山腹の洞窟を抜けて2
完成したスケルトンが、目のないはずの眼窩をこちらに向ける。その足元に転がっていたボロボロの剣の切っ先も同時に。
「くっ!」
そのまま向かってくるそいつにこちらからも踏み込み、抜き打ちの一撃を肋骨に叩き込んで、その勢いのまま吹き飛ばす。
流石に骨だけあって簡単には斬れないが、叩きつけた衝撃でへし折れたのだろうその肋骨が、骨粉を吐き散らしながら内側にめり込んでいるのが見えた。
――そしてそれを捉えた視界の隅に、別のスケルトンが同様に立ち上がるのも、また。
「くっ!!」
そちらに首を向けると、同じように組みあがったスケルトンが、同じようにボロボロの剣を振り上げながら、筋肉が一切ないとは思えない程しっかりした足取りでこちらに向かってくる。
更にその後ろには別のスケルトンが、あと少しで動き出すことを示すように骨が集まっていき、既に下半身が完成していた。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
リンの詠唱と共に二体目のスケルトンに火球が叩き込まれ、組みあがったばかりのその骨格標本のような体が再度バラバラに吹き飛ぶ。
「急ごう!大本を倒さないとキリがない!」
「ああ、分かった――」
言いかけたところで一体目に視線を戻す。砕けた肋骨をものともせず、再度立ち上がろうとするその姿に、体重を乗せて踏みつけるようにその首を蹴り飛ばすと、意外なほど簡単に頭蓋骨が外れて転がった。
「よし、今だ!」
眼球も視神経もないのに視覚はあったのか、二つの眼窩でこちらを睨んでいたその頭蓋骨がなくなったことで、残された体は動きを止め、俺とリンが奴を飛び越えて進む時には目の前にいるその獲物二人ではなく、転がっていった頭を探して、まるでコンタクトレンズでも落としたみたいに這いつくばって頭蓋骨を探しだしている。
何となく少し滑稽な姿ではあったが、呑気にそれを見ている場合ではない――リンがファイアボルトでバラバラにした個体が再び元に戻ろうとしているのを通り過ぎながらそれを実感する。
そして、それと同時に再度リンの声が響く。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
復活途中の二体目ではなく、その後ろで完成した直後の三体目に火球が放たれ、こちらに向かって第一歩を踏み出した瞬間のスケルトンを即座に分解する。
「よし!ナイス」
叫びながら、俺は段差を飛び降りる。道順に進めばもう一度外周をぐるりと回らないと一番下までたどり着かないが、それをしていてはスケルトンと何度戦わなければいけないか分からない。幸い、一つずつの段差は小さく、1mが精々だ。
「おらっ!」
飛び降りたすぐ先にいた二体目の首に横薙ぎの一撃を加え、一体目と同様明後日の方向に頭蓋骨を吹き飛ばす。
おたおたと自らの頭を探すそいつの横を通り抜けて更に一段飛び降り、すり鉢状の底へ。そこから更に奥へと続く横穴がぽっかりと開いていて、他に進む道はなさそうだ。
「先は見えないが……」
ここに留まることも出来ない。加えて、連中は視覚でこちらを探しているということは分かっている。つまり、松明を煌々と照らしてという訳にもいかない。
手探り状態だが進むしかない。
「連中、あまり目は良くないようだ。今のうちに進もう」
外れた頭を探してうろうろする連中の方に目をやりながら、リンがそっと呟いて横穴の方に足を向けた。
声を潜めたのは、奴らに聴覚が備わっていた場合に備えてだろう。
「足元に注意して」
「ああ」
手探りで奥へと進んでいくリンの背中を追うようにして横穴の中へ。何とか人一人通れるぐらいの広さのその横穴は、幸いなことに完全な暗闇になることはほぼなかった。
少し進んだ先で不意に天井から光が差し込む場所が現れ、その光と共に急流のように斜面を流れ落ちる滝が、俺たちのいる足場の下に流れ込んで、そのままどこかへと流れていく。
幸い先程のスケルトンたちはこちらを完全に見失ったのか、追いかけてくる様子もない。
そして、その明るい場所から見えるのは、この道が先程と同じようなドーム状の場所に通じているという事。
「……リヒト、用心して」
その行先に目をやりながらリンが緊張しているのが分かる声で囁いた。
「スケルトンがいるということは、必ず近くにそれを生み出して操っている者がいる」
ざっと見ただけだが、先程のすり鉢状の場所には姿は見えなかった。
この洞窟がどこまで続くかは分からないが、先に進めば進むほど、その大本とご対面する可能性は高くなる。
――そして、スケルトンを操る者が一本道=まっすぐ進んできた侵入者と必ず遭遇する地形で身の回りに一切の護衛をつけていないとは考えにくい。
「ああ……」
一度深呼吸。それから気を引き締める。
「油断しないで行こう」
自分に言い聞かせるようにそう言って、それから手の中の聖剣を再度しっかりと握りなおす。
橋の様になったこの道の向こう、恐らく背後にある先程のドーム状の場所と同様に天井から光が差し込んでいるのだろう、僅かにその地形が分かる場所に改めて目を向ける。
ここから見える範囲に敵の姿はない。だが、俺たちにスケルトンをけしかけたその何者かの防衛隊が手ぐすね引いて待っている可能性は非常に高い。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




