僕は少女の笑顔が見たい
俺はちょっと気持ち悪い男子高校生だ。いやちょっとというのは噓だ。がっつり噓だ。俺はロリコンだ。そう小さい女の子を愛する世間からの嫌われ者だ。
もっとも俺はまだ世間からそこまで嫌われていない。理由は単純だ。ロリコンということを隠しているからだ。大体のロリコンはそうだろう。ばれたら周りから白い目で見られるに違いない。でも俺は性癖を洗いざらい公衆の面前でぶちまけたいという破滅的な欲求がある。ひょっとしたら多くのロリコン、いや多くの変態が持っている欲求かもしれない。
だって変態が持っている性癖は譲れないものだ。自分が変態だと自覚していないならともかく、自覚した変態は己の人とは違う感情に向き合い答えを出した。その大切な答えを、さんざん悩んで出した答えをなぜ馬鹿にされる必要がある。むしろ己の性癖に誇りを持つべきではないだろうか?
そう思うのだ。しかし世間はそれを許さず俺たちのことを弾圧してくる。だから俺たちは常にその性癖を隠している。だが俺たちの心に宿る、その性癖への誇りは消えることがない。
俺は自分が守りたいと思った少女や幼女が傷つけられるの我慢ならなかった。この世界は魔界の民間企業が営利目的で人間の命を回収してエネルギーにするため放っている怪物に脅かされている。怪物には一般人でも倒せなくはない弱いのから、自衛隊やお話の世界から出てきたようなヒーローが全力で殴り合うような強いのまで存在する。
俺は自分が守りたいと思うものは全て守りたい。その対象がヒーローでどんなに強かったとしても、少女や幼女でもヒーローとして戦っている子もいる。きっとその子たちは熱い思いを持って戦っているだろう。でも傷つくときはある、怪物に負けそうになることだってあるはずだ。俺はそんな子だろうと助けたい。
そう思ってこの場に立っている。ここには身長が三メートルある豚のような巨人とぶっ飛ばされてビルの瓦礫にもたれかかっているフリフリした服を着た少女のヒーローがいる。
そして豚巨人は殺意に満ちた目で少女を見つめる。少女にとどめを刺そうとしているのだろう。そうはさせない。俺はその思いを込めて叫んだ。
「おい!やたらとでかくてムキムキじゃねえか!俺も筋肉ムキムキででかいからみんなから気味悪がられているけど、お前の方が気持ち悪いよ!クラスの奴に言ってやりたいぜ!下には下がいるってなあ!」
俺の挑発を聞いて、少女と豚巨人が俺の方を向いた。少女は目を大きく開いて俺という不審者を見た、そして顔を青くしながら俺に警告する。
「逃げて!普通の人じゃこの怪物には勝てない!」
心配かけちゃってるみたいだが逃げる気はない。というか少女が俺を心配してくれるなんてこんな嬉しいことはない。とどめを刺されそうなのに俺みたいな不審者に気を使ってくれた。尊い!だからこそ助けたい。俺は自分の思いをあたりにとどろかせた。
「俺は逃げない!自分が死にそうなのに俺のことを心配してくれた!そんな尊い存在を見捨てられるわけがないだろう!俺は尊いと思ったものをすべて守るんだああああ!」
思いは叫んだ。もうやることはあと一つ。豚巨人を殺すこと。それができるだけの力が俺にはある。豚巨人が俺に殺意を向けて吠える。
「ぶおおおおおおおん!」
豚巨人と俺は同時に跳んだ。豚巨人が着地するなり俺の頭を刈り取るように横から蹴りを放つ。俺は急いでかがむ。豚巨人の蹴りが風切り音を立てて空を切る。俺はかがんだ状態から腰を回して豚巨人の軸足に拳を叩き込む。
あたりに轟音が響き、豚巨人の軸足がバラバラになって吹っ飛ぶ。これが俺の異能。爆発打撃。打撃を当てたところを爆発させる能力だ。打撃の強さに比例して爆発も大きくなる。この世界には魔界の民間企業が襲来してから異能やら魔法やら闘気やら得体のしれない力が幅を利かせている。
俺の異能は俺が少女や幼女を助けるべくキックボクシングジムで特訓していた時に発現した。その時俺はこの力なら守りたいものを守れると大喜びした。一週間前のことである。異能は人の思いで発現することもある力だ。なら俺の異能は少女や幼女を守りたい一心で発現した。
