第56話 調査行8、巨大蜘蛛撃退。
迫る巨大蜘蛛に対し烏殺からボーナス矢を3度射た。いずれも狙い通り巨大蜘蛛の頭部に命中したはずだけど効果はなかった。
そこまでで烏殺はアイテムボックスにしまい、代わりにムラサメ丸を取り出した。ムラサメ丸を鞘から抜き放ち鞘だけはアイテムボックスに戻した。
巨大蜘蛛の前足はすぐそばまで迫っている。
巨大蜘蛛の頭まで距離は15メートル。少し遠いけど、真空切り、1撃目。2撃目。X攻撃のつもりで連続して左右の袈裟懸け真空切りを巨大蜘蛛の目に向かって放った。
真空切りは効果があったようで、2つある巨大蜘蛛の大きい方の目の赤い光が1つ消えた。
巨大蜘蛛はその攻撃で怒り狂ってしまい、前進を忘れ周囲の木々をメチャクチャになぎ倒し始めた。
その間残りの3人は少しずつ後退している。木の幹を簡単にへし折る巨大蜘蛛の質量攻撃をもろに受ければ吹き飛ばされて、最悪それっきりになってしまうわけだからいい判断だ。
ここは質量攻撃に最も相性のいい物理攻撃反転の防具を身につけたわたしが巨大蜘蛛をたおす!
ドクン。心臓の鼓動に合わせて何かがわたしの中に広がっていったのを感じた。アドレナリン? 視野がわずかに明かるくなり、体が今まで以上に軽くなった。
わたしは物理攻撃反転効果の付いていないムラサメ丸をいったんアイテムボックスにしまい、巨大蜘蛛に向かって突貫した。
わたしの突貫に気づいた巨大蜘蛛は体の向きを変えてわたしに向かって前足を振り下ろした。
グシュッ。という音とともに、巨大蜘蛛の前足の鎌状の先端が潰れた。ザマーみろ!
巨大蜘蛛の潰れた前足の先から体液が流れ出てきた。暗がりで色は分からないんだけど体に付着してはいけない感じがしたのでクリンをすかさずかけた。
わたしは巨大蜘蛛の潰れた前足に飛びつき、そこを足場にして足にしがみついた。
巨大蜘蛛の足には剛毛が生えていたけど、かえってそれが手がかり足がかりになってよじ登れそうな感じだった。わたしは足の付け根のその先の胸部に向かって巨大蜘蛛の足をよじ登り始めた。
自分の足に取りついたわたしを振り払おうと巨大蜘蛛はバタバタと足を動かすのだけれど、足の先が潰れたせいか動きはぎこちなく、わたしは振り落とされることもなくよじ登り続けることができた。
一度、隣の足の先で蹴られたけれど、わたし自身は何ともない代わりに巨大蜘蛛はわたしを蹴った足の先を痛めたようで妙な方向にねじれていた。
足の付け根まで上り切ったわたしはそこで抜き身のムラサメ丸をアイテムボックスから取り出して、何とか巨大蜘蛛の背中に飛び移りざまに巨大蜘蛛の背中に突き刺した。
ムラサメ丸の切っ先が巨大蜘蛛の背中の皮を貫通し剣身が半分ほど突き刺さった。わたしはムラサメ丸の柄を両手で持って杖代わりに立ち上がり、ムラサメ丸に全体重を乗っけて巨大蜘蛛の背中に鍔まで押し込んだ。傷口から体液があふれてて来たので慌ててクリンをかけた。
巨大蜘蛛は狂ったように暴れ回り始めた。これなら、ハーネス隊長たちに向かっていくこともないだろう。その代り、わたしの体は巨大蜘蛛の上でロディオ競技っぽく何度も浮き上がった。振り落とされないようムラサメ丸をしっかりつかみながらも、巨大蜘蛛の動きに合わせてムラサメ丸を動かし傷口を少しずつ広げてやった。
巨大蜘蛛の胸部の大きさは丸みを帯びているけどおおよそ縦横4メートル。厚さは3メートルくらいあったはず。ムラサメ丸の剣身は70センチほどなのでこのまま抉り続けていても、傷口が致命傷になるまでには時間がかかりそうだ。とは言っても今現在ロディオ状態なのでうかつにムラサメ丸を抜いて致命傷を与えられそうな頭部に移動もできない。結局このまま地道にダメージを与え続けるしかない。
わたしはそうやって少しずつ傷口を広げながら巨大蜘蛛の胸部に突き立てたムラサメ丸にしがみついていたら、巨大蜘蛛が地面に胸を落とした。わたしの体は浮き上がったけれど、ロディオで慣れていたのでどうってことはなかった。
そして、システム音が頭の中に響いた。
