15.エピローグ 初恋の嘶きはやはり……
※ 最終回です。
※ 2025/12/8 一部加筆修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
──エピローグ──
生誕祭から数日が経過した。
王子の生誕祭の後は王宮では大激震が起こった。
アル第一王子が王位継承権を剥奪されたのだ。
学生の身でありながらハニー嬢を孕ませた事も、王子としての品格に欠けてはいたがそれだけが理由ではない。
常日頃からアル王子は素行に問題が多々あったのだが、違法賭博が発覚してしまう。
賭博をそそのかしたのは、ハニーの父親のオペラ伯爵と判明した。
アル王子は違法賭博で借金を抱え、その返済に王室所有の鉱山の一部の権利書を、オペラ伯に担保として横流しをしていた。
むろんこれは国の資産なのでで、王子が勝手に私物化できるものではない。だがアル王子はオペラ伯に内密に渡したため重罪に当たる違反であった。
アル王子は国王に直談判した。
「父上〜誠にすみませんでした〜。賭けで借金が膨らみすぎてしまったのです。直にまた賭けで儲けて返済する気でいただけなんだ!──許して下さい、どうかどうか僕に今回だけ御慈悲を下さい、父上〜!」
「愚か者、流石に此度のお前のしでかした事は王族への反逆ぞ!ワシでも庇えぬ⋯⋯アル、何年か牢屋で頭を冷やせ!」
「ああああ、父上〜!」
アル王子はその場で泣き崩れてしまう。
さすがにアル王子を溺愛していた国王も、今回ばかりはご立腹で王子の爵位を剥奪した。
また、オペラ伯爵も違法賭博と詐欺罪、無許可の鉱山権利書不正の罪で告訴され、裁判の末、財産没収、爵位も剥奪された。
裁判の結果、アル王子の刑期は二十年、貴族牢へ幽閉の身となった。
◇
その後、刑期を終えたアルは、あれほど麗しかった容姿も見る影もなく体形も小太りとなった。年も四十近くなり、どこから見ても中年のオジサンに成り下ががっていた。
王子の時代、あれほど女性たちからモテまくっていたアルだが、今では彼に近づく淑女は誰一人としていなく、せいぜいアルの年老いた乳母だけは、最後までアルに付き添ってくれたのが唯一の救いであった。
ちなみに彼は一生独身である。
それでも刑期を終えたアルは、弟のユリウス国王の恩情で、下位貴族の子爵を賜り王族が管理する辺境地の小領主となった。
淋しいながらも、穏やかな毎日で細々と田舎で余生を送れたのは、アルにとって僥倖であっただろう。
◇
またハニーのお腹の子はアル王子の御子ではなかった。
何故なら、この国の王族は不思議と必ず金髪碧眼の子が生まれてくる。だがハニーのお腹から産まれた赤子は黒眼、黒髪の女の子だった。
つまりハニーの子は、アル王子と二股かけたエリックの子供だったのだ。
ハニー自身も最後は観念して、エリックの子供だと渋々認めた。
だがエリックは己の矜持を汚されたと怒り狂い、ハニーをけっして赦さず子供も認知はしなかった。
結局、ハニーと赤子は修道院送りとなった。
◇ ◇ ◇
美しい王宮内の庭園を、ファデとユリウス王子が散歩している。
大理石の円い噴水が勢いよく流れている前に、二人は立ち止まった。
「ファデ嬢、くどいかもしれんが、本当に僕でいいのかい?」
「ユリウス殿下、ん~もう、何度聞くのですか?いい加減、怒りますよ!」
「いや、あの生誕祭の時、僕は少し急すぎたかなと思って……」
ユリウスは恥ずかしげに頭をぽりぽりと掻いた。
「いいえ、ちっとも急きますぎてませんわ。逆にユリウス殿下がプロポーズしてくれて、私は良かったと心底思ってます。だって他の令嬢たちが、ユリウス陛下と私がダンスしてた時、何人かの令嬢が悔しそうに、歯ぎしりしてましたもの」
「え、まさか?僕は不細工王子といわれてるのに?」
ユリウスはファデの言葉が信じられなかった。
「いいえ殿下。兄が私に言いましたわ。『自分の心の眼で見た美青年がいたら、直ぐに自分からその青年に愛を誓いなさい、そうでないと他の女性にすぐに奪われるからね』と助言してくれたのです」
「へえ、そんな事をアンリ公が……兄上は外見も中身も漢だねぇ……」
「あらユリウス殿下、あなた様も私の兄に劣らず漢ですわ!」
ファデは真っ直ぐな瞳でユリウス王子を見つめた。
「正直、私はずっとアル殿下の外面ばかり気を取られていました。あの人の見目しか目に映らなかったといってもいい。私は人として本当に浅はかで愚かな娘でしたわ──でもお兄様が私に内面の美の素晴らしさ、大切さの暗示をかけてくれたおかげで、その時からパッと視界が開けましたの!」
「え、そんな暗示があるの? ならば、もし暗示が解けたら君は僕を見てがっかりしないかな?」
少し不安そうになるユリウス。
