭に聞いていた灼熱の世界――ではない。

「なんだ…ここ?」

「雪山……だね」

 聞いていたのとは全く別。鉛色の空の下にそびえる岩山と、その山肌を完全に覆い隠すような銀世界。

 灼熱とは全く真逆なこの世界は、見た目だけでなく実際の気温も身を切るように冷たい。


「一体何が……」

 今俺たちがいるのは、そうした岩山の片隅。辺りは切り立った高い岩に囲まれ、ただ正面に石造りの橋が一本。ここと相似形のような切り立った岩山の頂上に続いている。

 そしてその橋のたもと、俺たちの足元には、ここにやってきたあの神殿と同じ魔法陣。

「ここは……あ、そうだ」

 同じくその光景を――冷気に身を縮こまらせながら――眺めていたリンが、寒さで自然と握っていた真っ白な手に首から下げた小さな水晶玉を握りしめる。早速の出番だ。

「どうやら、無事に着いたようだな」

 水晶を通して聞こえて来る司祭の声。どうやら彼にもこちらの景色は見えているようだ。

「ですが、ここは雪山では?」

「それでいい。その橋を進んだ先に火の精霊の領域の入口がある。外とは真逆の世界だ」

 どうやらそういう事らしい。橋の向こうに目を凝らすと、うち捨てられたようなボロボロの石壁が岩と岩の間にそびえ、その中央にはぴたりと閉ざされた扉が一つ。おそらくあそこから先が本番という訳だ。


「そういう事なら……」

 石造りの橋に第一歩を踏み出す。凍結して滑りやすくなっているかとも思ったが、幸いなことにその心配はいらなそうだ。耳の端がちぎれそうになるような冷気の中を、俺たちはまっすぐ対岸に向かって進んでいく。

 やがて到着した、対岸の石壁の前。魔法陣の辺りより少しだけ広い、しかし同じく雪以外に何もない世界。

 例外は正面の石壁と、そこに設けられた観音開きの扉。

 そしてその扉に触れた時に伝わってくる、奇妙な温かさだけだった。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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