紙飛行機
僕は、空が好きだ。青い空の時は笑っていて、黒い空の時は泣いていて、オレンジ色の空の時は照れている、ような気がした。空は、想像よりも表情が豊かで、想像よりも楽しい人生を送っているのだと思う。
僕は空の表情を近くで見てみたかった。
見ている表情と感情は違うかもしれない。笑っていても、実際は泣いているかも。泣いていても、実際は怒っているかも。照れていても、実際は冷静かも。
そう思うと、空は人間より人間らしく見えてくる。
「お母さん、僕どうしたら、空に会えるかな。」
お母さんは、僕の大好きなハンバーグをこねながら、うーんと考えている。
「空に会うには、あなたがもっと大きくならないといけないかもね。」
「大きくなったら、みんな会えるの?お母さんは会ったことある?」
「残念だけどね、みんなが会えるってわけじゃないのよ。たくさん勉強して、努力した人が空と対面する権利を得られるのよ。」
空に会うにも努力が必要だとは思わなかった。僕は限られた人の一人になれるだろうか。
「僕は会えるかな?」
「チャンスはまだあるわよ。諦めないことね。」
勉強は苦手だ。でも、空に会うことを目標にしたら頑張れるかもしれない。ちょっとワクワクしてきた。
「お母さん、空にいつか会いに行くよって伝えたいんだけど、大声で叫べば届くかな?」
台所はペチペチと軽快な音が鳴り響いている。ハンバーグ作りはそろそろ大詰めといったところだろうか。
お母さんは、少し笑いながら、
「紙飛行機にメッセージを書いて、届ければいいんじゃないかしら?」
と提案した。
声で届けるよりも真剣な気持ちが伝わるかもしれない。僕は大きな字で待っててねと書いた。
久しぶりに折った紙飛行機は右翼と左翼が不格好で釣り合っていなかったけど、とてもよく飛ぶ。
「お母さん、公園行ってくるね。」
「車に気をつけるのよー。」
いい香りがする。ハンバーグの焼く音に負けないようにお母さんの張り上げた声が、後ろで聞こえた。
今日の空は、オレンジ、黄色、白、青のグラデーションだった。