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廃都8

「くっ!」

 一直線に飛んでくる火球。

 横に飛びのいて躱すと、聖剣の加護が俺の体を押す。


「うおおおっ!!」

 二発目の火球が奴の杖に灯り、それに一直線に向かうように俺は階段を駆け上がる。

 望みどおりに――という訳でもないのだろうが、直後に正面から放たれた火球が、俺の顔面目掛けて飛び込んでくる。

「ッ!」

 瞬間、体を包み込む聖剣の加護が、俺の体を四足歩行並の前傾姿勢を取らせる。火球が後頭部のすぐ上を掠めていくのを、首から背中にかけて=火球の軌道に沿って感じる熱で理解した。

「おおおあっ!!!」

 そしてその姿勢から、跳ね上がるようにして階段を飛び越える。

 普段の俺からは考えられないその跳躍力を生み出した剣は、その刃を包み込む青い光を一層まぶしい輝きに変えている。

 最後の数段を飛び越え、突然のその行動にこちらの捕捉が遅れたソーサラーの頭上めがけて落下。


「ッ!!」

 奴の杖の先端。三度灯る火球。

 しかしそれが打ち出されるよりも、青白い光が奴を真っ二つにする方が速い。

「どうだ!」

 着地と同時に手応えが伝わり、顔を上げた瞬間には二つに分かれたソーサラーの姿がレブナント同様塵の様に霧散していくところだった。


「消えた……やったのか?」

「ソーサラーは元々古い魔術師が肉体の死を恐れるあまり悪魔に魂を売り渡し、理性も記憶も失いながらその邪悪な魔力で永らえ続けた存在だ。魔力で辛うじて維持していた肉体が破壊されれば、最早この世に留まることなど出来ないさ」

 追いついたリンがその散っていったソーサラーのいた辺りを見つめてそう教えてくれた。

 それから、改めて進行方向に目を向ける。それまで遠くに見えていたはずの塔は、今やすぐ前方にそびえ立っていた。


「さ、もうすぐだ。きっとあそこにスプリガンもいるはず」

「ああ。行こう」

 先程までより細い道。襲撃された場合、更に逃げ場はない。

 しかし、流石にここまで距離が詰まればスプリガンも周到な用意はできないのだろう、トラップも伏兵もいない、ただの寂しい道が高くそびえる塔と、その周囲の広大な広場に向かって伸びている。

 かつては町のちょっとしたイベントスペースや集会場のような役割も担っていたのだろう。もしかしたら市場が開かれるようなこともあったのかもしれないその場所はしかし、今では所々剥がれた石畳から背の高い雑草が伸び始め、それより大きな木が疎らながらに伸びている、当然ながら人っ子一人いない寂しい空間だけが広がっている。


「見つけたぞ!!」

 そしてその広場の真ん中あたり、この広場の入口から塔の入口とを結ぶ、続くそこだけ色の違う石畳の上に奴はいた。

 その小さな体でよくここまで逃げおおせたものだが、とにかくこれで終わりだ。

「これで奴を……」

「ッ!!気を付けて!」

 俺たちを交互に見つめるスプリガン。散々危害を加えてくれたその顔に剣を突きつけると、リンがはっとしたように叫ぶのはほぼ同時だった。

「どうした?」

「強い魔力を感じる!今までよりもずっと大きな――」

 不吉な言葉。それにかぶさるように妙に響いた杖と石畳の音。

「ッ!」

 スプリガンを包むようにレブナントのような影が現れ、その影が中身を覆いつくし――そのまま、見ていて分かるぐらいの勢いで巨大化していく。


「なっ……」

 人間の子供より小さかったスプリガン。

 だが、黒い影に包まれたその一秒後には大人と変わらない身長となり、それに対する驚きで喉から音が漏れた時には、既に2mを優に超えている。

 唖然とする俺たち。

 やがてそこまで巨大化した黒い影の中から、電飾が光るように赤い発行体が二つ。生物の目を思わせる形で浮かび上がる。

 そしてそれと同時にただの巨影が質量を持った巨人に変わる。


 全身漆黒の巨人。その表面に所々浮かび上がる、二つの目のような光と同じ赤い発光体。

 ゴーレムすらも凌ぐ巨体は、それが生物であることを物語るように剣のような牙をむいて、それまで見下ろしていた俺たちを遥か高みから見下ろしていた。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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