『経験値が規定値に達しました。レベル19になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル20になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル21になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル22になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。スピードが+1されました。巧みさが+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル23になりました。SSポイントを1獲得しました。知力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル24になりました。SSポイントを1獲得しました。知力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』
『経験値が規定値に達しました。レベル25になりました。SSポイントを1獲得しました。力が+1されました。精神力が+1されました。体力が+1されました』
『アクティブスキル、アドレナリン・ラッシュを取得しています』と、システム音が頭の中に響いて、それでおしまいになった。
『アドレナリン・ラッシュ?』
『身体能力が50パーセント上昇します。クーリングタイムはありませんがチャージ時間が必要です。チャージ時間1時間当り30秒、最大12分間発動時間が伸びていきます。アドレナリン・ラッシュはアドレナリン・ラッシュ発動を意識するだけで発動します』とナビちゃんが答えてくれた。
巨大蜘蛛を何とかたおしたわたしはコリンの体の上からナキアちゃんたちの方を見ると、ハーネス隊長が苦しそうにうずくまっていて、ナキアちゃんとキアリーちゃんが近くに立っていた。
わたしは巨大蜘蛛の体から飛び下りて隊長のもとに急いだ。
「ハーネス隊長?」
ハーネス隊長からの返事はなく、代わりにナキアちゃんが説明してくれた。
「隊長は蜘蛛が最期に吐き出した体液を首に受けたのじゃ。
相当強い毒のようでわらわの祈りもほとんど効いておらん。
蜘蛛の毒はわらわたちにも飛んできたのじゃが運よく難を逃れたのじゃ」
確かスターターパックの中に万能ポーションがあったはず。今こそ使う時だ。
アイテムボックスから取り出した万能ポーションは白い陶器の瓶に入ってコルクで蓋をされたものだった。手袋を外して蓋のコルクを抜き、
「ハーネス隊長、このポーションを飲んでください」と、言ってポーション瓶を差し出したのだけど、ハーネス隊長からは何の反応もなかった。
「もう意識も無くなっておる」
わたしはハーネス隊長の口に無理やりポーション瓶の口を突っ込んでポーションを流し込んでやった。ある程度はこぼれたけれど、むせることもなく大半のポーションは喉を通っていった。小説に出てくる回復ポーションはすぐに効果があるんだけど見た感じハーネス隊長の状態が良くなっているようには見えなかった。
これ以上のことはできないので、巨大蜘蛛との戦いで荒らされていない場所にハーネス隊長のために毛布を敷き、手袋とヘルメットだけ取って寝かせてやった。
そのあとわたしは巨大蜘蛛の頭に突き刺さっていたボーナス矢をなんとか3本とも回収しクリンできれいにしたあとアイテムボックスのなかにしまった。
おそらく胸部のどこかに魔石はあるのだろうけれど、巨大蜘蛛の胸は巨大だし、体液が猛毒ということだったので、わたしは魔石の回収は諦めた。
わたしたちは隊長の横たわる場所の近くで巨大蜘蛛の体液に汚染されていない平たい場所を各自で見つけて毛布を敷いて朝まで寝ることにした。
寝る前に確かめたわたしのステータス。
レベル25
SS=22
力:28
知力:18
精神力:17
スピード:30
巧みさ:34
体力:33
HP=330
MP=180
スタミナ=330
<パッシブスキル>
ナビゲーター
取得経験値2倍
レベルアップ必要経験値2分の1
マッピング2(64パーセント)
識別2(52パーセント)
言語理解2(78パーセント)
気配察知1(79パーセント)
スニーク1(44パーセント)
弓術3(39パーセント)
剣術6(88パーセント)
<アクティブスキル>
生活魔法1(23パーセント)
剣技『真空切り』
アドレナリン・ラッシュ