13. ファデの逆襲、大荒れの生誕祭!(1)
2025/11/1 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
アル王子は、相当飲んでいたのか、この場では絶対にいってはならない側妃発言をしてしまった。
本人はハイな気分になっていて何も分別が付かないようだ。
大広間の人々は一同、アル王子の突然の発言にどよめいた。
「ハニー嬢を王太子妃にするの?」
「だってファデ嬢はアル殿下の正式な婚約者でしょう?ハニー嬢とは家格が違いすぎるけどよろしいのかしら?」
「ファデ嬢を側妃ってファデ様、なにか王子の怒りでも買ったのかしら?」
ざわめく令息や令嬢たち。
だが一番驚いたのは、彼等の親族だった。
まさか王国筆頭の公爵令嬢が側妃で、最近伯爵になったばかりの令嬢が、王太子妃とは前代未聞だったのだ。
「王様やファデ嬢のアンリ公はご存じなのかしら?」
「いや、見て御覧。二人共、苦虫をかみ潰したような顔でアル殿下を見てるよ」
「アル殿下、そうとう飲んでるよな。さすがにシラフでこんな爆弾発言はしないだろう?」
「こりゃあ、宰相アンリ対アル殿下の勃発が見れそうで面白くなってきたぞ!」
と、既に野次馬化した学園生徒たち。
これからどんな騒動になるのかワクワクしてる令息すらいた。
そして見事に後方で口火をきった令嬢がいた。
「お待ちください、アル殿下!」
皆が一斉に振り向くと、大広間の後方にファデが仁王立ちしている。
「私はアル殿下に異議を申し立てます!」
といってファデはカツカツとヒールの音を強く立てて、アル殿下に向かって闊歩していく。
思わず彼女の前に道を開ける令息や令嬢たち。
その姿は颯爽としていて、今まで少し猫背気味のファデとは違う雰囲気を醸し出していた。
ファデは他の令嬢よりは普段から背が高い。
だが今日のファデはいつも履いているペタンコ靴ではなかった。
高いハイ・ヒールを履いていたから、更にスラッとしていて周りの人々には、彼女が女王様のようにみえた。
その観客たちの喧騒の中をファデは、登壇上にいるアル王子を目指して進んでいく。
そのファデの後方にはユリウス王子がいた。
偉丈夫のユリウス王子がファデの後に続くその姿は、若き女王を護衛する王宮騎士として人々には映った
ファデが歩くドレスの裾から見える、碧いハイヒールがピカピカと煌めいていた。
コツコツとリズミカルに鳴っていたハイヒールの音がアル王子の前で止まる。
「アルフォンス殿下、この度成人の儀、誠におめでとうございます。それからハニー嬢との正妃婚約もおめでとうございます」
ファデはアル王子の前で、恭しくカーテーシーをした。
「「「おおお」」」
「「なんと!?」」
人々はファデの挨拶の発言を聞いて、ハニー嬢が正妃になるのだと改めて認識した。
「ああ、ありがとう。何だファデ、今日はやけにスラッと美しく見えるじやないか。その碧いドレスも良く似合ってるぞ!」
王子はだいぶ酔っているのか、真っ赤な顔をして眩しそうにファデを眺めていた。
「お褒めに預かり光栄ですわ殿下。このドレスはユリウス様の碧い瞳にあわせたものです」
「あ、そう」
アル王子はむすっとしてファデの後ろに控えている弟に気が付いた。
「ユリウスもいたか、どうだユリウス今日はファデと踊れて楽しかったろうな」
「はい兄上。とても楽しゅうございました」
ユリウス王子は頭を下げて臣下の礼を取った。
「ふん、兄に感謝しろよ、お前の生誕でもあったからファデを貸したんだぞ!」
アル王子はニヤニヤしながら厭らしい目で二人を交互に見つめだした。
──呆れた、殿下はそうとう酔ってらっしゃる
この聴衆の面前でなんたる様なの!
