14. ファデの逆襲、大荒れの生誕祭!(2)
※2025/12/12 修正済み
※ 雷鳥文庫様、誤字脱字報告ありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇
「ファデ、少なくとも何だって──はっきりいってみろ?」
──アル殿下、あなたのその王子の尊厳すらない醜態。
ふふ、私はお兄様の暗示のおかげで、今、あなたの正体がよ~くわかりましたわ。
殿下、あなたは今、私の目には誰よりも悪臭がして、反吐が出そうなくらい醜い男に見えるわ!
「ええよろしいでしょう、はっきりとあなたの下衆さ加減を、聴衆に示しましょう!」
「僕が下衆だと!?」
アル王子の形相は怒りに震えた。
「ええ下衆ですとも!少なくともユリウス殿下は、あなた様のように、婚約者の私がいるにもかかわらず、ハニー令嬢に御子を孕ませるなど破廉恥な事は致しませんわ」
ファデは高らかに堂々と言い切った!
「「「「「「おおおおおおお!?」」」」」」
この会場内で聴衆たちの一番の大歓声があがった!
「ハニー嬢が身ごもってるって!?」
「ああ、だから正妃だったのね!」
「おかしいと思ったんだよ!成金令嬢が正妃はな~」
「そりゃあ、ファデ嬢も呆れて見放すだろうよ」
「殿下も酷い男だなぁ……」
一気にざわざわする学園の令息や令嬢たち。彼等の親族たちも呆れた目でアル王子を見つめた。
一同、ファデの言ったショッキングな発言で、ハニー嬢とアル王子に冷たい視線を向けだした。
「ファデ、お、お前は、馬鹿か、こんな大勢の前でいうなよ!」
本音がダダ漏れのアル王子である。
ようやく自分の犯した失言に気が付いた。
ファデはどこ吹く風という風貌で容赦しない。
「あらアル殿下、この場で正式にハニー様を正妃に発表なさったのだから、既に国王様もご存じなのではないのですか?」
アル殿下はぐっと口を曲げて黙り込んでしまう。
国王は先ほどから苦虫を噛み潰した表情で、アル王子とファデの成り行きを見守っていた。
◇ ◇
実は国王はアンリから数日前にハニーが、アル王子の子を身籠った事を聞いていた。
これにはさすがの国王も怒り心頭でアル王子に注意喚起しようとしたが、ここ数日王子はハニー嬢とお忍び旅行をしていて連絡が取れなかったのだ。
ようやくアル王子も、周りの冷たい視線を感じて、事の重大さに気付き始めた。
酔いは完全に醒めた。
「アル王子様……」
ハニー嬢も内心同様しているのか、おろおろと挙動不審に陥っていた。
その時だった──。
「酷いよ、ハニーそれはないよ!!」
今度は前方にいたアル王子の側近集団の中から、大声で叫びながら一人の令息が飛び出してきた。
「エリック? 何だ、お前どうした?」
アル王子が目の前に現れた男を呼んだ。
どうやらアル王子の学友のようだ。
黒髪、黒目、顔立ちもなかなかの美男子である。
「アル殿下、申し訳ありません。でも……これだけは確認したい!」
エリックと呼ばれた令息は座っているハニー嬢に目を向けた。
「ハニー、君とアル殿下はいつの間にそんな仲になっていたんだい?」
「!?」
「ハニー酷いよ! 君は俺を心から愛してるといったよね。だから俺は学園を卒業したら、君にプロポーズするつもりだったんだ、君は前に『アル殿下はお兄様のように慕っているだけです、一番好きなのはエリック様よ!』っていったじゃないか。あれは嘘だったのか?」
「あ、あの……エリック……様……」
ハニーの愛くるしい顔は血の気が引いて真っ青になった。
エリックは涙ぐみながら続けた。
「君は俺をだましてたのか? あの夜も俺たち何度も愛し合った仲なのに……!」
「なんだと?おいエリック、今何と言った?お前もハニーと寝たのか?」
今度はエリックの発言にアル王子の顔が真っ赤になった。
「あ……はい殿下、ハニーが俺を好きだっていうから……凄く可愛くてつい⋯⋯」
「この野郎!!よくも僕のハニーに手を出しやがって!」
怒り狂ったアル王子は、エリックに襲い掛かった。
「わあああっつ!」
「キャーッ!」
突然のアル王子の乱闘に場内が騒然とする。
「あ、アル殿下がエリックを殴ったぞ!」
「いいぞ、もっとやれやれえ~!」
アル王子の醜態に騒ぎたてる令息たち。王子とエリックの取っ組み合いを眺めて歓喜していた。
「アル殿下、お止め下さい!!」
「殿下、王様がご覧になってます!」
護衛たちが慌ててエリックと、もみ合っているアル王子を止めに入る。
それでもアル王子は癇癪を起こして、エリックを離そうとはしない。
「キャー!」
「止めて~!」
「いやああ〜!」
今度は後方から令嬢の悲鳴が上がった。
アル殿下の取っ組み合いから、そこかしこで令息同士が突然殴りあったり、独りでダンスをしたり不埒な輩が、あちこち湧き始めたのだ。
無理もない、彼等はユリウス王子の生誕祭で既に相当酔っていた。
こうなると生誕祭の会場は、血気盛んな若者の戦場と化して収集がつかなくなっていく。
「皆様、お静かに! どうかお静かに!」
司会の男子生徒が宥めても無駄だった。
怒号のような騒ぎの中、冷静に見ていたアンリ公は立ち上がった。
「おい、君!」と音楽団員を呼び寄せて何やら指図した。
而して音楽団員が「ドカーン、ドカーン」と大きな銅鑼の金を打ち鳴らして、ようやく場内乱闘を鎮めたのだった。
◇ ◇
「あははは!」
「ほほほほ!」
朗らかに笑い合うファデとユリウス王子。
二人は場内乱闘の間を縫っていつの間にやら、大広間から抜け出していた。
ファデとユリウス王子はしっかりと手を繋ぎながら、王宮殿の豪奢な大階段を降りていく。
「ユリウス殿下、なんだか大変な事になってしまいましたわね!」
ファデが笑顔でユリウスに言った。
「ああ、どうやらハニー嬢は兄さんと側近とを二股かけていたようだね、そうとう悪女だな」
ユリウス王子はあきれた感じで言ったが、言葉と裏腹にとてもすっきりした表情をしている。
「それよりファデ嬢、よくぞ兄さんに発言したね。後ろで聞いていて僕は胸がすっきりしたよ」
「ええ、私もちょっと内心緊張しましたけど、ユリウス様が『学園の生徒の前で婚約破棄を宣言して、真実を分からせた方がいいよ』ってアドバイスしてくれたおかげですわ!」
ユリウスは化粧室から出てきたファデに、アル王子の失態を生徒たちの前で晒すようにとアドバイスをしていたのだ。
ユリウスもファデから結婚の了解を得て、兄の側妃をなんとしても破棄させたかった。
「本当に痛快だったよ。君が兄さんに啖呵を切ったのは初めてじゃないかい?」
「ええ、ユリウス様、生まれて初めてですわ。アル殿下のあんな歪んだ醜い顔がみれて楽しかった。ああすっごく気持ち良かったですわ!!」
「はは、最高だったよ!」
二人は笑いあいながら、大階段を軽やかに走り抜けて宮殿の外へと飛び出していく。
まさに今宵、ファデはアル王子の初恋の呪縛から解き放たれた。
気弱でおどおどした令嬢はどこにもいない。
そう蛹だったファデは見事な美しい蝶となって、美しい月の夜空に飛び立ったのだ。
彼女が大変身した記念すべき夜でもあった。




