第99話 4日目の夜1、4回目の襲撃
夜間のコリンの襲撃を無傷で退け、夜明けまで眠った。
前回上陸時は、ここから引き返したけど、今回は当然島の中央目指してわたしたちは東進を続けることになる。朝食を簡単に済ませたわたしたちは支度を整え移動を開始した。雨がいつ降ってもいいようにリュックの上からマントを羽織っている。
合わせて8時間の移動の後、その日の野営を始めた。雲は移動中に薄れていき、今では晴れ間が広がっていた。
焼いた肉はもうなくなっていたのでこの日の夕食用に新しく肉を焼いた。スープも新たに作り5人揃って食べた。
夕食を食べ終わり、星が空にきらめき始め各自が毛布を敷いて横になった。
とにかくハーネス隊長は眠りにつくのが早く、3分もすれば寝息を立て始める。他の3人は寝息が大きくないので眠っているのかどうかは実際のところよく分からない。
わたし自身は手袋は外していたけどヘルメットは被ったまま毛布の上に横になった。眠れぬまま、目を瞑ってあれこれ考えながらもレーダーマップに意識を向けていた。
モンスターが東からやってくるとして、今回は引き返さず東進を続けたので、今夜あたりコリンを中心としたモンスターの大群に襲われる可能性が高い。
前回は完全に包囲されてしまうまで気付けなかったけれど、今はあの時と比べてだいぶレーダーマップの範囲も広がっているから、できれば囲まれる前に気づいて先制攻撃したい。
わたしは横になったまま、スピードと巧みさにそれぞれ2SSポイントを割り振ってやった。
これでスピードが47から67に、巧みさが42から62になった。数字だけ見れば50パーセント近くアップしているので、常時アドレナリンラッシュ状態とまではいかないだろうけど、わたしの不射の射を射る速さは相当高まるはずだ。
先制攻撃のために何かできることがないかと考えていたら、レーダー射撃を思いついてしまった。
普段レーダーマップは視界の右下あたりに小さく映っているんだけど、意識すれば広域マップと同様に拡大して視界全体にダブらせることもできる。
拡大したレーダーマップ上の赤い点に向かって不射の射を射れば命中するハズ。そう思ったわたしは寝っ転がって目を閉じたまま拡大レーダーマップを意識して仮想の点に対して不射の射の狙いをつけるイメージトレーニングを続けていた。1時間くらいそうやっていたらレーダーマップ上の仮想の点に対して不射の射が命中するかしないかなんとなくわかるようになり、命中しないなら命中するよう方向を微調整すれば必ず命中すると確信が持てた。
レーダー射撃時にアドレナリン・ラッシュを使えば12分間射撃速度が5割増しするハズ。スピードのステータス値が67の地の速さなら秒間2回不射の射を射ることできそうだ。アドレナリン・ラッシュ中なら秒間3回射ることができる。計算上は相手がコリンでも1秒間で1匹たおせる。
照準修正に時間もかかるから、1秒で1匹は無理だろうけど、2秒で1匹はいけると思う。いや、不射の射の一撃でたおせるオーガも多いから、1秒で1匹いけるかも? アドレナリン・ラッシュが切れるまでにはかなりの敵を視界外で撃破できるはずだ。
レーダー射撃で視界外でモンスターを仕留めていってもやがてモンスターは視界内まで接近するだろう。
今日の野営地周辺は立木がかなり少ないので夜間でも見通しが利く。モンスターが視界に入ったらコリンを中心に不射の射を放てば最終的に無傷で撃退できるような気がしはじめた。
2時間ほどそんな感じで頭を使っていたら、レーダーマップの端に赤い点が集まって赤い面として現れた。
「モンスター多数。距離は500歩」
わたしの声でみんな跳ね起き、武器防具の準備を始めた。
わたしはヘルメットを被ったまま横になっていたので、手袋をはめて、モンスターの方向に数歩分前に出て、
「アドレナリン・ラッシュ!」
そこから、赤い面に向けて不射の射を放ち始めた。ドド、ドドド、ドドドド……。と、不射の射の見えない矢が射線上の立ち木を薙ぎ払いそしてモンスターに命中して爆発する音が不連続に聞こえてきた。
しばらく不連続音が続いた後は射線上に立木がなくなったようでドドドド……。と連続した爆発音になった。
脳内シミュレーションでは一点一点撃破するつもりだったんだけど、相手が面となると甘い照準でも十分だと割り切ってとにかく速く不射の射を放っていった。正確に測ったわけじゃないけれど、コンスタントに秒間3射は放っている。これを12分間続ければ3回×720秒で2160射。悪くても2000射は放てるだろう。同じ目標に3発以上命中するかもしれないけど、これならいい線いけそうだ。不射の射を放ちながらわたしは暗算もできる余裕もあったようだ。
赤い面が横に広がりながらだんだんと削られていき、何個かの塊になった。その塊はこちらに向かってくることなく停止している。やった! これならこのまま殲滅できる。
あらかたの赤い塊を消したところで12分のボーナスタイムが終わった。
そこからも、秒間2射の速度で不射の射の不可視の矢を放ち続け、先方には赤い点はなくなった。
わたしの後ろで昨日と同じ隊形をしていた4人に向かってモンスターを全滅させたことを報告した
「モンスター、全て撃破しました」
「不射の射の爆発音がずっと続いていたが、それほど巨大な敵だったのか?」と、ハーネス隊長。
「いえ。数が多かったもので、不射の射をできる限り高速で数を放ちました」
「あの音だけでもすごかったのじゃ」
「シズカちゃんずーとあの速さで手を動かしてたけど、だいじょうぶ?」
「なんともない」
「シズカ、モンスターはオーガだったのか? それとも昨日のコリンだったのか?」
「分かりませんが、巨大蜘蛛とオーガの連合だったんじゃないでしょうか」
「なるほど。
いちおう見に行ってみるか」
5人揃ってモンスターのいたあたりまで歩いていった。途中の木立はほとんど吹き飛んでいた。
「コリンの体液には十分注意して、もし体に着いたらすぐにクリンで落としてください」
現場に近づくと嫌な臭いが漂っていた。
そして、そこには、体液で濡れた地面の上でバラバラになったモンスターの大小の部品がおびただしい量転がっていた。こうなってしまうと一体何匹のモンスターをたおしたのかも分からない。ただ、転がった部品からわたしがたおしたのはコリンとオーガだったことは確かなようだ。
コリンの体液がかかったのか半分溶けたような部品も多数転がっていた。これではオーガの魔石も回収できない。魔石は諦めるしかない。
その時気づいたんだけど、これほどのモンスターをたおしたのにシステム音がない? ってことはまだ戦闘中ってことじゃ?