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嘘告とそれからと  作者: 真
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ウチの気持ち

足立さん視点です。


「俺と、付き合ってくれないか」


高校3年が始まって数日が経った頃に、ウチ、足立 莉子は近藤 健太から告白を受けていた。


「ごめん。健太のこと、嫌いじゃないけど。付き合うとかはちょっと無理。」


「そっか…。」


「ん。ごめん。」

健太はイケメンで、良くつるんでいる内の1人。女子の人気も高く、バスケ部での活躍から他校の生徒も告白に来るほど。

ただ、ウチは健太と付き合うとかは考えられなかった。 



もう既に気になっている人がいるから。



いつも1人ぼっちで、自分の席で本を読んでいる人。

声を聞くことすらレアで、毎朝二宮と一言二言話しているタイミングを逃せばその日はもう彼の声を聞くことは出来ないほど。

虐められているわけでもなく、ただ静かに彼は教室に身を置いている。




不思議だった。

小学生からのエスカレーター組であるウチにとって友達という存在が当たり前で、もし学校で1日1人で居ようものなら、その日のうちに不安で潰れそうなのに。

中学から編入してきた彼は、そんなウチとは真逆の生活を6年近く送っている。


そんな彼に惹かれていったのはいつからなんだろう。

高校生になり、中学とはまた違った面子で集まるようになったウチらは学年でも特に目立っている集団だった。

それがウチにとっての誇りで、この容姿がその証明だった。

毎日、肌の手入れをすることは欠かさず、面倒な化粧も疎かにすることは無かった。

それしか縋るものが無かったから。


だからこそ、この容姿に釣られる男子を見て満足感を得ていたし、またそれが自信に繋がった。

クラスでウチのことを気にならない奴はほぼいないと言っても過言ではないとさえ思ったし、馬鹿な男子がやっている勝手な女子のランキング付けにも学年で1番であることを知っている。

