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廃都11☆

 それでは今回も、再発防止のための原因分析をやっていきましょう。


 今回の死因:回転体の巻き込まれによる腕の負傷のショック及び大量出血による失血死。

 では、今回もその原因を人的、物的、管理的要因の三つの視点から見ていきましょう。


 まずは人的要因。これにはまず機器を停止せずに回転体に手を近づけてしまったことが挙げられます。回転している機器に手を出せば巻き込まれるかもしれない――誰でも頭の片隅には思い浮かぶ危険だとは思いますが、今回の理人さんの場合も、一度はその可能性に言及しながらも、その可能性を頭から排除してしまっていました。


 これまで何度も取り上げてきたように、これは「まさか起こらないだろう」という、リスクの過小評価です。

「この機械はゆっくり動いているから大丈夫」というリスクの過小評価は、挟まっている金属片は簡単に取れるはずだ、という作業自体への根拠のない思い込みと併せて今回の災害を引き起こすトリガーになったと言えます。

 実際の現場では何が起きるか分かりません。今回のケースの様に高速回転している訳ではない機械であっても、一度巻き込まれてしまえば人力で脱出するのは不可能なケースは非常に多く、動いている機器に不用意に手を出すことは絶対にしてはいけません。


 次に、衣服や保護具の着装が乱れていたという点も挙げられるでしょう。今回理人さんが機器に巻き込まれた直接の原因は、ちぎれかけていた袖が腕から垂れ下がり、それがプーリーに巻き込まれたことにあります。

 これは物的要因にも関わってくる部分ですが、いくら保護具や衣服を着用していても、その着装が乱れていたり適切でなかったりした場合は危険を遠ざけることは出来ません。それどころか、今回の様に却って災害を誘発することにも繋がります。

 このため、作業に入る前には必ず作業員同士でお互いの衣服や保護具の着装を対面確認し、問題がない状態で作業に臨む必要があります。


 そして三つ目、作業前に機器の停止をするよう取り決めていなかったという点です。

 前述のように、今回理人さんは回転体の危険について認識していました。ところが制御盤の前にいるリンさんとは距離があり、コミュニケーションに手間取ることが予想されたため、機器の停止を省略しています。これでは、どれほど危険予知活動をしても意味がありません。

 それどころか、リンさんは理人さんが今何をしているのかすら把握できないため、次に何をしたらいいのか、何をしてはいけないのかが分からないという状況が発生します。こうした「次にどうすればいいのか分からない」という状況の作業員が現場にいること自体がリスクとなることを忘れない様にしましょう。


 また、これはリンさんにも言えることですが、作業前にどういう手順で進めるのかの取り決めがなく、お互いに報告や指示が十分ではなかったという点も問題です。

 今回のケースでいえば「機器の出力が上がらず、何かが噛み込んでいるかもしれない」と分かった時点で回転体付近での作業を行うことは十分に予想できるものでした。実際、何かが機械に挟まっているというリンさんの意見に対し、理人さんは現場でチェックすることを伝えています。この時点で一度手を止め、どういった作業をするべきかを話し合う必要がありました。


 こうした状況に対し、ツールボックスミーティングという考え方があります。

 ツールボックス=道具箱という言葉が示す通り、作業に入る前に、道具箱の前で作業員たちが集まって情報の共有、危険の洗い出しを行う短時間の話し合いの事で、現場の状況と作業内容の共有、作業手順の確認、危険の洗い出しと対策の決定を行うことで安全かつ円滑に作業を進めるというのが、このツールボックスミーティングの役割になります。

 恐らくリンさんも理人さんも、一度手を止めて冷静になれば「動いている機器に手を出したら巻き込まれるかもしれない」という点にはすぐに気づいたでしょうし、その対策も出せたはずです。


 では次に物的要因について考えてみましょう。

 これにはまず、回転していた機器のカバーにつけられたのぞき窓に接触防止の措置がなされていなかったことが挙げられます。


 カバーに開閉式ののぞき窓を取り付けたということは、即ちそこを開くことがあるという事を意味し、即ちカバーで遮られていたはずの回転体が部分的にとはいえ露出する、そして今回の様に直接手で触れる状態に置かれることを意味しています。

 このため、例えば手や物が入らない様に防護ネットを張ったり、のぞき窓そのものを透明な素材で作成し、開閉せずに中を確認できるようにしておく必要があります。「危険行動をしようとしても物理的に出来ない」という環境を作っていくことが重要です。


 次に、制御盤と機器の位置が離れすぎているというのも問題と言えます。

 今回の回転機器のように巻き込まれた場合に重大な災害が発生し得る機器であれば、その操作者が常に状態を把握しておく必要があり、そのためには制御盤から機器の全景を容易に視認できる必要がありました。制御盤と機器との間に距離があり、遮蔽物によって視認できないという配置は非常に危険と言わざるを得ません。


 次に管理的要因についてですが、これは作業に当たる際のルールが決まっていなかったという点があります。

 人的要因の部分でも触れましたが、現場でトラブルが発生した際=今回のケースでいえばプーリーに異物が挟まり機器の動作に支障をきたしている場合ですが、そうした場合にどうやって対処するのかが決められておらず、その手順も明示されていませんでした。


「今何が起きているのか」「それに対処する必要があるか、またどう対処するべきか」「対処するにあたって必要な道具や作業は何か」「その際に気を付けるべきことはなにか」こうした一切が存在せず、現場の作業員の判断に任せきりでは今回の様に作業員の判断ミスが重なった場合に誰も止める者がいなくなってしまいます。

 手順を明示し、作業員はまずそれを確認する――それを徹底することが、今回のような突発的な作業においても危険を回避するための基本となります。


 それでは、こうした点を考慮して、今回もより安全な方法、安全な環境で彼らにやり直させましょう。それでは、ご安全に!


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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