08. ファデ、ユリウス王子の変貌に驚く!
※ 2025/10/30 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
双子王子の生誕祭当日。
学園内の催しとはいえ、王宮殿三階の大広間で盛大に開かれた。
夏の花々が色とりどりに咲き乱れる宮殿の庭園を、大広間のバルコニーから一望できる。
昼の部は弟のユリウス王子が主役なので、殆どが学園の生徒たちで占めていた。
国王含めた王族、諸侯貴族の親たちは夜に行われるアル王子の生誕祭に集中して来場する。
◇ ◇
ファデを乗せた馬車が王宮殿につくと、侍従が待ち受けていて王族の控室にすぐに通された。
本日、ユリウス王子のパートナーはファデ嬢と、家令たちに事前に通達されていたからだ。
ファデは侍従に促されて白い毛皮を脱ぐと碧色のシルクのドレスを纏っていた。
首にはアメジストのネックレスを身に付けている。
ファデのスミレ色の宝石は自分の瞳色、碧色のドレスはユリウス王子の碧眼色だ。
パートナーになったからには、ユリウス王子に少しでも喜んでもらおうと、ファデは碧色のドレスを選んだ。
ファデはスラリとした細見の体型だった。
ただ、同学年の令嬢たちより背が高いので背筋をピンと伸ばすと、一国の王女のように堂々として見えた。
中等部に入るまでは小柄だったが、入学してからにょきにょきと、タケノコのように背が伸びた。
──アル殿下に愛されなくなった原因は、多分私の背が伸びたせいね。
ファデは実感していた。
なぜなら子供の頃、ファデの背が急に伸びてアル王子の背を一気に越えると、優しかったアル王子が冷たくなったのだ。
さらにアル王子は公の場以外、人目に付く場所でファデと一緒に歩くのを度々嫌った。
──きっと間違いないわ。
アル殿下は婚約者と同行する行事の時だけは、おざなりで横になって歩いてくれた。
でも、それだけだった。
そんなアル王子のつれなさに、のっぽになったファデは、自分の体を一番恨めしく思った時期もあった。
一時はこれ以上背を伸びるのが嫌で、何日も絶食して栄養失調になって倒れた時もあった。
そんな思いまでしたのに、体重だけが減っても身長は無惨にも伸び続けていく。
──ふふ、私が失神した時、お兄様は顔面蒼白になって慌てふためいていたわ。
あわわと泡食ったお顔で、お兄様は私のベッドに毎晩、看病してくれたっけ。
ファデは過去の滑稽な自分に胸がちくちくと痛んだ。
そうよ、のっぽになった私は舞踏会用の靴だってアル殿下に気兼ねして、ローヒールしか履かなかった!
本当なら私も小柄な令嬢たちのようにハイヒールを履きたかった!
特に膝下までのミニドレスで足を出してる時は余計に思った。
でも履きたくても履けない!
背の高い私がハイヒールを履くと、高身長のパートナーでないとダンスではつり合いが取れない。
アル殿下の背を越してしまってからは、ダンスもちぐはぐになった。
なにぜアル殿下は令息の平均身長よりも更に低いのだもの。
それでもアル殿下は令嬢達には内緒で、シークレットブーツを履いていたけど⋯⋯
それすらハイヒールの私には届かない。
私は彼の視線が怖かった。
アル殿下がパーティーで私を見つめる時。
『お前は令嬢のくせに、何故婚約者の僕より背が高い!はなはだ失敬だろう』
と常に無言で攻め立てられている気分になった。
──けれど令嬢は背が高いと駄目なの?
違うでしょう。あなたが小さいだけじゃない!
そうだ、私はいつも舞踏会から帰ると自分の部屋でお兄様に隠れて泣いていた。
でもそれでもアル殿下が大好きだったから、彼のためにミニドレスでもペッタンコ靴を履いてでも我慢したのよ!
更にアル殿下と歩く時は、私は一歩下がって猫背気味に歩くようにした。
けっして見栄えは良くないけれど、アル殿下より背が高いと殿下に申し訳ない気がしたから。
「ふっ⋯⋯馬鹿みたい」
ファデは小さく呟いた。
中等学園に入ってからこれまでの過去を思い出すと、舞踏会で楽しかった事など一つもなかったなと、苦笑した。
◇ ◇
王族の控の間に通されるとユリウス王子は既にファデを待っていた。
「ファデ嬢、よく来ましたね!」
ファデに気付いたユリウスは、嬉しそうに微笑みながら小走りで近づいてくる。
──あら、ユリウス殿下、綺麗な成人式用の礼服だわ。
上背ある殿方はとても白い礼服がよく似合うな、とファデは遠目でユリウスがこちらに向かってくるのを眺めていた。
だがユリウスが目の前に現れた途端──。
「え?」
ファデのスミレ色の瞳孔が大きく大きく見開いた!
──え、この殿方は誰?
このとても麗しい精悍な顔立ちの王子様は一体……
「え、え~ユ、ユリウス殿下?」
ファデは思わず叫んでしまう。
「はい、どうしましたファデ嬢?」
「あ、あの……」
ユリウスはファデの側にきたが立派な体躯だった。
ファデよりも頭ひとつ背が高かったので、彼は少しだけ首を傾けてファデに問いた。
「…………」
ファデはただただ見惚れた。
その光輝くユリウスの笑顔は、ファデが今まで脳裏にあった不細工な顔ではなかった。
ファデの眼にはユリウスがとても美麗な貴公子に見えたのだ。
──そんなああああ、あり得ない!
なんて綺麗な王子様なの!!
ファデは驚きすぎて持っていた扇子を落とした。
◇ ◇
「ファデ嬢、美しい扇子が落ちましたよ……」
ユリウス王子はにこやかに笑って、落ちたスミレ色の扇子を拾ってファデに渡した。
「あ、はあ……ユリウス殿下、あ……ありがとうございます」
ファデは慌てて扇子を受け取った。
「あと少しで家令が僕たちを呼びにくるから、もう少しここで待っていましょう。さあ僕の手を取って!」
ユリウスはファデに手を指し出した。
「は、はい! 殿下」
ファデは心臓の鼓動が、一気にきゅんきゅんきゅんと鳴り響いた!
ファデはユリウスの大きな手を取ったはいいが、先ほどからユリウスの顔をぼおっと見惚れて釘づけだった。
ファデのスミレ色の瞳は、ユリウスの顔を吸い寄せられるかのようだ。
そう、王子が余りにも美しすぎて眼が離せない。
──お顔が……ユリウス殿下のお顔がとっても麗しくて⋯⋯。
ああこんな事ってあるのかしら?
不思議だわ⋯⋯今までもユリウス殿下とは何度も生徒会室でお会いしていたけれど、何の興味も持たなかったのに……
一体、私の眼はどうしちゃったの?
──お兄様……
『お前の好きな性格の殿方なら、お前の眼にはとびきり美青年に見えるはずだ!』
「あ!」
ファデはアンリの言葉を思い出した。
わかった! お兄様のあの時の暗示のせいだわ。
ファデはようやく腑に落ちた。