ファデは内心、酔っ払いのアル王子を真近で見つめて酷く嫌悪した。
「アルフォンス殿下、今ここで私は殿下にお知らせしたいことがあります。一言発言してもよろしいでしょうか?」
「なんだ改まって……まあいい。今日は内々の儀だからな。忌憚なく申してみよ」
「ありがとうございます」
ファデは軽く一礼した後で、後ろにいるユリウスの顔をチラリと見た。
ユリウス王子はゆっくりとファデに頷いた──。
とても温かな眼差しと共に。
『ファデ、勇気だせよ!』
『そうだ、ファデがんばれ!』
『ファデ、あたしたちがついてるわ!』
心声たちがファデの気持ちを後押しした。
──落ち着いてファデ……。
ファデは自分を鼓舞するかのように思いっきり息を吸って発言した。
「アル殿下、生誕祭の席で非常に申し上げにくいのですが、私は側妃を辞退しとうございます」
「あ?」
「「「おおお、」」」
驚く諸侯貴族や学園の子息令嬢たち。
「何だ~?ファデ、もしかしてアンリ公が反対したのか?」
アル王子は訝しがったが、酔っぱらってるせいかそれほど怒りがないようだ。
「いえ、そうではありません。これはあくまでも私の一存で決めました」
「ファデ~冗談はよせ。君は僕がいないと生きていけないだろう? 僕の顔を拝まないと君は可笑しくなると言ったではないか? だからあの日、僕の側妃になるって了承したのだろう!」
──おお、私はあなたなしで生きていけないとな?
そうね、確かにこれまでの私は、殿下の外見だけしか見ていない世間知らずのお馬鹿さんだった。
でも、私は誠実な心を持った殿方の美しさがようやく分かったのですわ。
アル殿下、目の前にいるあなたの顔は私にはとても醜く見える。
ファデは歪んだ顔のアル王子を凝視して、つくづく自分が愚かだったと悟った。
なおかつ、アル王子の顔に舌打ちしたくなる衝動にすら駆られていた。
「──ええ、確かに私はこれまでずっと殿下をお慕いしておりました。ですが色あせて散りゆく花よりも、人の心は移ろいやすいと申します。私も別の殿方が好きになりましたの!」
「は、別の殿方だと、嘘つくなよ!」
「いいえ本当です!」
「はあ、誰だ、そいつは?」
驚愕するアル王子の声は震えていた。いつしか彼の顔は赤く歪んで酔いは醒めていく。
「はい殿下、ここにいる弟君のユリウス様ですわ!」
ファデは振り返って笑顔で言い放った。
「先ほど私はユリウス様より、正式な妻になって欲しいとプロボーズされましたの。快くお受け致しました!」
「「「「おおお、」」」
どよめく観衆たち。
「ユ、ユリウスだって!?」
アル王子は呆けたように二人を見つめた。
壇上にいた国王も兄のアンリも、ファデの発言を聞いて驚きを隠せない。
だがアンリは嬉しそうに口角をにやりとあげた。
眼鏡をかけているのでアンリの表情は定かではないが、ファデの爆弾発言を愉しんでいる様子だ。
この騒ぎにハニー嬢もきょとんとした面持ちになっている。
「ファデ、お前……何いってるんだ? 君は僕の側妃になるっていったではないか!」
「ええ、一旦は了承しましたけど、私もアル殿下がさきほど仰ったように、私を一番愛してくれる殿方の妻になりたいのです。殿下の御心がハニー嬢に移られたのと同じですわ。それが世の常人の常と申しますでしょう」
とファデは淡々と説明する。
「な、なあファデ、君はそれでいいのか?美しい僕より弟のユリウスがいいのか?」
アル王子はユリウス王子を指をさして言った。
「はい、ユリウス様の方が断然良いですわ。私にはユリウス様が世界で一番素敵に見えますの!」
「は、馬鹿な、お前はこれまで僕しか目に映らなかったではないか! こんな醜い弟なんて全く眼中になかったくせに」
「いいえアル殿下、今のお言葉を撤回してください!」
「何だと!」
「今の発言はいかに殿下といえども失言ですわ。もうすぐ王太子になろうという御方が、ご自分の弟君を侮辱するなんて言語道断です!」
ファデはアル殿下の暴言をぴしゃりと制した。
一瞬、ざわついていた人々がファデの言葉に静まり返った。
ファデは更に言葉を続ける。
「ようやく私は気が付きましたの。夫となるべき殿方の美徳は中身だと。それにユリウス様は外見も美丈夫ですし、何よりも中身がとてもジェントルマンですもの。少なくとも──」
ファデはアル殿下の顔を燃えるような瞳で射抜くように凝視した。




