03. 弟のユリウス第二王子登場!
◇ ◇ ◇ ◇
怒鳴り込んで入ってきたのは、アル殿下の双子の弟ユリウス第二王子だった。
双子とはいっても二卵性双生児なので、碧眼金髪は同じでも容姿は対照的だった。
背の低いアル王子に対して、ユリウス王子は背が高く肩幅も広く見事な体躯。
兄弟が横に並んだら大人と子供くらい背丈が違う。
ただ、肝心の顔に至っては、アル殿下に軍配が上がる。
双子王子の亡き母。
絶世の美姫と言われた王妃にそっくりなアル王子。
逆にユリウス王子は、国王の若い頃にそっくりと言われていた。
高すぎる鼻、鷲のような鋭い眼。
すべての顔のパーツが大きく、厳つい怖い顔をしていた。
ハッキリ云えば学園の令嬢たちが『キャーキャー!』発狂するときめき顔ではない。
“不細工王子”
彼女たちがユリウス王子の顔を見て、影で噂をしていた。
◇ ◇
「ユリウス、お前何しに来た?」
「兄さん酷いよ!さっきから聞いてれば、なぜファデ嬢を王太子妃にしないんだ! 彼女の身にもなってみろよ」
「バカ!、声が大きい、誰かに聞かれたらどうする。まずはドアを閉めろ!」
「こんな重大な話、生徒会室でしていい話ではない。兄さんこそ不用心過ぎるよ、廊下を通るだけで筒抜けだった。馬鹿は兄さんじゃないか!」
「煩い! いいから早くドアを閉めろ!」
ようやくユリウス王子はドアを閉めた。
「ファデ嬢、大丈夫かい?」
「あ、はい……」
ユリウス王子はまっさきに、ファデの不安げな表情を心配して言った。
「ユリウス、お前には関係ないよ。これは僕とファデの問題なんだ!」
「そんな事はない! これは王族の沽券に関わってくる大事だ。兄さん、ファデ嬢はこの国の筆頭公爵令嬢なんだぞ! なぜ元平民で、新興貴族の成り上がりの娘を正妃にするんだよ!」
「お前、よくまあペラペラと。王子のくせに口が悪過ぎる……何よりハニーの父親、オペラ伯爵に大変失礼だろう」
「失礼も何も、ホントの事じゃないか!」
ファデはユリウス王子が現れて、すっかり涙が引っこんだ。
──まあ、この方⋯⋯お顔は……まあ、あれだけれども⋯⋯言ってる事は漢だわ!
ユリウス王子は続けた。
「──それに、いくらハニー嬢が孕んだからって横暴すぎる。第一兄さんはまだ成人前の学生だよ。まずはこの破廉恥な自分の行為を大反省すべきだろう!」
「破廉恥だと──?」
「破廉恥じゃないか」
ユリウス王子は負けてない。
「これが破廉恥といわずしてなんと言う? れっきとした婚約者のファデ嬢がいるのに、兄さんは最低野郎だよ。悪質な裏切りじゃないか!?」
ユリウス王子は更に続ける。
「僕も生徒会の役員だからよくわかる。兄さんが外で下位貴族の令嬢たちとイチャついている時に、ファデ嬢は放課後も生徒会の雑務をこなしていたんだ。それも正妃教育もしながらね!」
「………」
アル王子は弟に正論を言われて、ぐうの音もでないのか苦虫をつぶしたような顔だ。
──ああ、ユリウス殿下。あなた様はなんて私の事をそんなに庇ってくれるのかしら。
ファデは引っ込んだ涙がまた零れそうになってきた。
確かにこれまでもユリウス王子は、同じ生徒会役員で執務室で話した事はあれど、ファデはアル王子しか眼に入らなかったのだ。
そんな透明人間だった大男が、自分の味方になってる事にファデは新鮮な驚きを隠せなかった。
『良かったね、ファデ!』
『ねえ、アル王子からユリウス王子に切り替えちゃいなよ?』
『だめよ、ファデは超がつく面食いだもん!』
またまた、ファデの心声たちがざわめき出す。
アル王子はボソリと言った。
「僕が浅はかだったのは自覚してる。だから今こうして、ファデにお願いしてるんじゃないか……」
「ねえ、兄さんがハニー嬢を愛してるとは言え、彼女の父親は賭博場経営の元平民。墜ちぶれ男爵を借金地獄にさせて、その地位を乗っ取ったって聞いたよ、なおかつ新興伯爵の娘と再婚した男だ。その曰くつきの娘を正妃なんて⋯⋯絶対に駄目だよ、王族の一員などさせられないよ。側妃にすら値しない」
「お前さあ、さっきから黙ってれば何様のつもりだ? 弟の分際で生意気なんだよ!──フン、僕は知ってるぜ、昔からお前はファデが好きだったもんなあ。だから未だに山ほど来る見合い話、悉く断ってるんだろう?」
「!?」
──え、ユリウス殿下が私を好き?
ファデは突然のアル王子の言葉に更にびっくりした。