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異世界安全衛生マニュアル  作者: 九木圭人
山腹の洞窟を抜けて
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山腹の洞窟を抜けて6!

 坂道を下り、平坦になった道を更に進む。

 先程までの戦闘とは対照的に静まり返った世界の中に、硬い岩がちの地面を進む俺たちの足音だけが聞こえて来る。

 周囲は荒れた海が石化したように切り立った岩が並び、その険しい地形を縫うようにして細い道が奥へと続いている。


 と、その険しい岩盤が唐突に離れていって目の前が開けたのは、目指していたゲートの目の前に来たところでだった。

「着いたね」

「ああ……」

 ゲートの周囲も荒涼とした岩肌が広がっているが、それでもそれまで圧迫感すら覚えていた周囲の岩壁は大きく広がって、ゲートの前にちょっとした広場を作り上げている。

 そしてその広場の奥に鎮座するゲート。ここ以外に通れる場所はなさそうだが、かといって正面のここを抜けるのも難しそうだということは、巨大な鉄の壁と見まがうそのぴったりと閉じられた門が物語っている。


 水門をそのまま陸に転用したような、巨大なゲート。

 通行時には上に持ち上がるのだろうそれは、当然ながら人力で持ち上げられるようなものには思えない。

「さて、どうするか……」

 辺りを見回す。

 当然、かつてのシュクシュの住民たちだってこれを手で開け閉めしてくぐっていた訳ではあるまい。

 という事は、何か手があるはずだ。

 そう考えて首を巡らせると、目に付いたのはゲートの、ちょっとした塔のような巨大な支柱と、その横に並ぶ、その柱を横倒しにしたような筒状の物体。

「あれは……」

 見たことも聞いたこともないその円筒は、こちら側に向いている部分にのぞき窓のようなものがつけられていて、その中から淡い光が漏れている。


「どうやら、シュクシュはかなり高度な魔法都市だったようだね」

 その見慣れぬ物体も、リンには心当たりがあるらしい。

「魔法都市?」

「あれは魔石パイプといって、巨大な魔力を蓄えておくことが出来る。だが最大の特徴は、ああして並べて繋げることで、その魔力を任意の方向に流すことが出来るという点だろう。魔石の精製に加えて、あの筒状の魔力タンクの製造には高い技術が必要だ。加えて、町が滅んだ今でも機能するような高品質な魔石パイプとなれば、並大抵の魔術師にはどうやって造られているのかさえ分からないようなレベルの代物だろう」

 とのことだ。要は乾電池みたいなものだろうか。並べて繋げることで魔力を任意の方向に出力できるそれが、ゲートの横に並べられているという事は――。

「じゃああれで、ゲートを動かせるのか……?」

「あれだけじゃ足りないみたいだね」

 そう言ってリンが指さしたのは、その魔力パイプとはゲートを挟んで反対側。

 同じような魔石パイプを並べる長大な台が設置されているが、そこに差し込むべき肝心の魔石パイプは一つ足りない。


「あっちも完成させなきゃいけないらしい。おそらく両方揃えることであれが動くようになるのだろう」

 そう言って、今度はゲートの支柱に視線を移すリン。

 魔石パイプが揃っていない側の支柱に取り付けられた、船の操舵輪のような大きさのハンドルが一つ。おそらくあれを回せば扉が開く仕組みなのだろう――ダメもとでそのハンドルを回そうとするが、全くびくともしない辺りやはり魔石パイプを繋げなければいけないらしい。


「で、問題はその魔石パイプなんだが……」

 一体どこにあるのやら――そう言いかけて言葉を切る。随分都合のいいことに、外れている方の魔石パイプの更に奥、岩壁に近い位置に一個、立てた状態で放置されている。

「あれだな」

「あれだね」

 早速そちらへ。ゲートの開閉に用いるもの故にゲートの近くにあるとは思ったが、思っていたより余程近くて助かった。

 ――そう思っていたのは、その落ちていた魔力パイプへの20m程度の間だけだった。


「これをあそこにはめ込めばいいのか」

「気を付けて。かなり重量があるはず」

 直径40㎝程度、高さ1m程度の円筒形の物体。何かは分からないが金属製のそれに両腕を回すとすぐに気づく。

「ぐっ……!くっ」

 ひとりで持ち上げるのは無理がある。

「なんだこれ……」

「本来はシュクシュの住民も自力では上げなかっただろうしね」

 そう言ってリンが指さしたのは、2mぐらいありそうな土くれ。長い時間そこにあるのだろう、細かい部分は削れたり崩れたりしているのだろうが、元々は人型をしていたのだろうということは何となく分かる。

「ゴーレムの残骸だ。この魔石パイプを運ぶのだって、使役していたゴーレムにやらせていたのだろう。でなかったらこんな巨大な魔石パイプなんて作らない」

 とはいえ、そのゴーレムは、今では言われなければ分からないような不格好なオブジェになってしまっている。


「ま、それが出来ない以上私たちでやるしかないね」

 リンもその辺は覚悟の上だ。そう言って肩をすくめると、魔石パイプを挟んで反対側に立ち腰を落とす。

「二人で持ち上げよう。多分横倒しにした方が運びやすい」

「了解だ」

 すこしだけ動かしてみると、底の方が僅かに浮かんだのが分かる。どうやら二人がかりなら何とかなりそうだ。

「「せーのっ」」

 その浮かび上がった勢いを利用するように横に寝かせていく。45度程度まで寝かせたところで手の位置を少しずつずらして底部へ移動。

 それまで持っていた上側をリンが支え、半分以上地面から離れた底部を俺が持ち上げる。


「……よしっ、上がった!」

「そのまま行こう!」

 二人で声を掛け合い、足並みを揃えて並んでいる他の魔石パイプの列へ。

 三本入る台の真ん中が抜けているのが、その抜けている部分を運んでいる今なら分かる。

「……よし、ここだ!」

 その抜けの部分の前まで持ってきたら最後の仕事だ。

「「せーのっ!」」

 もう一度掛け声。おそらく台に乗せる用だろう、こちら側に張り出した部分まで魔石パイプを持ち上げる。この台の端の部分に乗せれば、あとは円筒形であることを利用して転がしていけば上手く隙間にはまるはずだ。


「くうぅっ……!」

「あと少し……あと少しだ……!」

 リンの苦しそうにいきむのが、円筒の向こうから聞こえ、同じように声を上げそうになるのを何とか激励に変えて最後の力を振り絞る――半分ぐらい自分に言い聞かせながら。

「よい……しょっ!!」

 その甲斐あってか、ようやく魔石パイプが台と同じ高さまで上がった。勿論即座に台の上へ。

「これでよし……」

 乗っかったそれを奥へと転がす。その重さに相応しい、ゆっくりとした回転。

「ふぅ……」

 リンが両腕をぶるぶると振りながらゲートの方に目を向ける。

 彼女も恐らく腕の感覚がなくなっているのだろう――俺と同様に。


 ともあれ、これでゲートを開けられる――と、そこで己の足元に目が行く。

「っと、靴紐」

 こちらに転生した時から履き続けているスニーカーの紐。ここまでの山登りや戦闘といった激しい動きが緩ませたらしい。

 即座に屈みこんで、紐に手をやる。

 ――不意に薄暗くなった。


「あっ、リヒト――」

 リンの声。頭を上げようとする。

「ッ!!!」

 瞬間、衝撃と重さが後頭部を襲った――重いものが転がる音と、何かが潰れるような湿った音と共に。

 そしてそれらの音を最後に、俺の意識は暗闇に消えた。


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません。

今日はここまで

続きは明日に

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