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第71話 王都行き決定


 鎧とか防具についた諸々(もろもろ)をクリンで落とし、わたしは街道の上に転がったゴブリンのからナイフで左耳を削ぎ落していった。途中大の字に街道の上に横たわったオーガの胸から魔石を取り出そうと、ムラサメ丸でオーガの胸を切り裂いていたら街の方から黄色い点が近づいてくるのがレーダーマップに映った。振り返ると街道を十数名の兵隊がわたしの方に向かってきていた。


 兵隊たちの先頭に立っていた恐らく隊長が「オーガがゴブリンを引き連れて街に向かっていると聞いたんですがあなたがこれ全部、オーガを含めて?」


「はい。わたしの方に向かってきたのでやむなく」


「やむなく?」


「なんとなく? かな」


 モンスターがやってくるのを待ち受けていたとも言えないものね。


「お話を伺いたいので、ご同行願えますか?」


「いまオーガの魔石を取っているところだからちょっと待ってくださいね」


「は、はい」


 兵隊たちが見守る中、オーガの胸をもう少し開いてその中に左手を突っ込んでまさぐり、血だらけの魔石を取り出した。そしてクリンをかけてアイテムボックスにしまった。


 まだ左耳を切り取っていないゴブリンが残っているので隊長さんにことわって耳を削ぎ落していった。右手にナイフ、左手に切り取った耳を入れる布袋を持っている。


 最終的にホブゴブリン、ゴブリン、魔法使いのゴブリンひっくるめて150個左耳が集まった。耳でかなり膨らんだ布袋はアイテムボックスにしまった。魔法使いのゴブリンって普通ならただのゴブリンよりたおす難易度は高い筈なんだけど、耳に特徴が何もないから区別できないんだよね。今現在わたしもどのゴブリンが魔法使いだったかなんて区別できないもの。


「お待たせしました」


「いえいえ。

 お前たちは死骸を道の脇に寄せて置け。頭や手足は当然だがそこらに飛び散っている臓物もだぞ」


 隊長は部下の兵隊たちに命令したあと、今度はわたしに向かって「行きましょう。南門の脇の屯所までお願いします」と言った。


「はい」


 兵隊たちを現場に残してわたしと隊長は南門に向かって歩いていった。もう少しきれいに仕留められれば良かったんだけど、ムラサメ丸を振り回しているとそんなこと思いつかなくなるんだよねー。バラバラ、グシャグシャの死骸を片付ける兵隊さんたちには悪いので、ごめんなさいね。って、心の中だけで言っておいた。



 オーガイベントを無事終えたわたしは隊長さんに連れられて事情聴取のため南門の屯所に連れていかれた。


 屯所の中の小部屋で、小さなテーブルの前の椅子に座るよう勧められたので、その椅子に座ったら隊長さんはテーブルを挟んだわたしの向かいに座った。これって刑事ドラマの尋問っぽいな。


 わたしは街に迫るモンスターの脅威を取り除いたヒーローじゃなくてヒロインなんだからどうってことないけどね。


「お名まえは?」


「シズカと言います」


「職業は冒険者?」


「はい」


「先日冒険者ギルドにオーガの魔石を持ち込んだ若い女性の冒険者がいたという話を聞いたんですがそれもシズカさんでしたか?」


「はい」


「市長が腕の立つ人物を探しているようなんですが、わたしと一緒に市庁舎までご足労願えませんでしょうか?」


「その件については、もう話が済んでいます」


「やはりそうでしたか。それなら結構です。

 今回のことはわたしの方から市庁舎に連絡しておきます。おそらく金一封が出るはずです」


「ありがとうございます」


「シズカさんの今住んでいる場所を市庁舎では知っているんですよね?」


「はい。教えています」


「ご足労かけました」隊長がそう言って立ち上がったのでわたしも立ち上がり部屋を出た。結局取り調べ(・・・・)はそれだけで終わってしまった。


 屯所を出たわたしはそろそろお腹も空いてきたので、小鹿亭に帰ることにした。


 小鹿亭への道すがら、南門に向かう兵隊たちと何回かすれ違った。



 わたしは兵隊たちに道を譲り先ほどの戦いのことを思い出していた。


 円盤は、効果大だったけど烏殺の一撃でオーガを即死させてしまい、肝心の乱れ円盤攻撃での即死発動を確認できなかった。


 だけど、たった一度の烏殺の攻撃で即死が発動したところを見ると、即死発動確率ってわたしの幸運度補正でかなり高くなってるのかも? それを前提に行動することはできないけれどね。



