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廃都4

「スプリガン……?」

 思わず聞き返す。

 そういえばその名前自体は日本にいた頃にもゲームや漫画で聞いたことがあったが、実際にそれがどういうものなのかは知らなかった。

 モンスターが存在するこの世界においても、その姿を見たことも、そういう話を聞いたことも無い。


「まあ、知らないのも無理はない」

 どうやらその認識は、俺がただものを知らないという訳ではなさそうだった。

「古い時代に現れた妖精の一種だ。目撃例も少なく、現在はほとんどその伝承すら失伝してしまっている」

「妖精?」

 再度のオウム返しに、リンは小さく頷いた。

「その姿は小柄で、性格は極めて凶暴。普段は廃墟や遺跡などに住み着いていて近づくものに害をなすとされている」

 成程、先程追いかけるのも放置するのも危険と言ったのはそういう理由か。

 だが、それで説明は終わりではなかった。その危険なスプリガンが去っていった小道の方に目を向けながら、リンは更に続ける。


「そしてここからが重要な点。スプリガンは遺跡や廃墟において重要なものを守っているとされている。それは隠された財宝だったり……或いは、秘密の通路や部屋だったり。そして、大神殿で聞いた話を思い出したんだけど、このシュクシュの町では代々領主がエルフの里に続く道を守っていた。つまり……隠された通路という訳だ」

「!?」

 言わんとしていることは分かる。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

「なら、追いかけるか」

「ああ。勿論警戒は怠らないで」

 奴が何を隠しているにせよ、それが俺たちの目指すものである可能性がある以上、奴を追ってみる価値はありそうだ。


 改めて、奴の消えた小道へと足を向ける。

「腕は大丈夫か?」

「ああ。もう大丈夫。ありがとう」

 白い外套は噛みつかれた際の血で片側だけ赤く染まっているが、その下の腕自体は既に元に戻っている。冒険者用の薬とは本当にすごい即効性だ。

「それにしても……、ゴーレムにヘルハウンドまで投入してくるとは……」

 記憶を遡るようにそう呟きながら、彼女は気持ちを切り替えるようにパンと自分の頬を叩いた。

「恐らく、ゴーレムはあのスプリガンが蘇らせたものだろう」

「ここを守らせるためにか?」

 こくんと頷きが一つ。

「廃墟と言っても町一つとなるとかなり広いからね。それらを全て奴一人で守るのは無理だ。となれば、あるものは有効活用しようという事だろう。市壁の外にいた連中まで動き出さなくて本当によかった」

 それについては同感だった。あいつらが一斉に動いて襲い掛かってきたとなれば、流石に突破は不可能だろう。


 と、そこで話と足を同時に止める――目の前に現れた壁を見上げて。

「壁?」

「行き止まりのようだね……ふむ」

 辺りを見回すが、他に道はありそうにない。左右のどちらも石造りの背の高い建物がそびえたっていて、扉も窓もないこちら側の壁からでは中に入ることも出来なさそうだ。無論、壁に穴の類もない。

 そしてないといえば正面の壁にも、隙間もなければよじ登れるようなとっかかりもない。

 つまり、完全な袋小路だ。そしてそれにも関わらず、確かにこちらに逃げ込んだはずのスプリガンの姿もない。

 ――と、その正面に現れた壁に、リンの手がすっと添えられた。


「リン?」

 何かを探るような、目の見えない人が目の前のものが何か確かめるような、そんな様子で手が動く。

 やがてそれで満足できる答えが得られたのだろう、壁から離れた手で今まで触れていたそれを指さして俺の方を見た。

「この壁、偽物だ」

「偽物?」

 三度目のオウム返し。

「恐らくスプリガンの生み出した幻術の類だろう。フォシークリンで斬ってみてくれ」

 言われるがままに腰のものを抜く。淡い光を放つその刃を、半信半疑ながら振りかぶって目の前の壁に向かって振り下ろす――剣が石にぶつかって跳ね返ってくることを警戒しながら。


「!!?」

 結局、その心配は杞憂に終わった。

 目の前にそびえ立つ石の高い壁。それが、その見た目とは裏腹に一切なんの抵抗もなく刃を受け入れた。

 いや、抵抗だけではない。まるで空を切ったようになんの手応えもなく剣はすり抜け、そしてこれまた石ではないようにその表面に波紋が広がっていき――そして、壁自体が消え去った。

「思った通りだ」

 リンが心なしか得意げにそう呟き、それから壁の向こうに続いていた道と、その先=幅が倍以上に広がった大きな通り、そしてそこでこちらを見ていたスプリガンを見据えた。

「大人しくしてもらおうか。私たちにはお前の幻術は効かない」

 そう宣言するリン。再び牙をむくスプリガン。

 そして呪詛のように何かを口走り、再び奴の杖がボロボロの石畳を叩く。

「「ッ!」」

 その杖を中心に地面に亀裂の様に走る赤い光。そしてその光が結節した点から次々と現れる、その光が質量を持ったようなシルエット=手に武器を持った無数の兵士たち。


「舐めるな!」

 そのシルエットの兵士たちに叫び、リンは自らの手を地面につける。

 次々に現れる兵士たち。そしてそれを飲み込むようにリンの手から放たれた白い光の波。

 幻術は効かない――先ほどの宣言を証明するように、放たれた光の波は次々に兵士たちを飲み込むと、それら全てを打ち消していった。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日はここまで

続きは明日に

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