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廃都10!

「あの塔の上が……」

 噛みしめながら、その頂上に目をやる。

 ここが山の中腹、そこにぽっかりとあいたクレーターのような場所にできた都市であると思い出させる切り立った崖が、下から見上げれば空に届くのではないかと思うほどに高く伸びているこの塔の頂上とほぼ同じ高さだ。

 そしてその同じ高さの塔の頂上から伸びている一本の連絡橋が、切り立った崖の向こうへと繋がっている。


「あの橋の先にある森……その先にエルフの里がある」

 同じものを見上げながらリンが応じる。

 そしてそれから、彼女の目は水平に戻って進行方向にある塔の入口をじっと見た。

「中に何が待っているか分からない。警戒して行こう」

 その言葉に、俺は鞘に戻しかけた聖剣をそのまま肩に担ぐ。その見た目は通常の剣と同様だが、肩にふれる感覚はほとんど羽毛のような軽さだ。

「ああ、分かっている」

 最悪、扉を開けた瞬間何かが飛び出してくる可能性すらある。そのことを念頭に、観音開きの両脇に俺たちはそれぞれ控えた。

 ぴたりと閉ざされた扉。町の入口にあったそれよりも軽い、手で押して開くタイプの扉ではありそうだが、それでも隙間なく閉まっているそれの向こうが何か分からない以上不用意に開ける訳にもいかない。


「ちょっと待っていて」

 その閉ざされた扉にリンが手を当てる。

 しばしの沈黙。ただ彼女の手だけが、聴診器を当てる医者のように静かに扉の表面を移動する。

「……中にモンスターの反応はない。魔力のトラップが張られている様子もない」

 そう結論付けると、彼女はその扉の、複雑な紋章の刻まれたノブに手を伸ばした。

「多分、入っても大丈夫」

 もう片方を俺が掴み、そして同時に奥へと押し込んだ。


「んっ……!!」

 見立て通り、手で押して開くタイプの扉ではある。だがそれは、現代のそれのように簡単に開く代物であるということまでは意味していない。

 ゴロゴロと重苦しい音を立て、そしてその音に相応しい、押し返してくるような重量の扉に体重を預けるようにして押し開けていく。

 幸い、人一人の重量を受け止められるほどには重くなかったようで、ゆっくりとではあるが道を開いていく扉の向こうからはかび臭いような臭いがふわっと漂ってきた。

 リンの見立て通り中には敵もトラップもない。ならこの程度の臭いは許容範囲だろう。


「さて……」

 暗がりに目が慣れていくのに合わせて辺りを見回す。

 外と地続きのような石畳が敷かれた塔の一階。正直、塔というものがどういうものか知らないので、目の前の光景がポピュラーなものなのかは分からないが、所々に彫刻や装飾がなされている外見に対して中は随分と殺風景なものだ。

 がらんとした室内。その中央に鎮座する、一本まっすぐ上に伸びている四角柱型の構造物。

 建築には詳しくないが、柱にしては周囲との繋がりが細い梁のようなものだけと頼りない。

 更にその周辺を背の高い金網に覆われていて、容易には近づけなくなっている――正面の一か所だけを除いて。


「これって……」

 言葉にはならなかったが、その構造、そしてその向こうに見えた中身=上に伸びている空洞を見て、直感的にそれが何かを悟る。

「恐らく昇降機だろうね」

 同じ答えに達したリンが、その金網の外側、この一階の右端の方へと目をむけた。

 町の外の門で見かけたのと同じ魔石パイプ。今度は必要な場所は全て埋められており、そこから伸びた太いケーブルがその横の機械群に繋がっている。

 そしてその機械群からは大小のパイプが、これまた金網の向こうに続いていた。

「あそこで動力を供給して、操作はあっちだ」

 リンの指が左へスライド。俺の目線もそれに合わせる。

 金網の切れ目=正面にあるエレベーターの乗り口の左側に設置された、自動販売機ぐらいの大きさの操作盤。魔石パイプから供給される魔力を電力代わりにして、この巨大なエレベーターを動かす仕組みなのは明らかだった――そして、その機能が今は失われているということも、また。