自分の容姿に目を向けない彼を目で追うようになってから、私の生活の一部に彼を見守ることが追加された。

3年になってからは、たむろする場所は彼と二宮の話し声が聞こえる距離にし、その声を逃さず聞くことに全神経を傾けた。






「あー。振られちゃったか…。まあ無理そうな気配はしてたんだよね。」

力なく笑う健太にいつもの明るさはない。

ただ、それを慰めていいのはウチではないと思い、2人の間に沈黙の時間が流れた。


「莉子、遠藤のこと好きなんだろ?」


「え…。はぇ?」

さらっと言われた事実にウチは誤魔化すこともできず、たじろぐ。


「見ればわかるよ。なんかちらちら遠藤の方見てるし、朝とか割とガン見してる。」

まじか。そんなバレてたのか。


「でさ。振られた情けない俺だけど、最後のお願いだけ聞いてくれない?」


「ん。なに?」


「春の大会、見に来てほしいんだ。」


「それくらいなら、いいよ。」

変な要求されたらすぐ帰るとこだったけど、試合を見に行くくらいなら問題ない。それより、遠藤のことがバレてるのが問題だった。


「遠藤のことなら誰にも言わないから。安心してよ。

ただ、早めに告っといたほうが良いとは思うけど。もう俺ら高3だし。」

分かってる。いつまでもこのままでは駄目だってことも。

クラスで話す女も二宮くらいだけど、あいつは学外に彼氏居るって噂聞いたことあるし。多分女関係は大丈夫。

ただ、遠藤は頭が良い。ウチは悪い。

多分遠藤はいいとこの大学に行く。ウチは遠藤と一緒の進路に進める?現状は100無理。

なんとかしないといけない。

健太の言葉で、ウチは焦ってたんだ。




その機会はすぐに来た。

栞と舞の3人でゲームしているときに、罰ゲームで嘘告をすることになった。 

ハッキリと気持ちを伝えるのは難しい。

けど、嘘告なら遠藤に振られてもまだチャンスはある。

ウチがわざと負けたのは多分栞にはバレた。

この際しょうがない。バレたとしても遠藤に告る。

そして、体育館裏に遠藤を呼び出して面と向かって初めて彼の言葉を聞いた。

とてもオドオドとしていて、ウチから告られるなんて思っても見なかったんだろうな。

正直めちゃくちゃ可愛いかった。

ウチの話し方が駄目なのは知ってる。

無理に言葉を繋ごうとする遠藤がいじらし過ぎて、ウチは自然と彼を励ましていた。

告白の返事待ちなのに、励ますとか意味分かんないけど、彼はその口から告白を受け入れる言葉をウチにくれた。




付き合ってからすぐ、遠藤に近づくのは多分彼に迷惑がかかると思い、なるべく今の生活を邪魔しないようにした。

ただ、嬉しさのあまり、付き合った週の土曜日にデートを入れたのが、最悪の選択だった。

その日は健太の試合を見に行く日で、遠藤と付き合えたことに舞い上がっていたウチは試合のことを完全に忘れていた。

デート当日、ダブルブッキングになっていることを栞のメッセージから思い出したウチは、何を思ったのか、健太の試合に遠藤も連れて行こうと考えてしまった。

バレるならバレて認知させれば良いし、バレないならバレないでまた、秘密のカレカノにしよう。




気合を入れて待ち合わせの場所に着いたウチは、スマフォに来ている栞と健太からの連絡に返信する。

応援団達はもう既に体育館に居るみたいで、ウチにも早く来いと言うことらしい。

完全にウチが悪いから不機嫌になりつつも、昼過ぎには着くことを2人に送る。

丁度そのタイミングで、遠藤が声をかけてきた。

イライラの中、ナンパならすぐ警察を呼ぶ準備をしていたウチは彼の顔を見て、心が温かくなるのを感じた。

ご飯を2人で食べた。

パンケーキはやっぱり食べ切れなくて、遠藤に渡したけど、これ絶対に残飯処理だと勘違いされてる。

遠藤が食べている間に、舞からも試合の結果報告が来る。正直邪魔しないで欲しいが、今日のことは100ウチが悪いから我慢。

遠藤から声が優しいと言われたときは喜びなんて言葉じゃ言い表せないほど嬉しかった。

男子から言い寄られるのは慣れているし、それこそ声も良いねなんて言われることもある。ただ、遠藤から貰うその言葉に関してだけは、ウチにとっての最高の褒め言葉だった。反応できなくて、トイレに駆け込んでしまったけど。

最高の気分だったウチに遠藤と二宮が喋っていることは割と些事だった。だって、あいつ彼氏いるんでしょ。

遠藤の彼女はウチだから。





遠藤と電車に乗り、試合会場に着くと、何故か遠藤が運動する気満々な発言をしていた。ウチの彼氏はちょっと抜けてる。頭めちゃくちゃ良いけど。


健太達が負けた。マジ惜しかったと思う。


見てくれとは言ってたけど、迫力があって感動した。

遠藤に健太に会いに行くのか聞かれたけど、ウチは頼まれたことはした。だからこれからは遠藤に全力なんだ。悪いけど健太に割く時間はない。



このとき、遠藤のことをしっかり見ていればよかったと心の底から思う。トイレと言って遠藤が向かったのは観客席の方角。

体育館入り口にあるトイレではなかった。

ウチは遠藤の様子が少し元気ないようにも見え、今日のお披露目は延期にすることにして入り口で待っていた。

彼を待つそこにやってきたのは遠藤ではなく、栞。

ウチが遠藤のことを好きなのは分かっているくせに、その時だけは何故かバスケ部の打ち上げにしつこく誘ってきて、面倒な煽りを入れてくる。

果てには、遠藤との今の関係を嘘告だと笑いながら言われた瞬間、一気に沸点が上がり、眼の前の女を追い払うことしか考えれず、否定することも出来なかった。





そして、最悪の瞬間が訪れた。

先程より暗い表情でウチの前に来た遠藤は、ウチにバスケ部の方に行けという。そんなこと出来るわけない。遠藤が帰るならウチも帰る。当たり前だ。

少し押し問答をした最後に、遠藤から言われた言葉にウチは戸惑うしか無かった。


「嘘告なんでしょ?」


なんで、なんで、遠藤がそれを。

頭がパンクしたみたいだった。

走っていく遠藤を追いかけることすら出来ず、ウチは遠藤に謝罪のメッセージを送信し続けた。





日曜日の朝、一睡もできていないウチは、締め切った部屋の中で、スマフォの画面を見続けたままだった。

メッセージは何度も送っている。通話もしている。

遠藤からは何も返事がない。

眠気で今が何時かもわからないまま、何度目かの通話を押す。

出ることはないのかなと諦めていた部分はあった。

ただ、その通話に遠藤はすぐ出てくれた。


『…遠藤?』


声が聞こえない。

また声を聞かせてほしい。

罵倒でもなんでも良い。遠藤の声が聞きたい。


ウチの懇願に、通話の向こうで、遠藤の声が聞こえた。


『僕は…』


その瞬間、女の声が向こうから聞こえ、恐らく遠藤の妹であろう、生徒会副会長の怒声に晒された。

耐えるしか無かった。心の底から遠藤の事を案じていることが感じられたから。

言葉の雨を振らされ、謝罪の機会も得られず、通話は切られた。

涙が流れるのが分かった。

帰ってから何度目だろう。




「遠藤…会いたいよ」


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