 小鹿亭に帰ったわたしは部屋に戻って普段着に着替え少し遅くなったけれど昼食を食べた。


 昼食を食べていたら手が空いたのかニーナちゃんがやってきた。


「シズカさん、聞きました? 南門に向かってオーガがゴブリンを引き連れてやってきているって話。心配だわー」


「知ってるよ。オーガもゴブリンもわたしが全部たおしたから心配ないよ」


「またー。シズカさん冗談ばっかり」


 どうもニーナちゃんはわたしがそれなりの冒険者だとは思っていないらしい。見た目はごついわけでもない女冒険者なんだから無理もないか。


 じゃあ、サービスでさっき取ったばかりオーガの魔石を大公開しちゃおう。


「ニーナちゃん、さっき取ったばかりのオーガの魔石を見せてあげようか?」


「えっ! そんなの持ってるんですか?」


「ほら」


 アイテムボックスからオーガの魔石を取り出してニーナちゃんに見せた。残念ながら今わたしが手にしているオーガの魔石がさっき取ったばかりのオーガの魔石かどうかは分からない。名まえ書いてないし。


「ほんとだ。シズカさんてすごい冒険者だったんだ」


「まあね」


 尊敬のまなざしでニーナちゃんに見つめられてしまった。と思ったらニーナちゃんは魔石を見つめていた。


「きれい。こんな大きな魔石初めて見た」


 調子に乗ってほかの魔石も見せようかと思ったけれど、他の客たちがわたしたちの方を見ていたのでやめておいた。


 ニーナちゃんもしばらく魔石を眺めて満足したようで「シズカさん魔石を見せてくれてありがとう。仕事に戻るね」と言って厨房の方に帰っていったので、わたしは魔石をしまって食事を再開した。



 遅い昼食を終えたわたしは今日はゆっくりしようと部屋に戻ってベッドの上でごろごろしていた。


 午後4時ごろ、扉がノックされてニーナちゃんの声で『シズカさん、市庁舎からシズカさんに会いたいって人が来ています』と伝えてくれた。


「ありがとう。いま下りてく」


 ニーナちゃんの後を追うような形でわたしも1階に下りていったらゲランさんが立っていた。


「こんにちは」


「シズカさん。

 市長が今日のご活躍のことも含めてお話があるそうなので市庁舎までお越しください」


「はい。分かりました」


 ニーナちゃんに鍵を渡してゲランさんの後について小鹿亭を出たら、馬車が止まっていた。


 馬車にゲランさんと二人して乗り込んだところで馬車は走り出した。


「オーガをたおし、さらに100匹以上のゴブリンをお一人でたおされたとか」


「はい」


「市長より金一封が出ます。南方向からオーガがゴブリンを引き連れて出現したということは南の森にいたというオーガの脅威はなくなったと考えていいのでしょう。調査中の冒険者パーティーの帰還を待たず王都に出発していただくことになると思います。明後日、市庁舎から王都に向けて公用便の馬車を出すので、その馬車に便乗しての王都行きになると思います。

 おそらくその際はわたしが同乗しますのでよろしくお願いします」


「こちらこそ」



 そういった話をしている間に馬車は市庁舎前に止まった。


 馬車を降り、ゲランさんの後をついていき3階の市長の部屋に入った。


「シズカ殿、さすがだ。わたしが見込んだだけのことはある」


 ターナー伯爵はわたしのことを見込んでいたらしい。


「今回の見事な活躍で街は救われた。ありがとう。

 これは報奨金だ。金貨50枚入っている」


「ありがとうございます」


 金貨で膨らんだ小袋を手渡された。


「モンスターたちが南から押し寄せてきたということは、調査に当たった冒険者パーティーは森で遭難した可能性も高い。ではあるが、モンスターの脅威は去ったと考えていいだろう。

 ちょうど明後日都に送る馬車便を出すので、それに同乗して都に発ってもらいたい。明後日の朝9時に迎えを宿に送るからそれに乗ってこの市庁舎まで来てもらい、そこで馬車便に乗りかえてくれたまえ」


「分かりました」


 ターナー伯爵が向かいの椅子から立ちあがって自分の椅子に戻ったのでわたしも「失礼します」と言って部屋を出た。


 前回と同じ展開となった。これで一安心だ。



 市庁舎を出ようとしたところで、ゲランさんがわたしを追って走ってきて、馬車でわたしを小鹿亭まで送ってくれた。



 小鹿亭に帰ったところで明後日王都に行くことをニーナちゃんに告げ、先払いしていた代金を返してもらった。


「シズカさんがいなくなるとさびしくなるなー」


「王都から帰ったらまたここに泊りにくるから」


「約束だからね」


「うん。だいじょうぶ」


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