「魔力がここまで届いていないようだね」

 その制御盤を一通り調べて――俺には何のことやら分からないその箱の中身まで見てから――下された判断。

「ってことは、あれか」

「ああ。あっちを見てみよう」

 魔力が来ていない。なら疑うべきはその上流のどこか。とはいえ、金網の中に入っているパイプの中身を一々調べることは出来ない。加えて機械群も、全てばらすとなれば大仕事だ。

 必然、チェックは魔石パイプからになる。

 そして非常にラッキーなことに、今回はそれが正解だった。

「そっちのプラグを繋いで」

「了解だ」

 魔石パイプをセットした台から伸びているプラグ。その先端が機械群に通じるそれと外されている。驚くべきことに魔石パイプ自体には劣化が見られないのだからシュクシュの魔法技術とは凄いものだ。


「よっ……と」

 言われた通り、二本のプラグを繋ぐ。制御盤に確認に戻ったリンが金網の陰に入って姿を消し、それから手だけをこちらに出してひらひらと振った。

「よし、制御盤が復活した!動かすよ!」

「了解だ!頼んだ!」

 叫び返し、それから低く唸るような音を目の前の機械群があげはじめ――そして、急に何かを噛み込んだ時のような耳障りな音が混じる。


「駄目だ。出力が上がらない!さっきの音からして、多分機械に何か挟まっている!」

「分かった。チェックしてみる」

 答えてから改めて機械群に向かう。

「リヒト、警報が出た!やっぱり噛み込んだみたいだ!一番左端のベルトカバーの中を確認してくれ」

「了解だ」

 目当ての機械はすぐに分かった。リンの言葉通り、機械群の左端にぽつんと一基、前後に細長い箱が置かれていて、耳障りな音はそこから聞こえて来る。


「ここか」

 その箱の天板部分。おそらくこういう事態は以前からあったのだろう、小さなのぞき窓のハッチを開くと、一定のペースで回転する三本のベルトと、それによって動力をどこかに伝えているのだろうプーリーが一基。そしてそれとは別の組み合わせなのだろう、別のプーリーとベルトとが、指一本分ぐらいのすき間すらない状態で動いている。どうやら問題があるのはその二つのプーリーの間のようだ。

 それぞれ回転している二基のプーリー、その僅かな隙間に金属片のようなものが一つ引っかかって、ガタンガタンと規則的に音を立てていた。


「これか……」

 一瞬考え、それからリンの方を見る。正確にはリンが隠れている金網を。

 機械の音はかなり騒がしい。ここから呼びかけても、離れている制御盤まで届くかどうかわからない。彼女の場所=制御盤の前からはこちらの姿が見えないため、状況を見て判断するというのも難しいだろう。

「……」

 もう一度目を金属片に落とす。別に深く突き刺さっている訳でもないし、二基の回転はどちらもそれほど速くない。

「別に止めるほどのものでもないか」

 危険――頭に一瞬よぎったその言葉は、しかしすぐに消え去った。高速回転する機器ならともかく、ゆっくりガタガタとゆっくり動いているだけのこれに巻き込まれるようなことはあるまい。


 そのまま、のぞき窓から右手を突っ込む。のぞき窓の真下という訳ではないが、少し腕を入れれば十分届く位置だ。

「よし……っと」

 指先が金属片に触れる。思った通り、少し強く引っ張るだけで取れそうだ。

 これを抜き取れば終わり――そう思って腕を引こうとした瞬間、その何倍もの力で、肘まで奥に引き込まれた。

「!!?」

 反射的に目をのぞき窓の中へ。先程の戦闘でちぎれかけて腕にぶら下がっていた袖口がプーリーに巻き込まれているのが目に飛び込んでくる。


「ぎっ――」

 その袖口ごと、指一本も入らない隙間に向かって俺の腕が吸い込まれたという事、そしてプーリーは見た目から想像する以上のトルクでもって、俺の腕などなんの障害にもならずに回り続けるという事。

 この二つの発見は、腕に続いて体がカバーに押し付けられ、そのカバーの向こうからの気絶するほどの激痛と、何とも形容しがたい音を聞いた瞬間、意識と共に消し飛んだ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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