「あ、それは大丈夫です。お兄様に確認したら、この暗示は一生解けないって!」
ファデはスミレ色の瞳を揺らめかせて、ユリウスに微笑した。
「はあ、それなら良かった!でもアンリ公って宰相なのに錬金術の講師したり、何でもできるんだね。僕は彼に何かお礼しなくちゃならないな」
とユリウスはハンカチで額の汗を拭いながら、少年のような笑顔をファデに見せる。
ファデはそんなユリウスの眩しい笑顔に、胸がキュンとなって熱くなる。
「そうそう、私一つだけユリウス殿下に、お聞きしたいことがありましたわ!」
「──なんだい?」
「ユリウス殿下は昔から私がお好きだと、生徒会室でアル様が仰っていたけれど、いつからですか?」
「あ……うん」
ユリウスは少し口ごもりながら頷いた。
「ねえ、いつからですの?」
困惑したユリウスを見てファデは悪戯っぽく訊ねる。
「分かった!白状すると初めて会った時から好きだった。君は僕の初恋の人だったんだ」
「まあ、ユリウス殿下の初恋が私だなんて……」
「いや、本当だ。君は覚えてないだろうが、もう九年前だったかな……高位貴族と王族の子供たちのお茶会があったんだ。その時、そう、この噴水辺りで君が転倒して泣いていたんだ。僕は駈け寄ってハンカチで、君が擦りむいた膝小僧を縛ってあげたんだ」
「!?」
ファデはびっくりして、スミレ色の目を大きく大きく見開いた。
ユリウスは顔を赤く染めながら言った。
「その時、僕は恋に落ちた。君のスミレ色の瞳は大粒の涙を一杯ためて、今にも溢れそうで、僕は心の臓がドキドキしたよ!君の瞳、木漏れ日に輝いていたその銀色の柔らかそうな髪も全てが愛らしく可憐だった──そう、あの瞬間、僕は君に一目惚れしたんだ」
「え、え? ちょっと待ってください。……ではあの時、ハンカチで私の膝を手当てしてくれたのは、ユリウス殿下なの?」
とてつもなく驚愕したファデは両手で口を覆った。
「どうした?」
「私⋯⋯あの時の事、覚えてますわ!でもでも……あの小公子はてっきり私……アル殿下だと思っていました!」
「ああそうだね。僕たち二卵性の双子だけど、幼いころは周りからは、そっくりで見分けがつかないと、よく言われてたよ」
ユリウス王子の癖なのか、恥ずかしげに頭をポリポリ搔いて言った。
「──だけど声変わりする頃になったら、僕だけどんどん背が伸びて体躯が良くなったんだ。いつの間にか父王そっくりの厳つい顔になっちゃった。──兄さんは今もずっと子供の頃の顔のままで、全く変ってないけど」
「んまあ……なんてこと!」
ファデは思わず放心状態となった。
──では、私の初恋は最初からユリウス様だったのね!
ファデは心臓が止まるくらいショックだった。
だが、ファデの驚愕した顔は直ぐに花のような笑顔に燦然と輝いた。
「おほほほっ! あはははは!おかしいわ!」
ひとりで大笑いするファデ。
「ファデ?」
ユリウスは突然ファデが大笑いするので訝しがる。
──ああ、私ってなんて愚かだったのでしょう!
てっきりお兄様の暗示のおかげで、美形フェチから卒業できたと思っていたのに……
駄目だわ、お兄様、申し訳ありません。
やはり私は死ぬまで顔フェチ依存症は治らないのかもしれません。
「?ファデ、何をそんなに笑っているんだい?」
「おほほ、ユリウス殿下、大笑いしてごめんなさい……実は私も昔からあなた様のことを……」
こうしてファデはユリウスに、自分の初恋を詳細に語り始めていく。
◇ ◇
半年後──。
今日は、新たなる王太子となったユリウス王子の戴冠式の日であった。
同時に、大聖堂教会でユリウスとファデの結婚式でもあった。
王太子の礼服を纏ったユリウスの隣には、白いウエディング姿の王太子妃ファデがいた。
こうしてファデはアル王子ではなく、その弟のユリウス王子の正妃となったのだ。
挙式後、王都を一望できる宮殿のバルコニーで、王太子と王太子妃を祝うため、選出された王都民、何百人が庭園に招待されていた。
そのバルコニーに、ユリウスとファデが現れた途端、大勢の王都民が旗を振って大歓声を上げた。
「おめでとうございます。ユリウス王太子!」」
「おめでとうございます、ファデット王太子妃!」
ファデは王都民の大歓声を聞いて、笑顔を向けて手を振った。
同時に彼等の歓喜する姿を見て、心の底から歓びと国民への責務も強く感じた。
それは王太子となったユリウスも同じであった。
一歩下がって二人の傍には、宰相としてアンリも観ていた。
聴衆たちに手を振っているユリウスとファデの晴れ姿。
アンリはとても満足げに微笑んでいた。
──完──
※ 最後までお読みくださりありがとうございました。初めての「ざまあ」作品はとても難しかったです。
懲りずにまた第二弾投稿予定です。




