04. アル王子VSユリウス王子
※ 2025/10/28 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
「お前は昔からファデが好きなんだろう?」
アル王子の言葉が、図星だったのかユリウスは真赤な顔になった。
「……ぼ、僕の気持ちはどうでもいい!今は兄さんの事を言ってるんだ、そもそもこの事を父上とアンリ公は知ってるのか?」
「いや……二人にはまだ何も話していない。僕だってハニーが身ごもったのはつい最近知ったんだもの──まずは婚約者のファデに承諾してもらうのが筋だと思った。だが父王だって可愛い孫が出来れば、嫌とはいえんだろう。もし男なら猶更だよ。──ただ長子でも側妃の子だと王位継承はややこしくなるからな。ならば最初からハニーを正妃にしておけば後々、家臣たちも口が出せまい。僕はそう思ったんだ」
「そんな馬鹿な話があるか!ハニー嬢とファデ嬢で家格が雲泥の差だよ。いくら御子が出来たとはいえ、まだ男か女か産まれるかもわからない!──その段階で正妃にするなんて、父上だって今回は反対するだろうよ。何よりファデ嬢の兄君、アンリ公が激怒するに違いない!──彼はこの国の宰相だから。きっと『世の理がおかしすぎる』と言うはずさ。僕も大反対だね。百歩譲ったとしてもハニー嬢は側妃がいいとこだ」
ユリウスは怒りながらも王子らしく冷静沈着に話した。
──そうです。ユリウス殿下は正しい。
ファデも心底そう思った。
同時にユリウス王子が、自分の気持ちをこうも代弁してくれるとは!
彼の厳つい容貌ですら、今のファデには好ましく見えてくるから、心とは不思議なものだ。
「まあまあ、ユリウス落ち着けよ。はん、厳つい顔がさらに厳つく見えるぜ──確かにファデの兄君のアンリ公は、我が『王国の智将』と誉れも高い宰相だ。だがなユリウス。アンリ公はどこまでも、合理的で冷静な御方だぞ。たとえ側妃といえども、王族に妹を入内させたいはずだ。ああそうだ? さすればもっと良い案が突然浮かんだぞ!」
「何だよ兄さん!」
「ファデを僕の側妃にせず、お前に譲ってやってもいいよ!」
「なっ?」
ユリウスは絶句した。
──え、ちょっと待って。何故にそうなるの?
ファデはアル王子の突然の提案に耳を疑った。
「何言ってんだ兄さん!ファデ嬢は小さい頃から兄さんにぞっこんだったろう!」
ユリウス王子は真赤な顔で激昂した。
「まあ、確かにな〜ユーリ、お前のその顔じゃあな〜。ああ悪かったよ、ファデは昔から僕の顔にぞっこんだったからな」
アル王子はケタケタと嫌らしく笑った。
「なあそうだろう、ファデ!」
今度はそのニヤケ面でファデの顔を舐め回すように見つめた。
ファデはいたたまれなくなって目を逸らした。
──う、悔しいが殿下の言う通りだ。
そう、私は自分の矜持をズタズタにされても、未だにアル殿下をお慕いしている。
今だってこの麗しいお顔をご尊顔さえ出来たら、この方を憎むことは出来ない。
だがファデはそんな、顔フェチの自分がたまらなく情けなくて時には恨めしくさえ思ってもいた。
「ユリウス、お前も気の毒だよな、僕よりも、ほんの後から生まれたばかりに、弟で第二王子に甘んじている運命だ。もし第一王子ならファデを正妃に娶れたのになあ〜」
「兄さん、そんな物言いはやめろよ!」
「いいやユリウス、お前だって内心は僕を馬鹿にしてるんだろう? お前は頭もいいし剣術も達者だ。その上背も高く体躯もいい。ただ唯一欠点はその醜い顔だな、はははは!」
アル王子は勝ち誇ったかのようにクククッと笑った。
「──最近、増々父王に似てきたな!まあ少なくても、俺の長所はこの美顔だ。亡き母上に似てるおかげで母を溺愛していた父王も僕にとても甘い。──更に令嬢たちは僕が少し微笑むだけで、ウザいくらい寄ってくる。ここにいる聡明な婚約者もだ。ファデは僕がすべき生徒会の仕事もいつも代わりにやってくれた。僕が表舞台で活躍できるように。なあ、そうだろうファデ!」
アル王子は椅子から立ち上がって、ファデの側にきて、彼女の顔をジロジロと覗き込んだ。
見上げれば眼前に麗しいアル王子の顔がファデの頭上にあった。
「はい、アル殿下……」
ファデの眼は悔しいが彼についつい見惚れてしまう。
「ねえ〜、お願いだよファデェ⋯⋯」
アル王子はわざと猫撫で声で、ファデをとろんとした目付で見つめる。
「君から僕の側妃になるとアンリ公を説得して欲しい。妹を溺愛しているアンリ公ならば、君からの願いなら無下にはできまい。──ねぇ、僕は愛するハニーの子をどうしても世継ぎにしたいんだ、その為には煩い高位貴族の大臣たちを納得させるには、ハニーを先に正妃にしなければならない」
「駄目だファデ嬢!けっして兄さんのいいなりになるな、君はこの国の王妃になれる人だ!」
「ユリウス、お前さっきから煩いよ。僕はファ〜デに聞いているんだ!」
アル王子はユリウスの言葉を遮るように怒った。
「なあ、どうか頼むよファデ、何、正妃だろうと側妃だろうと同じさ。今まで通り僕たちの関係は変わらない。側妃だって君は僕と毎日王宮殿で会えるんだから満足だろう? なんならこれからは、たまにはデートもしようよ。ちょうどハニーはお産で中々会えなくなるだろうしな⋯⋯クククっ!」
アル王子は嫌らしい笑い方をして、ファデの顎先を片手で持ち上げる。
その至近距離のアル王子の天使の微笑みが、顔面フェチのファデにはたまらない。
アル王子は自覚している。
自分が近づけばその麗しい顔面が、いかにファデに絶大の効果的なのかを。
◇
「なあファデ、僕は美しいだろう? 側妃になればこうして君の大好きな僕を、毎日拝む事が出来るよ!」
「はい⋯⋯アル殿下⋯⋯貴方様はとても麗しいです」
ファデは誘導されるがままに頷いた。
この時ユリウス含め他人が見たら、この腹黒王子の笑顔は悪魔のように醜く見えた事だろう。
だが──。
ファデは子供の頃の小公子だったアル王子の、天使のような美しさを、優しさを忘れる事ができない。
──あの日、あの時、ペガサスの嘶きが、私にははっきりと聴こえたんだもの……。
私の擦りむいた膝小僧を優しくケアしてくれた、アル殿下の天使の微笑みが私を引き留める。
たとえ今のアル殿下の妖しくとても麗しいけど、どこか歪んだ悪魔の笑みに見えたとしても⋯⋯。
──駄目だ、私はアル殿下には逆らえない。
これはもう、ファデの初恋の呪縛といって良かった。




