廃都7
「来るっ!!」
叫び、同時に跳び下がる。その直前まで俺たちがいた場所に振り下ろされる鋭いレブナントの両腕が空を切り、それを見てから即座にリンが詠唱。
「ッ!!」
放たれた光によって動きを止めたレブナント達に間髪入れずに斬りかかり、二体とも塵となって消えていくのを確認してから、そのまま来た道を戻る。
こっちは行き止まりで、かつスプリガンが誘い込むために用意した場所だ。のんびりしていてはいくらでも増援が来るだろう。
「っと、やっぱりな」
「流石に逃がす気はなさそうだね」
道を塞ぐように周囲の建物や壁から次々と現れるレブナント達。
中にはあえて俺たちが通り過ぎるのを待って背後から現れる知恵のある者もいて、道の真ん中で包囲されてしまった。
「光よ、邪なる影を払い真実の姿を示せ!!ディバイングリント!!」
だが、これで条件は対等。
それどころか光に目のくらんでいる――全身影みたいなものなのでどこが目なのかは分からないが――レブナント達は動きを止めてしまうため、みすみす隙を晒しに出てきたようなものだ。
「どけぇっ!」
叫びながら斬りかかり、確実に数を減らしていく。
ディバイングリントをまともに浴びた者もいたらしく、後ろにいた連中は振り向いた時には一体だけになっている。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
加えて、更に進行方向からやってくる個体にはリンがここまで来る前に数を減らしている。
流石にディバイングリントを浴びていない者にはすり抜けてしまうが、効果のあった者たちを減らせるだけで十分だ。
「崩れたぞ!」
レブナント達の包囲を突破して分岐まで戻る。
残されているのはもう片方の道だけ。
――そしてそちらこそが正解と言わんばかりに、そちらを塞ぐ西洋甲冑が一つ。
大柄な人間と同じようなサイズのそれは、金属製の全身鎧に加えて、その堂々たる体躯の半分ほどを隠せそうな大きさの盾と、もう片方の手には剣を持っている。
勿論、置かれている訳ではない。その兜の、本来ならバイザーがある部分は青白く発光し、ガチャガチャと音を立てながらこちらに向かって距離を詰めてきている。
「リビングアーマー!」
頭の中の知識と目の前の姿が合致する。
古い城や古戦場などで見かけるモンスターらしいが、たしかにこの町もその条件は満たしているだろう。
「ッ!!」
その名を呼ばれたことへの返事のように、奴が唐突に突進する。
大きな盾を構えたまま走り寄り、腰まで切り下すような一撃。跳び下がって躱した直後には盾で殴るような追撃。
「ぐっ!」
危うく聖剣で受け止めるが、受け止めることに関しては当然ながら盾の方が得意だ。
一瞬の拮抗は、即座に崩される――押し返した俺の動きを受け流すように盾が動いたことで。
「うわっ!」
上体が崩れ、リビングアーマーに無防備に背中を晒す。当然ながら奴は片手の盾で俺をいなす間、もう片方の手にある剣は振り上げられている。
「ッ!」
やられる――咄嗟に体が縮こまる。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
そのことに気づいて、敵前で動きを止めることの危険を悟って動き始めるよりも前、リンの詠唱が響き渡った。
――そして、いつまでも剣は振り下ろされない。
「無事!?」
顔を上げた先、俺に集中していたリビングアーマーの後ろから伸びたリンの手が、からかうように奴の開いているバイザーの辺りを覆っていた。
当然遊んでいる訳ではないというのは、今の詠唱と糸が切れた操り人形のように動かなくなったリビングアーマーの姿が物語っている。
「ああ、助かった」
ガシャン、と一際大きな音を立てて崩れ落ちたリビングアーマー。最早リビングではないそれを踏み越えた先は、先程までいた行き止まりと同じような道。
「待って」
そして再びリンが地面に触れ、放った光の波が瘴気のトラップを見つけ出して破壊する。全く、徹底的に手の込んだことだ。
「これで大丈夫」
「助かるよ」
幸い、こちらの道も一本道だった。右手に塔を見ながら突き進む道。
そのゴールが再び道を塞ぐバリケードだったのを見た時には足を止めそうになったが、それからすぐに右手に向かう小道が伸びていると知ってそちらに曲がる。
「ッ!!?」
そして今度こそ、俺もリンも同時に足を止めた。
「あれはっ!?」
角を曲がった先。登り階段になったそこの一番上。
こちらを見下ろしているのは、スプリガンでもその配下のモンスターでもなく、巨大な鉄球。
人間より遥かに大きい、この階段全体にわたるような直径のそれが、ぐらりと揺れてから階段を転がり落ちてくる。
「クソッ!逃げろ!!」
凄まじい音を立てて転がり落ちてくる鉄球。
距離感を失わせるというか、まるで短距離でワープしているかのようなスピードで転がり落ちてくるそれから慌てて離れる。
踵を返し、来た道――そう言えるほどの距離ではないが――を戻って左に飛びこむ。
直後すぐ後ろを掠めていく鉄球。
地響きのような音を立てて通過したそれが、向かい側の建物にぶつかり――音もなく消えた。
「幻……?」
「……流石にあれが幻術かどうかは判断している時間もないね」
何はともあれ、回避は出来た。
だが、どうやらその反応で十分だったらしい。再び角を曲がった俺たちが見上げる先には、憎らしい笑みを浮かべてこちらを見下ろしているスプリガンの姿。
「あっ、待て!」
奴が奥に進むのを見て俺たちも階段を駆け上がる。
「ッ!」
そんな俺たちの前に立ちはだかるのは、スプリガンの代わりに現れた別の人影。
ボロボロのローブを纏った、スプリガンよりも人間の大きさに近い謎の人物。
リビングアーマーと同様に目のあたり以外露出しないその特徴的な見た目と、その服としての用をなしていなさそうなほどにボロボロのローブ姿とが、人間ではないことを物語っている。
「ソーサラー……」
その姿にリンの声。
そしてそれに答えるように、その邪悪な魔術師はスプリガンのそれと同じような杖を振りかざすと、その先端に生じた火球をこちらへと打ち下ろした。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません。
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