そんな気持ちで異能を発現させた俺は間違いなく変態である。でも俺は己の性癖にかける思いが異能になったことがとてもうれしい。世間から認められない性癖を自分の心は恥じることなく認めてくれたということだから。
軸足を失って地面に倒れた豚巨人の頭に俺は前蹴りをぶち当てようとする。しかし豚巨人の軸足が再生して豚巨人が急いで立ち上がり前蹴りを避けた。こいつ再生能力を持ってるのか?厄介な敵だ。でもその再生も無限にできるわけではないだろう。
少女のヒーローがある程度はこの豚巨人の体を壊してくれていたりするかもしれない。だとしたら再生できる回数が減っているかもしれない。いやそんなこと考えても仕方ない。戦え。俺は自分にそう言い聞かせて豚巨人に飛び掛かる。豚巨人は俺の近くの地面をぶったたいた。
なんとなくこれから起こることの予想ができたので、急いで飛びのく。豚巨人の打撃の衝撃でコンクリが飛び散り土煙が立つ。あの場にとどまっていたら俺は今頃肉片になっていただろう。土煙の中から豚巨人が突撃してくる。
おそらく能力で再生できるから視界が悪いのにもかかわらず俺の意表を突くために突撃してきたのだろう。俺は横に一歩動いて突撃を避ける。俺のすぐ横を豚巨人の体が通り過ぎる。あともう少しで俺はひき殺されていたであろう。
積み重なっていく命の危機。それに恐怖している暇はない。俺は急いで振り向く。豚巨人は自分に刺さっているコンクリの破片を投げつけてくる。とりあえず止まってるよりかはましなので適当に不規則に動く。
運が良かったのか一発も当たらずに済んだ。一発でも直撃していたら俺は死んでいただろう。投げられたコンクリの破片が地面に当たったせいでできた小さい穴がそこら中に散らばっていることが何よりの証拠だ。
さっき豚巨人は自分にも当たるのをお構いなく地面をたたいた。その結果コンクリの破片を浴びることになったのだ。とんでもねえ自爆技だが、再生できるからやるのだろう。早くあの再生をできないようにしないと。
豚巨人が俺の頭上まで跳んでくる。俺を押しつぶすつもりだ。だが甘い。俺は腰を回してストレートパンチを打ち込んだ。豚巨人の踵に直撃。豚巨人の足が爆発により吹っ飛ぶ。そして爆発のせいで豚巨人は空中での体勢を失い、地面に崩れ落ちる。
豚巨人がさっき頭に蹴りを入れようとしたとき急いで立ち上がったのはおそらくさらに再生しなければいけないからではないのでないと思う。頭が弱点だからではないか?ある程度複雑な生物は頭を失ったら生きていけない。
もしかしたらその見解は間違っているかもしれない。それでも今はその可能性に賭ける。俺は豚巨人の頭に飛び乗り、思い切り踏んづけた。踏みつけはとても威力がある。非力な人でも頭蓋骨を砕くことができるほどに。
それが異能で強化されるとこうなる。耳をつんざく轟音があたりに響き渡り、閃光が周囲を照らす。そしてそれらがやんだ時には頭部がなくなり胴体の一部が消し飛んだ豚巨人だったものと無事五体満足でいられた俺の姿があった。
再生はしない。勝った。ではまた次の少女を助けよう。そうして俺は次の場所に向かおうとする。するとちょうどアナウンスが鳴り響いた。
「魔界生物兵器の駆逐を完了いたしました。」
ああ終わったか。このアナウンスは怪物を全部殺した時にもう安全であるということを伝えるアナウンスだ。魔界生物兵器とは怪物たちの正式名称である。政府公認の正式名称は長いったらありゃしない。みんな怪物って言ってるし意味ねえだろ。
内心で政府に悪口を言っていると、少女がよろよろとふらつきながら寄ってきた。俺は転ばないか心配になって声をかけようとする。その前に少女が口を開く。
「私を助けてくれてありがとう。」
けがしているからだろう。か細くて小さい声だった。俺はこのような声を聴くために戦ったんだ。そう思った。こんなことのために命を懸けるなんてくだらない。世の中の結構な数の人がこう思うだろう。
でもな。覚えていてほしい。俺はこんなことが何よりも大事だ。たとえそれを大事だと思う気持ちの源が異常性癖だとしても、俺は少女の笑顔が見たい!